4.お出かけ その一
一緒にお昼を食べるようになってから、数日。
特に何か大きな変化があったわけでもなかったけど、確実に仲が深まっていくのを実感していた頃、またしても鞠に呼び出しを食らうのだった。
今日は土曜日。
なので学校ではなく、外で集まることになり私はせっかくのお休みなので家中を掃除したかったのだけれど、『須藤くんに関する重要な話』と言われては断るわけにはいかない。
朝の十時ごろに連絡がくるものだから、大慌てで着替えを済まし準備を整えたところで、待ち合わせのファミレスに向かうのだった。
「あ、やほ。おはよう愛奈」
「おはよう。……それで話ってなに?」
「まあまあ。とりあえず飲み物でも持ってきたら?」
二人分頼んであるから、と空のグラスカップを渡してくるので座ったばかりだけれど、まあせっかく頼んでくれたんだし。
ドリンクバーに行き、リンゴジュースを入れて再び席につく。
「で、須藤くんに関することってなんなの?」
「そう焦らないでよー。実はさこんなものが手に入ってね」
スッとテーブルの上に二枚のチケットを置く。
そこには最近できたケーキ屋さんのクーポン券のようで店の名前と有効期限が大きく書かれていた。
須藤くん、ケーキ屋さん、二枚のチケット……これは。
「須藤くんを誘って、二人で出かけてこいと?」
「イエース! 珍しく冴えてるじゃん」
「まあさすがにね。でも須藤くん、ケーキ嫌いじゃないかしら?」
「そこはだいじょぶじゃない? そこケーキ以外にもいろいろあるみたいだし」
「…………」
「というわけで、今! 誘ってみようか! 連絡先、交換してるでしょ! アタシのおかげで」
「う、うん」
携帯を取り出してチャットアプリを開く。
そこには須藤くんの名前が登録されていた。
つい先日のこと、どうにかこうにかして連絡先を交換することに成功してその日の夜は携帯を眺めてニヤニヤしてしまったものだ。
でも、確認のために挨拶をお互いに送った程度のものでそれ以上の会話はしていない。
そもそも私は連絡以外でこのアプリを使うことがないので、どんな使い方をしたらいいのかさっぱりだったりする。
「こういうのって、いきなり誘ってもいいものなの?」
「いいのいいの。それに口に出すわけじゃないから誘いやすくない? 別に予定とか合わなかったらそれだけなんだし、誘うだけなら別になんの損もないじゃん」
「……。うん、そうね。じゃあ私ちょっと頑張ってみる!」
なんだかんだで、鞠にはいろいろと助けてもらってるしきっと今回も大丈夫なんだろう。
……いつも背中を押してもらってばかりで、本当感謝しかない。
友達思いな友達がいてよかった。
でも、いい加減自分からでも動けるようにならないと。いつまでも鞠に相談して甘えっぱなしというのもいけない。
ということで、なんて言って誘おうか文字を打っては消してを繰り返しながら考える。
「む~~」
やっとのことで思いついたのは『クーポン券があるので、よかったら一緒に行きませんか?』というあたりさわりのない言葉だった。
これでいいのかと思いつつも、ほかになにも思い当たらないので送信する。
迷惑じゃないかなという私の想いに反して、メッセージは軽い音とともに画面に表示される。
一分、二分と時間は過ぎていき、持ってきたリンゴジュースを飲みながらしきりにスマホの画面を開いたり閉じたりを繰り返す。
五分くらい経ったころに通知を知らせる音がしてすぐに確認する。
そしてそこには、
『いいですね! いつ頃行きますか?』
と書かれていた。
「………」
私は安心から、肘を机に立てたまま頭を突っ伏すのだった。
「服、何着てこうかなー」
その行動はニヤけきった顔を隠すのにちょうどよかったのかもしれない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます