第4話

 「では、次に大久保から説明させていただきます」


「どうも、国家公安省外局対狂人化者処分監督庁北陸支局監督課の大久保です」

 

 大久保は、色黒でどうにもにらみつけるような形で僕のことをカメラ越しから見ているようだった。


 「えー、真島さん。私からは4枚目の説明をさせていただきます」

 「はい」

  

 4枚目は、3枚目に比べて非常に簡単で片面のみの印刷だった。


 「まず、国家公安省というのは、簡単に言えば警察機関と捉えて構いません。かつては国家公安委員会という名称でしたが現政府が改組し、現在は独立した行政機関として存在しております。いわゆる東京都警や北陸警察、南関東警察のような警察が身近な存在ではありますが、その上は私ども国家公安省が存在しています」

 「はい、学校でも習いました」

 「ふむ。で、警察は前述した通り身近な存在ではありますが、対狂人化者処分監督庁と言うのは、あまり聞いたことがないかもしれません」

 「そうですね……」

 「それは、当然であり、実は我々の庁というのは基本的には外部には出ていない秘密の行政機関となっているのです。理由というのは、一般人には何ら関わることがないからです」

 「?」

 「我々が相手にするのは狂人病に感染された方のみです」

 

 そう言うと、モニターの片方の画面、さっきまで話していた人の方の画面が切り替わり灰色の画面になった。


 「ここからは、厚生労働省さんたちには聞かせられない、ちょっとしたお話をさせていただければと思います」

 「? はい」

 「狂人病というのは、先程差別などがないように法律で定められているとされていますが、たしかに法律によって平等が維持されるようになっているというのは事実ではありますが、実際としては差別があるのは事実です。例えば、履歴書にはキック値の記載を求める欄があったり、たとえ履歴書で書かなかったとしても身分証紹介を行えば簡単に狂人病感染者であるかどうかを確認できてしまう。さらに、今ではキック値を体温計のような形で簡易的に計測できる機器も市中に出回っていますので、絶対的な差別が存在しない平等な社会ではないのです」

 「……」

 「もちろん、差別をされる狂人病感染者の方には同情をせざる終えませんが、こればかりはいくら我々が駆逐したところでも、湯水のごとく出てくる問題であり、解消をすることは現実的ではありません」

 「しかし、その中でも実社会に溶け込み、自立をされている方は多く居ます」

 「なるほど……」

 「ただ、その反面実社会に溶け込めず暴走をしてしまったり、犯罪を犯してしまう方も多くいるのが現状です」

 「…………」

 「そこで、我々対狂人化者処分監督庁というのは、警察に成り代わり、狂人化された方の生活や、仕事などの斡旋や支援を行うとともに、犯罪や暴走を犯してしまった場合処分を行う機関であるのです」

 「あの、一つ質問いいですか?」

 「どうぞ」

 「処分というのは、どういった感じなんですか? 逮捕じゃないんですか?」

 「狂人化された方は、先程も説明があった通り準戸籍となります。原則として警察は、法令に則り人間であったとしても動物であったとしても逮捕を行うことが出来ます。それは、立件できるかどうかというのは置いておいての話ではありますが……。しかし、準戸籍者には現在のところ警察は逮捕をすることが出来ないと法令上定められており、これは狂人病感染者の方が一般人と同等に裁かれた場合、不当な判断をされる可能性があるということと、警察官の命を守るための措置です」

 「はい」

 「ですので、警察に成り代わり我々は、処分という形で、狂人化された方の刑を我々で裁判所を介さずに捌くことが出来るのです」

 「……?」

 「政府は現在、狂人病感染者の方と一般人の間には平等を存在することを許すことをせず、それらを正当化させるために狂人病感染者を守るため、という手で特例を様々定めています。しかし、それは簡単に行ってしまえば、狂人病感染者の方を人ではないと定めていると同義と考えていただいて間違いないです」

 「え、えぇ?」

 「我々は、処分という形で狂人者を文字通り処分、処刑します。それは合法的なものとなっているのです」

 「???」

 「ただ、犯罪さえ起こさなければ処分もしないですし、今から真島さん、あなたが行く矯正センターは比較的普通で、今後の人生においては楽園のような場所となるでしょう。ですが、矯正センターを逃げ出したからと言って処分の対象にはなりませんし、我々は手出しはできません」

 「どういう……ことですか?」

 「まぁ、そこはあまり考えないでください。もうじき、厚生監督省さんも戻ってくると思いますので、最後に一つだけ」

 「はい……」

 「もし、今の場所から次の場所へと行くのでしたら神奈川に行ってください。そこであれば、あなたも自由に生きられるでしょう」

 「かながわ?」

 「あぁ……えぇっと、今の名前は湘南県と横浜府です。このどちらかに行けばあなたは何かしらを得れるでしょう」

 「どういう、と言うかどうしてそんな事を?」

 「まぁ、あまり気にしないでください。それではこれからがんばってください」


 そう言うと、さっきまで灰色の画面になっていたところに厚生監督省の人が戻ってきて「なんか、通信状態が安定しないですが、今映ってますかね?」といい大久保さんが「えぇ、映っていますいますし、私からの説明は終わりました」と伝えた。


 「分かりました、ありがとうございました。では、説明の方は以上となりますので、ここから先は病院さんの指示従ってください」


 こうして、僕はいくつかの疑問と、今後の不安を大量に抱えて、狂人病感染者として生きていくことが決まったのであった。

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