侍:水仁
第2話 湿った侍 その1
?「...来なイ」
?「...遅いな」
?「...」
?「今、何時だっけ?」
?「11時33分。」
?「ナニナニ? 皆ピリピリしてるゾ?
...あれ。誰か、反応してくれよ。俺っちバカみたい(泣)...」
?「...」
鳩(ああ、あれほど、あれほど言ったのに...)
話は前日に遡る―
白「はぁ!? 明日から働け!?
お前は鬼か!? 悪魔か!? 獄卒か!?」
白鳥使いは酷く興奮しながら反論する。それに反して、鳩使いは淡々と続ける。
鳩「心配ありません。僕の知り合いにうちの社長と親しい人がいますから。『白鳥使いさんのことを社員として雇って下さい!』って僕が必死こいて頼んだら、承諾して頂けました。今のあなたの事だから、どうせこれまでの実績を盾に、毎日を惰性で過ごしてやる!! とか考えてたんでしょうが、残念でした! 鳥術総本部にも話は通してあるので!!」
白「お...おおお...お前!!!
何てことしてくれたんだー!!!!!」
鳩「観念して下さい。あなたは明日から社会の歯車を回すんです。」
3時間かけて白鳥使いを説得したところ、ようやく彼は引き下がった。
白「話は分かった。でも何で明日からなんだ?
準備とか色々あるだろ。まさかとは思うが、ブラック企業じゃないだろうな?」
鳩「それが、社長に話を通したところ、今なら誰でも大歓迎だ。明日からでも是非来
てくれ。と言って下さったので、明日から、ということになりました」
白「お...お前ぇ~...(それで話通るの間違いなくブラック企業じゃん...)」
白鳥使いは再び絶望し、全てを諦めた。
鳩「それと、うちは9時出勤なんで。絶ッッ対に! 遅刻しないで下さいね!」
白「ハト、お前バカだなぁ~。
遅刻なんて俗物的なこと、俺がする訳無いだろwww」
鳩「どの口が言ってんスか!!! アンタ今日昼の2時に起きたでしょ!!!
寝坊なんてレベルじゃねえー!!!!!」
白「へいへい。心配すんな!
俺はやるときはやる男なんだよ。」
白鳥使いは笑い飛ばしながら鳩使いの肩を軽く叩いたが、鳩使いは一抹の不安を拭えないでいた。そりゃそうだ。今の白鳥使いに説得力など微塵もない。
そしてその不安は、当然のごとく的中する。
白鳥使いの入社初日、朝9時になっても彼が出勤してくることはなかった。もっと強く言っておくべきだったと鳩使いは後悔したが、数分の遅れは予想の範疇だったので焦ることはなかった。しかしこの後、彼は自身の考えの浅はかさを痛感することになる。
始業から2時間半ほど経った。8月の終わり頃ということもあり、まだ蒸し暑さが肌に纏わりつくような事務所の中で、通夜のような重苦しい空気が流れる。
理由は簡単だ。白鳥使いが出勤して来ず、連絡も取れなかったからだ。初日から連絡も入れずに遅刻する白鳥使いに対し、鳩使いや彼の同僚達は苛立ちをおぼえていたが、2時間半は遅刻の域をゆうに超えているということもあり、彼の身に何かあったのではないかと各々が心配し始めた。しかしそれがただの取り越し苦労だと、皆は思い知ることとなる...
それが発覚したのは、事務所の少し立て付けの悪い扉の開く音だった。
白「おはようございま~す。すいませ~ん、遅刻しました~」
扉の前にいたのは白鳥使いだった。杞憂だった。ただの遅刻だったことが分かり、その場にいる全員の、彼への心配は嘘のように消え去り、彼に対する怒りが沸々とこみ上げた。
白「うおっ、キャラ濃いなぁ」
彼は素知らぬ顔でそう言った。ここで働いている者がみな、どう見ても只者ではなかったからだ。
事務所内を見渡すと、緑色の肌をした鬼や、立派な髭を貯えたブリーフ一丁の魔人、侍、サイボーグなど、個性豊かな面々が一堂に会していた。中には眼鏡をかけたスーツ姿の男や、赤みがかった髪のおっさんもいたが、今そんなことはどうでもいい。
彼の姿を見るや否や、緑の鬼がまさに鬼の形相で詰め寄る。
「おい!!! 今何時だと思ってんだ!!!
もうすぐ昼休憩だぞコラァ!!!!!」
鳩使いも続けて彼を咎める。
鳩「何やってるんですか!! 遅刻するなと昨日あれほど釘刺しましたよね?!
時間返せー!!!!!」
白「え~ 昨日より早起きなんだから許してくれよ~。
そんな事よりさぁ、ここの奴ら癖強くね?」
鳩「僕らが言えた事じゃないですよ!」
鳥術の師範には、それぞれの流派の鳥の形を模した”鳥被り”と呼ばれる被り物の着用が義務付けられている。鳥術界では神聖とされているが、傍から見れば珍妙な被り物をした変人にしか見えない(若い衆の間で「鳥被りはダサいので師範には絶対なりたくない」と言われるほど)。白鳥使いや鳩使いも鳥被りを着用しているので、風貌は十分変である。(大事なことなので憶えててね☆)
昼休憩、白鳥使いは自身のデスクに突っ伏して爆睡していた。その様子を見て心底呆れた様子の鳩使いに、ある男が話しかける。
「ぬう。あの男、本当に大丈夫なのか?」
彼の名は
鳩「大丈夫じゃないです... 初日からこんな大遅刻をやらかすとは思ってもみませんでした...」
水「気苦労が絶えぬのだな。拙者も彼奴のさぽーとに協力しよう。困ったことがあれば何なりと申せ。」
鳩使いにとって、やすやすとそう言ってのけた水仁の背中は、かつての白鳥使いのように頼もしいものだった。
以外にも、白鳥使いは仕事の覚えが早かった。危なかった。覚えが悪かったらこれまでの事もあり確実にクビだった。
彼の怠け癖に同僚達は辟易していたが、数日もすれば慣れきってしまい、誰も何も言わなくなった。
そんなある日の昼下がり、水仁に一本の電話が...
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