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フラグを立てると言っても、やる事は単純だ。
ゲーム初期ログイン地点よりほど近いガンショップで、弾薬の補充をする。
そうすると、あとはクエストの依頼人の方から、こちらへ接触してくるようにプログラミングが組まれているわけだ。
「ねえ、あんた」
背後から声。振り返ると、十代後半くらいの年頃をした少女が立っていた。
青髪に緑色のメッシュ、スレンダーな身体つきに上下ひと繋ぎのライダースーツ。太腿に備えたホルスターには、小口径ながら装填数の多い、自動式ブラスター拳銃。
「それだけ弾を買い込んでるってことは、腕に覚えがあるんでしょ。そういう奴に、一つ頼みたいことがあるんだ」
「あんたは?」
聞くまでもなく相手の名前は知っているが、これくらいのロールプレイもできない奴は、VRゲームに手を出すべきじゃない。
「あたしは、ラケル。そう呼んで。よろしく」
青髪の女がそう名乗にながら、手を差し出して来た。
旧時代のゲームでは、NPCといえば、あらかじめ設定された定型文以外の言葉を話したりはしなかったが、今時のNPCは高度なAIを割り振られていて、高いコミュニケーション力を持っている。
ムラタ式と呼ばれる、日本人が開発したAIは、いくつかの単語を打ち込み、ある程度の調整を加えるだけで擬似人格を形成する。このため、ストーリーに大きく関わるメインキャラクターだけでなく、このラケルのようなモブキャラクターでも、高度な会話能力を獲得しているというわけだ。
「俺は、“Deckard”」
「それだけ? 握手はなし?」
「性分じゃないんでね」
「あらそう。まあいいか。調子の良い人間よりは、あんたみたいのが頼りになるかもね」
無愛想を装ったのは、何もロールプレイの一環というわけではない。ただこのアカウントでプレイする時、つまり仕事をしている時は、必要以上にNPCと関わりを持ちたくないだけだ。
そうでないと必要な時に必要な事をするのに、どうにもやりにくくなる。
「それで、頼みたい事ってのは?」
「ああ。聞いてくれるかい」
手っ取り早く促すと、彼女は依頼内容を語り始めた。
廃棄されたゴミ処理場に縄張りにしている、野生化した機械獣に妹を殺された。仇討ちをしたいが、自分一人では果たせない。
つまり、仇討ちの手助けだ。
「もちろん、報酬なら払うよ」
「いいだろう」
二つ返事に了承すると、ラケルは怪訝な顔をした。
「額は聞かないわけ?」
ちなみに、報酬の交渉も可能だ。交渉次第で前金を要求する事もできる。
「自分を安売りする人間は、あまり信用しないようにしてるんだけどね」
「なら、好きに決めろ。仕事の後で、働きに見合った額を払ってくれ」
我ながら皮肉な台詞だ。このクエストの結末は覚えている。
彼女がこの後どうなるのか、全てを知っておいて、よくもまあこんな台詞が吐けるものだ。
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