第一章

主人公:白鳥使い

第1話 豹変した努力家

ハァ...ハァ...ハァ...


「急げ...」


ハァ...ハァ...ハァ...


「急げ...急げ...」


ハァ...ハァ...ハァ...


「どう...して...こんな...事に...」

「白鳥使いさん...」




 とある青年が”白鳥使い”の名を手にしてから5年、その青年が旅に出てから2年の歳月が経った頃、彼の後輩のもとに凶報が届いた。旅先で青年が何者かに断崖から突き落とされ、意識不明の重体であるという知らせだ。


 青年が”白鳥使い”となったその日以降、後輩はより一層修行に励んだ。その甲斐あって、彼は第81代鳥術鳩流:鳩使いとなった。22歳にして鳩使いの称号を得たのだ。彼が鳩使いとなるまでたゆまぬ努力を続けられたのは、ひとえに白鳥使いのおかげと言っても過言ではない。


 白鳥使いが旅に出た直後、彼は尊敬する先輩、白鳥使いと肩を並べて立てる武闘家になること、白鳥使いとの再会を果たすことを心に決めていた。

 そんな彼にとって、この知らせはあまりにも残酷で、一瞬にしてどん底に突き落とすのには十分すぎた。


 不幸中の幸いか、意識不明の白鳥使いは鳥術総本部が手配したヘリコプターによって、近隣の病院に運ばれた。数日後、症状が想定よりも重篤であったため、日本の病院へ転院した。




 鳩使いは途方に暮れる暇もなく走り出していた。そうでもしないと気が狂いそうだったからだ。


 その後、少し平静を取り戻した鳩使いはがむしゃらに走るのを止め、病院までの地図を頼りに走り出した。信号待ちは気の遠くなるように長く感じ、途中で大雨に遭ったが気にも留めなかった。ただただ白鳥使いの身を案じていたからだ。




 鳩使いの顔は汗と涙でぐしゃぐしゃだった。彼はまだ気持ちの整理ができていなかった。そのためズボンの左ポケットに入っているスマホが鳴動していることにも彼は気づかない。気づいたのは長い信号待ちの間だった。


 彼は息を切らしながら電話に出た。

鳩「申し訳ありません...気づかなくて...」

そ れは総本部からの電話だった。相手は重々しい口調、しわがれた声の男性だった。おそらく偉い人だろう。






「白鳥使いが...目を覚ましたそうだ...」






 知らせを聞いた鳩使いは再び走り出した。今度は無我夢中ではない。真っ暗な道に一筋の光が見えたような気分だった。彼の心模様を体現するかの如く、先刻まで降りしきっていた大雨は既に止んでいた。






―――注釈―――

ここから先はギャグパートです。思いっきりふざけます。

――――――――






 すっかり元気を取り戻した鳩使いは、病院へ到着すると飛んでいくように白鳥使いの病室の前に立った。その流れで興奮のあまり病室の扉を物凄い大きな音を立てて開けた。

鳩「お見舞いに参りました!!!!!白鳥使いさん!!!!!」

鳩使いは声を張り上げて名前を呼んだ。

 そこには目を覚ました白鳥使いがいた。久しく合わなかった憧れの先輩の無事に、鳩使いは喜ぼうとした。しかし...




白「おっすぅ~、久しぶりぃ~」

鳩「...えっ?」

 白鳥使いは開口一番、こう言い放った。その口調からは、かつての真面目さや品性は欠片も感じ取れない。文字通り人が変わったようだった。




 二人は数十分間とりとめのない会話をした。鳩使いは白鳥使いに自身が師範になったこと、白鳥使いが旅に出ている間の日本での出来事を伝えた。それと同時に、彼がかつて憧れた白鳥使いがもういないことを悟った。例えば、


鳩「白鳥使いさん。俺、鳩使いになれました。あなたの背中を追いかけ続けたおかげです。」

白「へぇー。それはおめでとさん。」


と返事が投げやりでアバウトだったり、


鳩「病院では何してるんですか?」

白「何してる? お前が思ってるより暇だぞ~。強いて言うなら、テレビ観てダラダラ。楽しいんだなぁ~これが。」


と怠惰な生活を送っていたり、極めつけは、


鳩「退院したら、聖地への旅は再開しますよね。何か手がかりは掴めましたか?」

白「旅!? いいよ面倒くさい。退院後は隠居してぐーたらしまーす。」


とかつての夢への情熱を完全に失ってしまっていたり。


 鳩使いはその時はじめて膝から崩れ落ちた。

鳩「ハハッ...笑うしかねえ...」

鳩使いの口調も変わった。




 鳩使いは数日間、

(今日こそは...今日こそは...もとに戻って...)

(あの人は今まで頑張りすぎたんだ。その反動で一時的にああなっているだけだ。)

と淡い期待を抱いて病院に通い続けた。しかし白鳥使いの性格は戻らなかった。


 そして1週間が経ったころ、鳩使いは遂に諦観した。




「本日で退院ですね、通院も必要ありません。おめでとうございます。」

鳩使いがいつものように面会に来たとき、看護師がそう伝えた。

鳩「えぇっ?! 聞いてないっすよ。」

鳩使いは豆鉄砲を喰らった。

「お聞きになっていませんでしたか? 申し訳ありません、患者様からお伝えされたものとばかり...」


 すかさず病室の奥から、白鳥使いの

白「あぁ~、言ってなかったっけ? メンゴメンゴ~。」

という声が聞こえてきた。鳩使いはその時はじめて憧れの先輩に苛立ちをおぼえた。






「何かありましたらいつでもご連絡ください。それでは、お大事に。」

鳩「本当に、ありがとうございました...」

白「あざっしたぁ~。」

退院した白鳥使いと付き添いの鳩使いは病院を後にする。


白「はぁ~ぁ!!! 久しぶりのシャバだぁ! シャバダシャバダ」

鳩「情緒がおかしい...」

白「うっし!!! 飲み行くぞ!!!!! 酒だ酒だ!!!!!!!

  酒が飲めるぞ~」

鳩「もうヤダこの人...」


 鳩使いの後ろで、退院ハイになった白鳥使いは悪酔いしたかのようにはしゃいでいた。一方、鳩使いは

鳩(この人は一生このままなのか...あの時僕が憧れた白鳥使いさんは、もう...)

と物思いにふけり、ブルーになっていた。




「ねえねえ。お金貸してくんない?」

 どこからかそんな声がした。見ると、人気のない公園で、中学生くらいの少年2人が立派なガタイの悪漢3人に囲まれているではないか。2人は怯えていた。どう見てもカツアゲというやつだろう。

鳩「なっ?! 今時カツアゲなんて... 止めないと――――――」

鳩使いがそう言って彼らのもとへ向かおうとしたその時、




白「ストーップ!!!!!」

白鳥使いが既に悪漢の1人の肩に手をかけていた。

白「少年達。この人達は知り合いかい?」

「ああん? 何だテメー?」


 悪漢が定型文で威圧するが、彼は構わず続ける。

白「他人の会話に割り込まないで下さる?(裏声) 俺は少年達に訊いたんだ。

  で、この人達は知り合いかい?」

「ち...違います...」

少年の一人が怯えながら答えると、

白「よく言った少年!!!!!」



「放せテメ――――――」

白「寸勁!!!!!」

白鳥使いが寸勁を打つと、悪漢は地面に伏す。痛みのあまり立てないらしい。

「こいつやべぇ!! 逃げるぞ!!」

「お、おう!!」

残りの2人はすっかり縮みあがり、立てない1人を抱えて逃げて行った。




白「フン。語彙力のない奴らだ。」

白鳥使いが柄にもなく格好つけた直後、少年が

「あ、あのっ!! ありがとうございました!!」

とお礼を言った。

白「おう。これからは気いつけろよ!」

少年2人は深くお辞儀をし、そそくさと帰っていった。




鳩(ああ、あの人は変わってしまった。でも...)




白「おまたせハト。終わったぞ。

  今日は飲むぞ!! 酒酒!!」

鳩「...しょうがないっスね!!」

鳩使いのブルーな気持ちは完全に晴れていた。白鳥使いに対する口調も気が付けばフランクになっていた。


 この日、2人で食べた焼き鳥は人生で20番目くらいに美味しかった。






 翌日

白「よ~し。今日からNEET生活の始まりだぁ~!!!」

鳩「させませんよ」

白鳥使いの何気ない一言に、鳩使いが食い気味に返した。


鳩「あなたには明日からここで働いて頂きます。」

 鳩使いはとある会社の求人ページを白鳥使いに見せた。

 困惑する白鳥使い、構わず続ける鳩使い。

鳩「この会社の閑崎支部です。実は僕もここで働いてますから安心してください。

  1人やめちゃったんでちょうどよかった。」

白「閑崎支部!? 懐かしいなオイ ...って、俺は働かねぇぞっ!」


 彼が驚くのも無理はない。閑崎町は白鳥使い、鳩使いの故郷なのだから。総本部に寄生してぐうたら余生を過ごすつもりだったのに、故郷へ帰省して働けと言われたのだから。






 ここから元努力家、白鳥使いの第二の人生が始まる。

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