8.お出かけ その後

「この後、どうしよっか」


 ケーキ屋さんを出た後、まだ時間はあるしこのまま成り行きで遊びに出かけられたらなと思って、声をかけてみる。


 このままお別れするのは、勿体無いし、何よりせっかく頑張って誘ったんだからこれを機会に須藤くんのことをもっと知れたらいいなとか思ってみたりもする。


「うーん……この辺りで遊べるところってあったっけ? あんまり遊びに行かないから、分かんないだよね」

「あー……そうね。普段はぶらぶらと歩いてみたり、気になるお店を調べたりするんだけど……」


 それだと須藤くんが楽しめないかもしれない。アクセサリとか、服を選んだりしてるとあっという間に時間がながれてくんだけど、弟とそれをした時に「姉ちゃんともう買い物に行かない」と言われてしまったことがあって、それ以来気をつけているのだ。


 どうしたら、と考えていると須藤くんが、


「それじゃあ、妹にお土産を買いたいから一緒に選んでくれない?」

「……! うん! じゃあ、あちこちふらふらしてみましょうか!」


 困っている私にそう提案をしてくれた。

 妹さん、元気にしてるのだろうか。中々、体調を崩しがちらしく、こうして出かけることも少ないみたいだし。


「ねえ、もしよかったら今度妹さんに会いに行ってもいいかしら?」

「もちろん。妹も喜ぶよ。ありがとう立川さん」


 なんて考えていると、様子が気になってあいたくなってきた。

 私の言葉に少し驚きつつも、嬉しそうに笑ってくれた。


「よかった。それじゃあ、張り切ってよろこんでもらえそうなものを選びましょうか!」





「とりあえず、どんなものが好きなの? そこを知らないと永遠に決まらないし」

「そうだなあ……綺麗なものとか?」

「そっ…………かぁ」


 それじゃあ何も分からないわよ! という言葉は呑み込んで、


「ならアクセサリとかいいと思う。髪が長かったし、ヘアピンとかリボンか……それならこっちね。ついてきて」


 まあ、無難なところを選ぶ。

 貰って困らないものがいいと思うし、あまり凝ったものだと趣味が合わないかもしれないから。


 アクセサリショップの前につくと、須藤くんが眩しいものを見るように顔を手で覆う。


「? どうしたの。早く入りましょ」

「いや、僕なんかが入っていいところじゃない気がして……」

「何言ってるのよ。大丈夫だから、ほら」


 渋る須藤くんの背中を押して店の中に入る。

 さっそく私は、一度だけ見た記憶を頼りに妹さんに似合いそうなものを探していく。


 須藤くんはというと、私の後ろを頼りなさげに歩くだけで周りを見ていない。


「はい。これとこれどっちがいいかしら?」

「えっと……」

「どっちが妹さんに似合うと思う?」

「いやその、女の子のあれこれとか分からないし……」

「かもしれないわね。でもあなたが似合うと思ったことが大事なんじゃない? 大切な妹さんにあげるものなんだから」

「……。じゃあ、こっちかな」


 このまま後ろに居られても、まだるっこしいので、はっきりと言葉にして選んでもらう。

 須藤くんが指差したのは、黒い蝶をモチーフにしたヘアピンで、私もそれが似合っていると思う。


「よし! じゃあ他にも色々見ていくわよ」

「……うん!」


 店に来た時よりも張り切って、アクセサリを見ていく。


 他の店を見に行ってみたりしたけれど、結局、初めに選んだヘアピン以外に似合いそうなものが見つからなくて、それを購入したころには時計は二時を回っていた。





 妹さんのお土産を買った後。

 近くにあった公園のベンチに座りながら、飲み物を飲んで二人でしばらく落ち着いた時間を過ごしていた。


「ありがとう立川さん。おかげで良いものがかえたよ」

「いえいえ。こっちこそ、楽しかったわ」

「うん。良かった。……そ、それと、これ」


 緊張からか少し辿々しい動きで、早口になりながら手に持った紙袋の中から、薄いピンク色のシュシュを取り出す。

 耳まで真っ赤になって、手に持ったものと私の顔を見比べている。

 

 すると、私の前まで持ってきて……え? え!?


「今日のお礼……っていうか。せっかく妹のを選ぶんだし、よかったら立川さんにもって思って」

「え、あ、うん。ありがと。……どう? 似合う?」


 突然のことに口がうまく回らなくて、上の空のようになってしまうけれどプレゼントはしっかりと受け取って、実際に着けてみる。


「うん。想像以上に」

「〜〜〜〜っっ!!!」


 すんなりと褒められて、顔が茹で上がってしまう。

 じっと座ってることすらもどかしくなって、ばっと立ち上がる。


「あ、そ、その……私、そろそろ家に帰って夕飯の準備しなきゃいけなくてっ」

「そっか……今日はもうお開きか」

「うん。残念だけど、楽しい時間はすぐ過ぎるっていうしっ」


 寂しそうに笑う姿を見ると、もう少しそばにいたくなるけど、本当にそろそろ家に帰らないといけない時間なのだ。

 それに、これ以上、彼の前で冷静でいられるのか分からない。


「……これ、本当にありがとう。大事にするね」


 でも、これだけはちゃんと伝えないと思って、上ずる声を抑えながらはっきりと言葉にするのだった。



***



「じゃあ、今日はありがとね。楽しかったよ」

「うん。ばいばい」


 あの後。待ち合わせした場所で別れて、お互いに家に帰る。

 今日はとても楽しかった。


 ケーキを食べたばかりで、お昼を食べなかったのか少しお腹が空いているけど、それを感じさせないくらいに楽しいと思えた。


 それに、


「ふふふ……」


 私は須藤くんがくれたピンク色のシュシュをいじりながら、今日のことを思い返す。

 まさか、最後にこんなサプライズがあるなんて思いもしなかった。





「ふふ、ふふふ♪」


 帰ってもずっと思い出してはニヤけてしまい、家族から少し心配されてしまうのだった。

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