6.お出かけ その三
服よし、財布よし、髪のセットよし。
ということで、今日は日曜日。いよいよ須藤くんとの二人だけのお出かけだ。
楽しみやら緊張で胸が張り裂けそうやらで、昨日は少し眠れなかったけど顔色は悪くないから大丈夫。
玄関を出て、外に出ると寒い。
12月だし当たり前といえば当たり前なんだけど、緊張が火照った顔が冷やされていく感覚が心地よくてちょうどいいのかもしれない。
今日の恰好は、灰色のタートルネックのニットセーターにベージュのロングスカート。その上からダボっとした白のパーカーを着こんでいる。
いつもは三つ編みにしている髪をほどいて、軽く巻いてみたり。
そろそろ雪が降ってもおかしくない天気だからか、日差しはそんなにきつくないけどこの恰好だとこれ以上寒くなるともう一枚羽織りたくなる。
「パーカーだけじゃ、もう限界かなー」
そろそろ冬用のコートを出しておかないと、とかそんなことを考えながら待ち合わせ場所に向かう。
今日は外をずっと歩くわけでもないから、大丈夫だけどそろそろこんな格好で出歩くのはきつくなっていくかもしれない。
***
待ち合わせ場所は駅前の広場で、日曜日ということもあって人通りは多い。
すこし辺りを見渡して、須藤くんが来ていないかを確認する。
けれど、いなかったので目立つところで待つことにした。
そもそも待ち合わせの時間が十時なのに、その四十分前に来る人なんてそうそういるはずがない。
そんなことをするのはよっぽど時間を気にしている人か、浮かれて家を早めに出てしまった人くらいだろう。
「遅れるよりかはいいかもだけど……それにしても早すぎたなあ」
スマホ片手に須藤くんが来るのを待っている。
はぁ、とため息をつきながらも私はそんな体験を楽しんでいるようにすら思えた。
男の子との待ち合わせって、こんなにドキドキするものなんだろうか。
きちんと整えてきたはずの前髪が気になって、スマホの内カメラで何度も確認してしまう。
まだと分かっていても時計を見ては、まだかなとウキウキしている。
そうして、十分くらい経っただろうか。
人通りもさっきよりも増えてきて、一人でここに立っているのが段々と居心地悪くなってきたころ。
後ろから声が聞こえてきた。
「……立川、さん?」
「――!」
まだ来ないと思っていたから、少し固まってしまった。
とりあえず、振り向かないとと思いぎこちなく体を動かす。
そこには初めて会ったときのように、不安そうな顔をしている須藤くんの姿があった。
どうやら、緊張しているのはあちらも同じだったようで、声が震えていた。
「ごめんね。ほんとはもう少し早めに来るつもりだったんだけど」
「いやいや、充分早いわよ。三十分前よ? まだ。……それより、そんな恰好で寒くないの?」
「え? うん。これくらいなら全然」
「へぇー……男の子だねぇ」
須藤くんの恰好はパーカーに動きやすそうなズボンで、普段着というのが一目でわかる。
薄着なのが少し気になるけれど、まあ本人がそういうなら大丈夫なのだろう。
「じゃあ、行きましょうか。予定より少し早いけど」
「あ、うん。今日は楽しみだね」
「……。そうね!」
ここでじっとしていても寒いだけなので、お店に向かおうと二人で歩きだす。
後ろから少し遅れて須藤くんが歩いてくる。
すぐに追いつかれて二人で並びながら、街中へ入っていく。
そんな中で「今日のケーキ楽しみだね」とか「甘い物とかは結構好きなの?」みたいなどうでもいい会話を繰り広げる。
前と比べると自然に話せるようになって、こうして隣にいることがだんだんと自分の『当たり前』になっていくことがとてもうれしかった。
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