第18話 不合格でも頑張ろうのオフ会
「これからどうする? 正直テレサを社会人のおじさんだと思ってたから段取りは会任せるつもりだったんだ。何も決まってないなら俺がこれから決めるけど」
「そうですね。私としては太一さんとお食事できただけでも満足ですが、今日の目的を忘れているのは感心しませんね」
「目的? あっ、そうか、不合格でも頑張ろうのオフ会だったな」
「そういうことです。なので! 今日は気が済むまでぱーっと遊びましょう!」
テレサは笑顔で両腕を広げた。そういえばここ100日間はYouTuber活動に専念していたために誰かと遊ぶようなことはしなかった。引退してまだ日が浅いので本調子を取り戻せてはいないが、せっかくこんなに可愛い女の子と二人きりで遊べるのだ。楽しまないのは損だ。
「良いな、それ。乗った。今日はとことん遊び尽くそう」
「はい! というわけで次はケーキを食べに行きましょう!」
「まだ諦めてなかったのか」
俺は苦笑いした。さすがはアメリカ人のハーフ。本場の食欲はレベルが違う。
俺はその場で会計を済ませた。テレサの分も俺が出すことにした。ラーメンを奢れるだけのお金が財布に入っていて良かった。テレサは申し訳なさそうにしていたが、こういう時くらい男を見せないと格好が付かない。ということで「気にしなくていいよ」と言い含めると、テレサはぺこりと頭を下げた。
俺はテレサを連れて駅前を歩いた。
テレサは誰もが振り向くほどの美少女だ。隣に俺が歩いていても道行く男たちの視線が集まってきた。「何であんな冴えない奴と一緒にいるんだ?」という男たちの囁き声も聞こえてきた。俺も同意見だった。
「どこか行きたいところとかあるか? ケーキ屋以外で」
「そうですね……デートの定番と言えばやっぱりゲームセンターじゃないですか? パンチングマシンをこうしてストレスを発散しましょう!」
テレサは素人丸出しのファイティングポーズを取ると、へろへろのワンツーを披露した。当たっても全然痛くなさそうだが、気になるワードを口走っていたので、俺の意識は完全にそっちに向いていた。
「で、デートじゃなくて、オフ会だろ?」
しどろもどろになりながら指摘すると、テレサは顔を真っ赤にした。
「そ、そうでした! すみません! 男の人と二人で遊ぶのは初めてだったので、これってデートなんじゃないかなって思い込んでました!」
「いやいやいや、俺は別に気にしてないぞ。テレサ的にはデート扱いでいいのかなーって思っただけで……」
「本当にすみません! デートだなんて言って、迷惑でしたよね……?」
「そ、そんなことないって! むしろ光栄と言うか……いや今のは忘れてくれ」
俺は人差し指で鼻頭を掻いた。
こんなの俺には刺激が強すぎる。男と二人で遊ぶのは初めて発言とか、今までラインやSNSで交流があったにしても、直接会うのは今日が初めてなのに距離感がやけに近いし、無防備と言うべきか、隙が多い場面がちょこちょこ垣間見える。このままだと思春期男子にありがちな淡い期待と盛大な勘違いをしてしまいそうだ。
様子を窺うようにちらりと目を向けると、テレサは「忘れられそうにないんですけど……」と人差し指を突き合わせている。何だその仕草は。あざとい。あざと可愛いにもほどがある。気を抜くと抱き締めてしまいそうだ。俺は自戒のために太ももを強めに抓った。
「と、とりあえずゲームセンターに行ってみるか?」
「そ、そうしましょう」
テレサは何度も首を縦に振った。俺はバグったゲームキャラのようなぎこちない動きで歩いた。周囲から奇異の目を向けられたが、そんなことはどうでもよかった。
実を言うと、女の子と二人で遊ぶのは俺も初めてだ。
駅前のショッピングモールの中にある大型のゲームセンターに足を運ぶと、大勢の客たちがクレーンゲームに熱中していた。家族連れやカップルが数を占めている。俺たちも傍目からは美女と野獣のカップルに見えているはずだ。光栄だが恥ずかしい。
もちろんテレサとは恋仲ではないが、この場はスマートにエスコートしてカッコいいところを見せたい、と思うのは男の本能というものだ。テレサと良い感じになりたいとかそういう意味ではなく、男は自分のキャパを逸脱しない範囲で見栄を張るくらいが丁度良い、と恋人もいないのに好奇心で買ったデートのノウハウ本にも記載されていた。これはデートではないが、女の子と二人で出掛けるのだから少しくらいは意識しておくべきだ。
「駅前にこんなに大きなゲームセンターがあったんですね! すごい!」
テレサはずらりと立ち並ぶゲーム筐体を前にして目を輝かせている。
そんな純粋な姿を見ていたら俺だけ意識しているのが恥ずかしくなってきた。
よし、スマートにエスコートするのはなしだ。この場は目一杯楽しむことだけ考えよう。俺は気持ちを切り替え「ゲーム機全部制覇するぞ!」と拳を突き上げた。テレサも「おーっ!」合わせてくれた。ダメだ端から見たらバカップルだこれ。
「やっぱり最初はこれですよね」
パンチングマシンの前に立ったテレサは、赤いグローブを嵌めた両拳を打ち付けた。ゲーム画面に隕石が映し出されると、自動でミットが起き上がってきた。
「これが私の怒りです!」
テレサはミットに右ストレートを炸裂させた。筐体の上にある画面に表示された数値は平均を大きく下回っていたが、女子の力ではこんなところだろう。俺もテレサの後にやってみたが、平均よりやや上の数値だった。どちらもパッとしない結果だ。
その後も俺たちはゲームセンターを堪能した。テレサが欲しがっていたぬいぐるみをゲットした時はその場でハイタッチをして喜びを分かち合った。もちろんぬいぐるみはテレサに贈った。テレサは「大切にします」と喜んでいた。
ゾンビが襲ってくるガンシューティングゲームもプレイした。テレサが本物のゾンビを間近にしたように悲鳴を上げながら銃を乱射する姿には堪らず噴き出してしまった。何か事件があったと勘違いして店員さんが集まってきたことも相俟って腹がよじれるかと思った。
俺たちが生まれる前に発売された格闘ゲームで対戦もしてみた。俺は青いチャイナ服を着ているキャラを、テレサは鬼のような形相をしている道着姿のキャラを選んだ。結果は俺の全敗だった。テレサが上手いというより俺が壊滅的に下手だった。
テレサは「私天才かもしれません」と鼻を高くしていたが、後から乱入してきたゲーマーにこてんぱんされた。俺は涙ぐんで俯くテレサを慰めた。ジュースを奢ったら少し機嫌が直った。
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