第四話 得られた確信
「何か分かったのか?」
廊下を歩いていると、間宮が聞いた。
「あと少しで、確信が持てそうだ。結論はそれまで待ってほしい」
僕は慎重にそう言った。
「目」の力は、万能ではない。パズルのピースがいつも全部同じ所にあるとは限らないのだ。
「他に、サークルの人や話を聞けそうな人は?」
「部室に集まってるの以外だと居場所が分かるのは……相原!
「いきなり押しかけて大丈夫か?」
「ちょっと待ってくれ。電話する。……あ、そうか。電話なら他のサークルの奴もだいたい知ってるから、呼び出せばいいだけか」
「いや、全員に話を聞かなくてもいいんだ。多分その相原さんで確信が持てると思う」
「じゃあ、電話してみるよ」
間宮はスマホをポケットから取り出すと電話しだした。
二十分後、キャンパスのベンチで待っていると女の子がやって来た。
「来た! 相原だ!」『全く、遅いよなあ……』
ショートカットの活発そうな女の子だ。正直ミステリーサークルというよりも運動系のサークルの方が似合いそうな格好だ。「目」で見ても活発そうな小型犬に見えたが、その表情はどことなく暗い気がした。
「あなたが……探偵さん?」『ちょっと可愛いし、好みかも……』
間宮がどう紹介したのか知らないが、僕に向かってそう言った。
「いや、探偵というのは言い過ぎだと……」
僕は横目で間宮を見た。
『いや、ほら……本当のことを言う訳にもいかないからさ……そこは適当に……』
黒猫が口ごもる。
「違うんですか?」『えっ? 間宮さんは自信ありげな口調だったけど……』
「調べているのは事実だけど、探偵というのは言い過ぎかな。身近でこんなことが起こるといろいろと不安だと聞いて――」
我ながら、もう少しうまく言えないものだろうか。
「確かに不安ですよね……警察も調べてくれているみたいですけど、いつ捕まるかなんて分からないし……」『なんだ。大したことないのか……残念』
「そ、そうだよ。いろいろと心配になって、調べられることは調べてみようと……こいつは昔から勘が良いからさ……」『う~、ちょっと気まずい。早く質問に入ってくれ』
間宮が目で訴えてくる。
「それで、殺された山崎さんのことで少し聞かせてもらってもいいですか?」
「ええ、いいけど」『それで何かが分かるのなら……いやいや、素人の探偵さんに分からないと思うけど。小説やドラマじゃないんだから。過度の期待は禁物。でも……』
すがれるものならすがりたい――そんな気持ちが伝わってくる。
「じゃあ聞きますが、殺された山崎さんはどんな人でした?」
「真面目で几帳面で、面倒見も良かったし……本当に殺されたのが信じられない」『本当に良い人だったけど、酔うと殺人事件の話題を嬉々として語るのだけは苦手だったなあ……創作なら好きだからミステリーサークルに入ったけど、最近起きた事件まで面白がるのはどうかと……』
予想通りの反応だ。僕は質問を続けた。
「事件の起きた晩の午前一時、何をしてました?」
「借りてきた映画のDVDを一人で見てた」『あれ怖かったけど、実際に事件が起きた後だと……今思うと、単なる作り物だとしか思えない』
「最後の質問。動機や犯人に心当たりは?」
「全然分からないわ。全部を知っている訳ではないけど、殺される程悪いことしてたとは思えないし」『悪いことはしてなかったけど、実際の残虐事件について書かれた本を楽しそうに読んでたり、ちょっと不気味なところはあったよね』
「ありがとうございました。これで質問はお終いです」
僕は頭を下げて、彼女を帰した。
「あれで、何が分かったんだ?」
彼女が帰ったのを見計らって、間宮がそう聞いた。
「犯人の動機だよ」
「動機?」
「そう、動機」
間宮は分からないという顔をした。
「しかし、あの質問の順序だと、犯人よりも先輩が気になってるように思えるな」
「そうだよ」
僕はそっけなく答えた。
「え? え? どういうことだ?」
「サークルのメンバーの連絡先は分かると言ったよな。今から言う人を呼び出してほしいんだが――」
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