第44話 異常な数字
「どうかしたのか?」
「いや、どうかしたっていうかどうかしてるっていうか……太一くんがプロデュースしてるこの子って、昨日初配信をしたばかりっすよね……?」
「そうだけど、それがどうかしたのか?」
「し、信じられないっす……さすが太一くんって言うか、こんなの前代未聞っすよ……」
「おいおい本当にどうしたんだよ? 俺にも分かるように説明してくれよ」
「こ、これを見て下さいっす」
照康は赤いケースに入ったスマホを見せてきた。画面には片目を瞑っているVテレサの可愛らしいチャンネルアートが表示されている。特に変わった様子はないように思えるが、チャンネル登録者の数字に目を向けた俺は限界まで瞳孔を見開いた。
「チャンネル登録者数150万人!?」
俺は危うく腰を抜かしそうになった。今朝見た段階では1万を超えた程度だったが、たった半日で信じ違い数に到達している。
一体何があったのかまるで見当が付かない。いくら顔バレでアメリカ人の美少女だと発覚したにしても、一晩でこれほどの数字に達するなど前例がない。
「ね、ねえお兄ちゃん! 大変だよ! テレサ先輩が! テレサ先輩が……!」
梓がスマホを握り締めた状態で動揺を露わにした。
「どうしたんだ!? テレサに何かあったのか!?」
「い、今フォロワーさんからリプが来たから見てみたんだけど、と、とにかくこれを見て!」
梓がスマホを突き出してきた。俺はスマホを受け取り、食い入るように目を凝らした。
左上にInstagramと文字が表示されている。丸枠のアイコンにはテレサの顔写真が載っている。人差し指で画面を下にスライドしてみると、色んなシチュエーションで撮られたテレサの写真と、姉と思しき美人のアメリカ人とのツーショット写真が複数出てきた。他にもアメリカの豪華な建物や大自然などの写真が大量に投稿されている。自撮りに一切抵抗がないアカウントは如何にもアメリカ人らしい。
「これってテレサのインスタ、なのか?」
「そんなの見れば分かるでしょ! フォロワー数はちゃんと見た!?」
「フォロワー数?」
俺は指で画面を上にスライドし、フォロワーの項目に画面を合わせた。
「えっと、フォロワー数、1、10、100、1000……6500万人!?」
桁外れの数字に度肝を抜かれた俺はその場で尻餅をついた。
「ど、どういうことすか!? それって太一くんがプロデュースしてる子の話すか!?」
「お兄ちゃんこれどういうこと!? ねえ何か知ってるの!? 今すぐ説明してよ!」
「し、知ってたらこんなに腰を抜かすわけないだろ!」
俺は衝撃のあまり立ち上がることができなかった。インスタフォロワー数日本一を誇る女芸人でさえ1000万に届くか届かないかの数字だったはずだが、その6倍以上の数字をテレサは誇っているのだ。
「て、テレサは一体何者なんだ……!?」
俺は梓のスマホを操作し、もう一度テレサのインスタを確認した。
投稿されている写真はテレサ本人だが、よくよく見るとアカウント名が違う。そっくりさんの別人さんなんじゃないか、と一瞬安堵したが、覚えのあるアカウント名に俺は首を傾げた。
「テレサ・エヴァンス……?」
「「テレサ・エヴァンス!?」」
梓と照康が申し合わせたように声を揃えた。
俺は二重三重に畳みかけられた衝撃な事実に声を失った。
テレサ・エヴァンスは、かつて一世を風靡した子役の名だ。
知的障害で7歳程度の知能しか持たない父親の元で育てられた娘の役。
手首から先しかないキャラが有名な映画に登場する丘の上のファミリーの女の子役。
家に押し入ろうとする強盗を手製の罠を駆使して追い払おうとする少女の役。
可憐な容姿と子供とは思えない名演技で数々の名作映画で主演級を演じてきた、伝説の子役。その知名度は世界規模に及んでおり、その後も映画界で華々しい活躍を見せると期待されていたが、ある日突然表舞台から姿を消したことで、日本では懐かしい名として記憶に留まっていた。が、海外ではインスタで生存が確認されていたのだ。
そして、その当人が何故か日本に移住し、俺と梓の手を借りてVtuberとして活動を始めている。夢にも思わない展開に俺はただただ驚くばかりだった。
「そ、そうか……チャンネル登録者数の異常な伸びは海外勢に存在が知れ渡ったからか……」
インスタフォロワー数6500万人を誇るほどの知名度があれば得心がいく。
「ど、どんどん数字が伸びてるっすよ……今160万を超えたっす……」
「ま、まさかテレサ先輩があの……あんなに美人で一般人なわけないと思ってたけど……そんなにすごい人だったなんて……」
梓と照康は唖然としている。俺も同じ気持ちだったが、いつまでもこうしてはいられなかった。
「……テレサに話を聞いてみよう」
引退した後も世界的な影響力を持っているにも関わらず、テレサはそれを用いずにVtuberとして活動を始めたのだ。思えばVtuberを始めた動機からしても何か訳ありの様子だった。テレサを尊重して言及はしなかったが、これほどの大事になってしまった以上、俺たちにも事情を知る必要がある。
俺は電話にメッセージとどうにかしてテレサに連絡を取ろうと試みたが、結局その日はテレサと話をすることはできなかった。
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