1.仲良く

「とりあえず、お弁当でも作ってあげたら? 得意じゃん、そういうの」


 どうやって仲良くなればいいのやら、と考えていると鞠は私のお弁当を指差してそう告げる。

 たしかに弟と妹、そして私の分を毎日作ってるから一人増えるくらいは問題ないけれど……


「なんて言って渡せばいいのよ。いきなりすぎるわよ」

「そこはほら……うーん……」

「ほら、何にも考えてないじゃない。そもそも、そういうことを他人からされるのは迷惑でしょ」

「じゃあ、いきなり『それじゃ体に悪いわよ』って、お弁当のおかずを押し付けられたアタシは何なのさ」

「あー」


 そういえばそんなこともあったような……でも明らかに「好きなものを集めました!」って感じで見るだけで胸焼けしそうなものばかりで。

 その日はちょうど余り物を詰めてきて少し量が多かったから、少し分けてもよかったし。


「まあ、それはそれとしてよ。鞠とはそこそこ話す仲だったし」

「そうだけどさ……そんなこと言ってたら、何も変わらないじゃん」

「…………」


 ……まあ、それがきっかけで鞠ともよく話すようになったし、思い切ってやってみるのもありなのかな?


「じゃあ明日作って、渡してくる」

「よっしゃ! その意気だ!」



***



「あれ? 姉ちゃん、弁当箱ひとつ多くない?」

「ああ、友達に渡す用よ。持ってかないでね」

「ふーん……」


 朝。

 すでに制服に着替えて学校に行く準備を整えており、お弁当をつめるためにその上からエプロンをつけている。

 ご飯に簡単なおかずが何個か……それとほうれん草のだし巻き卵。彩りと野菜のためにミニトマトを三つほど。


 だいたいは作り置きか冷凍、手軽に作れるものを中心に作っている。

 手の込んだものができないわけじゃないんだけど、毎日となると妥協できる部分はしておかないと続かない。


「――♪」


 さてはて、これをどうやって渡したものか。

 ……渡したらどんな反応するんだろ。三つ編みを弄りながら、どんな反応をしてくれるのか妄想をする。

 喜んでくれるかな。



 そうだと、嬉しいな。





 ……さて、お弁当を作って弟と妹、そして両親を送り出し私も登校の支度をする。

 テーブルも上には私と、須藤くんのお弁当が二つ並んでいる。

 出来は自分で言うのもなんだけど、いつも通りよくできていると思う。

 問題はこれをどうやって渡すか。


 昨日の鞠の言葉に乗っかって、喜んでほしいのと勢いのままに作ってしまったけれど普通に考えて、いきなりお弁当を渡すとか……。


「いやでも、あの昼食を見過ごすのはちょっと」


 コンビニパンはおいしいけれど、ここ最近見ていて毎日がそれなので心配にもなる。

 いつか絶対体を壊すと思う。というか、須藤くんはちょっと顔色が悪いし気にしすぎなくらいでちょうどいいのかもしれない。


 …………以上。お弁当を渡すための言い訳終了。


「――よしっ、悩んでないでとっとと学校に行かないとね!」


 ぐっと拳を握って、自分に活を入れる。

 こんなことでくよくよ悩んでいないで、家を出ないとお弁当を渡す前に学校に遅刻して先生に怒られてしまう。


 カバンに忘れないように二つのお弁当を入れて、私はきちんと玄関に鍵をかけ学校に向かうのだった。



***



「やっほ愛奈。お弁当、ちゃんと持ってきてる?」

「……ええ」


 教室に着くとすでに鞠は席についており、私を見つけると手を振ってくる。

 昨日の助言通り、作ってきたものの今更ながら人目の多いところで手作り弁当を渡すなんて……とてつもない羞恥プレイなのでは? クラスの誰かにカバンの中身を見られたらどうやって言い訳していいかさっぱり思いつかない。


「ねえ、やっぱりお弁当渡すのもうちょっと仲良くなってからで――」

「よっし! ねえねえ須藤くん! ちょっといいかな!!」

「えっ!? 鞠!?」


 私が返事をするや、鞠は窓の外を眺めている須藤くんに大声で駆け寄りながらその肩を叩く。

 すると案の定、びっくりした須藤くんは肩を大きく跳ねさせながら隣を見る。


「えっ……何か用?」

「うん。ちょっと、付き合ってくれる?」

「まあ、いいけど……」


 ぐいぐいくる鞠に若干引き気味な須藤くんだけど、断る理由が思いつかず鞠の後ろについていく。

 そして、須藤くんに見えないように私に『今がチャンス!』と言わんばかりにサムズアップを見せつける。

 ……ああ、もう、そういうこと。


 鞠の思惑を察し、カバンを持ってこっそりと二人の後を追う。

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