第4話 ×××
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育ってきた環境が周囲に比べて不幸だとか、優遇された生活が周囲との隔たりを感じさせるだとか、そういったことは一切なかった。至って普通の親のもとに生まれて、至って普通の家庭環境で育って、至って普通の教育をこれまでに受けてきた。
それなのに自分の感覚がどういうわけか普通ではなかった。
周囲の物事に関して、どこか達観した視点を持ってしまうのだ。
あれは幼稚園にいたころだ。同級生たちがわざわざ砂場で汚れる意味がわからなかったし、同級生たちがわざわざ転ぶためにかけっこをする意味もわからなかったし、同級生たちがわざわざ自分が遊ぶわけもないと知っているのに次々に話しかけてくる意味もわからなかった。合唱コンクールの意味も、運動会の意味も、お遊戯大会の意味もわからない。
友達は当たり前のようにできなかった。
それでいいと、そう思った。
それは小学校にあがっても変わらない。
同級生たちの行動も、先生の行動ですらも、すべてが他人事のように感じた。当たり前だ。だって、他人だから。
だけど、彼らを、他人だからこそ客観的に見ることができる。
きっかけは何だったんだろう。
あれはいったいいつのことだったんだろう。
ただ喋っているだけで、ただ一緒に動いているだけで、ただ鉛筆を拾ってそれを受け取るだけで、彼らはひどく幸せそうに笑うのだ。
うらやましいと、不意に思ったのだ。
自分もそうなりたいと思ったのだ。
彼らには色が溢れていた。
笑ったり泣いたり怒ったり不満をぼやいたり自分のやりたいことをそのままに言ったり給食の酢の物を残したりボールを当てあって一喜一憂したりする。赤とか青とか黄色とかじゃないけど、それはとってもきれいな色を持っていた。
それに比べて自分はどうだ。
自分にはなにもない。
何色でもない。
透明だとか白だとかの色ももったいないぐらいに、自分にはなにもなかった。
そして自分ではなにもしない。
ただ眺めるだけ。
欲しかったのは、なによりもまずきっかけだった。
自分を変えてくれるきっかけが欲しかった。
だけどそんなものは、都合よく公園に落ちているわけもなかったのだ。
——なにしてるの?
×××。
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