純真無垢なオレの可愛い妹が、コーンスープのつぶつぶが出て来なくて「死ね」とか言い出した
「ねえ、お兄ちゃん」
青空の下、階段に座って飲み物を飲んでいると、妹の
「なんだ、美玖」
オレは妹には目もくれず、おしるこの缶に口をつけたまま返事をする。
「お兄ちゃんってさ、缶のコーンスープって飲んだことある?」
「缶のコーンスープ?」
言われて目を向けると、妹の手にはなるほど、缶のコーンスープが握られている。
珍しい。
いつもはカフェオレとかココアとかミルクセーキとか、甘ったるいものばかり飲んでいるのに。
どんな心境の変化だろう? と思いながらも、オレは「ああ、あるよ」と答えた。
「……これってさ、中のつぶつぶどうやって取るの?」
「中のつぶつぶ?」
「コーンが出てきてくれないの」
その言葉にオレはピーンときた。
ははーん。さては妹のやつ、自販機のコーンスープを初めて買って飲み方がわからないんだな。
なんて可愛いやつなんだ。
オレは「ふふ」と笑いながら教えてやった。
「それはなあ、飲む前によく振ってスープと一緒に流し込むんだよ。最後に残っちゃったらなかなか出て来ないぞ」
「そうなの?」
「コツがいるんだよ、コツが。上級者の飲み物だぞ、それ」
「……そうなんだ」
妹はつぶやきながら缶を口に当てて逆さまにしてトントン叩きだした。
「な? 出て来ないだろ」
「……うん、出て来ないね」
言いながらも一生懸命缶の底を叩く妹の可愛いこと可愛いこと。
尊い。
ずーっと見てられる。
兄のオレが言うのもなんだが、妹は美少女だ。
純真無垢、清楚華憐、容姿端麗……etc
ありとあらゆる誉め言葉を足しても足りないくらい最高に可愛い。
事実、毎週といっていいほどラブレターをもらっている。
けれども妹はそれをことごとく断っているらしい。
なんでも「お兄ちゃんがいるから」というのが決まり文句だそうで。
正直、断る理由としてはだいぶNGワードな気がするが、要するに妹はそれだけオレのことが大好きなお兄ちゃんっ子なのだ。
そんな妹が頑張って中のコーンを出そうとしている。
可愛くないわけがない。
「おーい、出て来ーい」
しかも話しかけ始めた。
可愛すぎる。
「おーい」
「ははは、話しかけても出て来ないものは出て来ないぞ」
「おーい」
「はははは 」
「……ねえ、お兄ちゃん」
「なんだ?」
「このつぶつぶ、クソだね」
………。
………。
………。
……はい?
「こんなに振っても叩いても出て来ないなんて」
「そ、そうだな」
聞き間違いか?
可愛い妹の口から「クソ」という単語が飛び出してきた気がする。
「まあ、コーンスープのねっとり感はハンパないからな」
「だよねー。ほっんとクソ。超クソ」
「み、美玖?」
聞き間違いじゃなかった。
純真無垢なオレの可愛い妹が「クソクソ」言ってる。
「なんでちっとも出てくれないんだろ。クソ、クソ」
「美玖?」
「クソクソクソクソ、死ね」
「美玖、ちょっと落ち着いて……」
「死ね死ね死ね、日本死ね」
ヤバい、キレてる。
なんか知らんけどキレてる。
いやキレてる……のか?
死ねしか言わなくなった。
「日本死ね、日本死ね、日本……」
「はい、ストーーーップ!」
慌てて止める。
可愛い妹の口から「日本死ね」なんて言葉、聞きたくない。
「落ち着け。まずは落ち着け」
「大丈夫、私は冷静よ」
冷静に言ってたらヤバいだろ。
なに、この妹。
「お兄ちゃん、クソだよこのつぶつぶ。ほんとクソ……」
「わかった、わかったから」
オレは「クソクソ」言ってる妹をなだめ、その手から缶を奪い取った。
「ほ、ほら。代わりにこれ飲め」
オレは逆の手に持っていたおしるこを手渡した。
こういうのは糖分を与えるに限る。
妹は拒否ることなく「ありがと」と言って、手渡されたおしるこをゴクゴクと飲み始めた。
なんなんだ?
オレの妹って、あんな二面性があったのか?
マジヤベーやつじゃん。
もしかしてオレが知らなかっただけか?
妹はおしるこの甘さにものすごく満足したようで、満面の笑みをオレに向けてきた。
「お兄ちゃん、これすごく美味しいよ~」
「う、うまいか?」
「うん。缶のおしるこなんて初めて飲んだ。幸せの味がする~」
そう言って嬉しそうに笑う妹。
可愛い。
天使みたいに可愛い。
やっぱりさっきの妹は何かの間違いだったんだな。
こんな可愛い妹が「日本死ね」なんて言うわけない。
「……あれ? お兄ちゃん。これ、あずきが出て来ないよ?」
「ああ。それもな、飲み方にコツがあってな……」
「どうやって取り出すの?」
「それはだな、汁と一緒に……」
「………」
「………」
「………」
「………」
「日本死ね!」
「美玖~!」
オレは二度と妹に自販機のコーンスープとおしるこは飲ませまいと心に誓った。
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