幼馴染と二人で旅行する

「お互いに、第一志望に合格できて良かったね」

「本当にな、おかげで思う存分今回の旅行を楽しめるってもんよ!」


 両親にお願いして、今日から二人きりで一泊二日の卒業旅行。近くにある海沿いの温泉地に特急列車で向かっている。互いの両親の付き添いありの旅行なら何度も行ったが、二人きりなのは今回が初めてだ。


「ねぇこのちゃん! 海だぞ海! 綺麗だな~」

「時期のせいで泳げないのは残念だけどね……でも、綺麗だね」


 太陽の光を反射してきらきら輝いている海は本当に綺麗だ。海が見えたということは、目的地はもうすぐだ。




「着いたー!」


 無事目的地に到着した。温泉街特有の和風な雰囲気と、ところどころからあがる湯けむりが私達を出迎えてくれる。旅館のチェックインまで時間があるので、観光しながら向かう事にする。




「このちゃん! あれ食べたい!」


 ひなちゃんが指す場所には、一軒の甘味処があった。多分店先で大きくアピールされているいちご饅頭が食べたいのだろう。


「少し歩き疲れたし、あそこで休憩しよっか」


「やた! いちご饅頭美味そうだな~」


 予想通り、あれが目当てだった。




 美味しい甘味をいただいたあと私たちは、旅館のチェックインを済ませ、客室に着いた。


「お風呂! 露天風呂じゃん!」

「露天風呂付の客室の旅館にしたんだ。いいでしょ?」

「早速入ろうぜ!」

「いいよ。浴衣貸し出ししてたから、お風呂からあがったらそれ着ようね」




「湯船に浸かる前に、まずは体洗うよ」

「わかった!」

「体洗ってあげるから、こっちおいで」

「いつもありがとうな!」


 椅子に座ったひなちゃんの頭から足まで洗っていく。昔から一緒にお風呂に入る時いつもやっているので、これにも手慣れたものだ。


「次は私がこのちゃんを洗う番な!」


 いつも通り交代し、ひなちゃんに体を洗ってもらう。洗ってもらう途中、胸を揉まれる。ちなみにこれも、いつものことだ。


「またおっぱい大きくなったなこのちゃん~」

「もう……また触って……というかなんでわかるのよ」

「私のは全然大きくならないのになぜだぁー」


 そんなやりとりをした後、のんびり二人で湯船に浸かった。




「このちゃん浴衣可愛いな! めっちゃ似合ってるぞ!」

「うん、ありがとう……」

「ねぇねぇ私は? 私は?」

「もちろん、似合ってるよ」


 ひなちゃんにベタ褒めされて、照れるが、とても嬉しくなった。そんなやり取りをしていたら、夕食が運ばれてきた。挨拶を一言交わして旅館の客室係りの人が退室した後、ひなちゃんが喋る。


「夜ご飯美味しそう! 見たことないやつもある!」

「自慢の海の幸のメインの夕食なんだって、早速食べよっか」

「いただきまーす!」

「いただきます」


 二人で目の前の料理を口に運ぶ。


「美味しい!」


 ひなちゃんはそう言うと、バクバクと料理を食べ始めた。私もゆっくりと料理を味わっていく。


「このちゃん! これめっちゃ美味しい! はいあーん」

「ん!? あーんむっ」


 あーんで差し出された料理を脊髄反射で口を開けて食べる。確かに、これはかなり美味しい。


「甘味処でもいちご饅頭いっぱい食べてたでしょ? あんまり食べ過ぎたら、体重が増えちゃうよ?」

「食べた分動けば問題ない! というわけでこれ食べたら卓球しよ!」

「確かにスペースあったけど、さっきお風呂入ったばっかりじゃん……汗かいちゃうよ? ……まぁ、もう一回お風呂に入ればいっか」




 卓球で汗を流した後、もう一度お風呂に入る。さっきとは違って、辺りはすっかり暗くなっていた。


「お月様、綺麗だね」


 お互いに大好きなのはわかってるけど、そんな事を言ってみる。


「うん! そうだな!」


 意味を知らなかったのか。そんな返事が返ってきた。空回りした気分で少しもやもやした私は、ひなちゃんに近付いて、軽い口づけをした。


「んっ……ちょっ!? いきなりどうしたんだ!?」

「したくなったから、しただけだよ」

「む~、なんだそりゃ」




「それじゃあ、明日も早いし、お布団入るよ……隣おいで?」

「はーい、お邪魔しまーす」


 入って早々ひなちゃんは抱きついてくる。まだ夜は少し寒い季節だけど、彼女がとっても温いおかげで、ぐっすり眠る事ができた。




 翌朝、美味しい朝ご飯を食べ、旅館を出た私達は、今回の旅行で最後に寄る予定の海沿いにある水族館に着いた。


「大きい水族館だな!」

「そうだね。はぐれないように、しっかり手繋ごう?」

「わかった!」


 そう言って、二人で恋人繋ぎをする。恋人になってもうすぐ二年。これももう、自然と当たり前になってきたと思うと少し頬が緩んだ。




「おぉ~、あの魚、おっきい……」


 二人でゆっくり水族館の中を歩く、幻想的な館内に多種多様な生物が展示されており、見てて飽きない。


「まもなく、11時より、ペンギンショーが……」

「ねぇひなちゃん」

「うん、わかってる。このちゃんペンギン大好きだもんな」

「ありがとう、飛沫で濡れるかもしれないけど、一番前でいい?」

「もちろん!」


 ショーの会場に急いで向かい、一番前の席に座る。ギリギリ間に合った。ショーが始まる。


「ひゃぁ……」

「うおぉ!」


 案の定、私たちはずぶ濡れになった。




 その後は、変な動きをする生き物を見て笑ったり、館内レストランでお昼を食べたり、水族館の中のショップでお土産を買ったりした。


「ごめんひなちゃん、ちょっとお手洗い」

「わかった、ここで待ってる」


 お手洗いを済ませ、帰ってきたら、ひなちゃんが大きなペンギンのぬいぐるみを抱えていた。


「そ、それどうしたの?」

「旅行を計画してくれたお礼だ! ちょっと物欲しそうな目で見てたでしょ? はい!」


 そういってぬいぐるみを渡される。昔からひなちゃんは、たまにかっこよくなるのが、本当にずるいなぁ。嬉しさで胸が熱くなる。


「ありがとう。旅行の思い出として大事にするね」

「どういたしまして!」




 帰りの列車、隣に座るひなちゃんは少し眠そうにしている。


「今回の旅行、楽しかった?」

「うん、たのしかった……」

「ありがとう、頑張って計画した甲斐があったよ」


 限界を迎えたひなちゃんは、目を瞑り、こちらに寄りかかってくる。繋いでいた手は、それでも離されず、ギュッと握っていたままだった。

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