ブルータス、お前もか~ロンギヌス先生に呼び出されたオレとブルータス~

「あれ? ブルータス。どうしたんだ、こんなとこで」


 放課後。

 職員室前を通りかかると、学級委員長のブルータスと出くわした。

 委員会の仕事があるとか言ってさっさといなくなったはずの彼に、である。


「やあ、カエサル。奇遇だね」


 職員室は3階廊下にある。

 用がなければ立ち寄らない場所だ。


「実はね、ロンギヌス先生に呼ばれたんだ」

「ロンギヌス先生に?」

「なんでも今回の中間テストの件で話があるって」

「ブルータス、お前もか。オレもロンギヌス先生に呼ばれたんだよ」

「カエサルもかい?」

「なんだろうなー。気になるな」


 ブルータスはクスクス笑いながら「そうだね」と言った。


「……? なんで笑ってるんだ?」

「いやー、ぼく本当はなんとなく呼ばれた理由がわかってるんだよね」

「ブルータス、お前もか。オレもなんとなくわかってる」

「きっと今回の数学のテストで赤点とったからだと思う」

「ブルータス、お前もか。オレも数学赤点だったんだ。きっとそれのことだろうな」

「へえ。頭のいい君が赤点だったなんてね。ちなみにカエサルは何点だったの?」

「8点」

「ぼくも8点」

「ブルータス、お前もか」


 オレは驚いた。

 ブルータスこそオレ以上に頭のいい生徒なのに、まさか数学でオレと同じ8点をたたき出してたなんて。


「今回は数学だけが異様に難しかったからね」

「わかるわかる」

「他はよかったんだよ、すごく」

「オレも」

「国語は85点だったし」

「ブルータス、お前もか。オレも85点だ」

「英語は94点だったし」

「ブルータス、お前もか。オレも94点だ」

「社会にいたっては100点満点だったし」

「ブルータス、お前もか。オレも社会だけは100点だったぞ」


 ことここに至って、オレはようやく気が付いた。


「ちょっと待て、ブルータス。ちょっと変じゃないか?」

「なにが?」

「なんでオレとお前の点数が全部一緒なんだよ」

「ああ、それはね」


 そう言ってブルータスはクスクス笑った。


「君の答案用紙をカンニングさせてもらったからなんだ」


 さらりと白状するブルータス。


 カンニング──……。


 学校生活で絶対やってはいけない禁忌タブーの一つ。

 バレたら即生活指導。

 下手すれば停学。

 悪質なら退学もあり得る。

 まさかそんなヤバい橋を頭のいいブルータスが渡っていたなんて。


 しかし彼はいっこうに気にするふうでもなく言った。


「でもさ、それは君も同じだろ? カエサル」

「え?」

「君だって、斜め前のクレオパトラちゃんの答案用紙をカンニングしてたじゃないか」

「ど、どうしてそれを……」


 言いかけて慌てて口をつぐんだ。

 しかし時すでに遅し。

 この言葉はもはや認めてしまったことを意味する。

 にしても、まさかブルータスにオレのカンニングがバレていたなんて。


「き、気づいてたのか?」

「ふふふ、そりゃ気づくさ。だってカエサルの点数、クレオパトラちゃんとまったく一緒だったもの」

「ど、どうしてそこまで……」

「いろいろぼくもコネがあるからね」

「つまり……オレとブルータスとクレオパトラ、3人の点数がまったく一緒だったってことで疑われたわけか?」

「そう。それで前の席に座っていたクレオパトラちゃんは違うだろうということで、後ろの席のカエサル、そのまた後ろの席のぼくが呼ばれたのさ」


 はあ、とため息をつく。


 まさかブルータスもオレがカンニングして写した答案用紙をカンニングしていたなんて。


「でも、ぼくが一番驚いたのはそこじゃないんだ」

「なんだ?」

「あのクールで知的なクレオパトラちゃんが数学で8点だったことのほうが衝撃だと思わない?」

「ブルータス、お前もか。オレもまさかクレオパトラが数学で8点をたたき出すなんて思わなかったよ。意外と理系は苦手なのかも」

「あはは、ならぼくと一緒だ」

「ブルータス、お前もか。オレも理系は苦手だ」

「カエサルとは気が合うね。よし、じゃあ二人で仲良くロンギヌス先生に怒られに行こっか」

「ああ」



 その後、案の定ロンギヌス先生はオレたちのカンニングを見破っており、生活指導という名の槍が落とされた。


 この件以降、オレとブルータスは親友となるのだが、その後の生徒会長選挙でまさかの裏切りにあって

「ブルータス、お前もか!」

 と叫んだ言葉が学校史に残るのはもう少しあとのことである。

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笑う門には福来たる~コメディ短編集~ たこす @takechi516

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