第11話

待って。めっちゃ入りづらいんだが。


あの可愛い子との出会い、そして、一緒に体育館に向かえることの嬉しさに、何も考えられていなかったが、もうすでに1年生全員整列が完了している。




入学式が終わり、みんな帰りの支度をし始めていた。


そういえば、僕の前の席の子は、結局来なかったな。誰なんだろう。

って、あれ?もしかして……、僕の前の席の子って……。


「あれ、席、前後だったんですね! さっきは本当にありがとうございました」


さっき会った、あの可愛い子だったのだ……!

嘘だろ!?1000年分の運をつかいきったようなんですが。


「い、いや、全然大丈夫……っていうか、敬語じゃなくてタメ口で話そ? お互いに」


「え、じゃあそうする! ありがとう! やった! 友達第一号だ! あたし、中学からの友達がいなくて困ってたんだよね。だから、すっごい嬉しい!」


彼女は目を輝かせながら言う。

待って、可愛すぎる......!そして、この明るい性格もマジで好き……!


でも、何か忘れてるような気がしてならない。

まあ、いっか。せっかく神様がお恵みくださったハッピータイムだ。

十分に堪能せねば。


ん?なんか、全身にチクチク何かが刺さっているような……。ああ、これが視線というやつか。でも不思議だ。なんで僕が視線を集めなきゃいけないんだ……?

それに、それらの視線の大半は女子からのものだった。


一方の彼女の方は気が付かないようだった。


わけがわからないぶん、さらに辛い……けど、気にしない、気にしない!今はおしゃべりに集中しています!


「実はさぁ、最近、お気に入りの漫画があるんだよね〜」


気にせず話し続ける彼女が尊すぎる!


「そうなんだ。なんて漫画?」


「美◯しんぼっていうんだけど、知ってる?」


「知ってるよ! 僕も読んでるよ!」


まさか、彼女と趣味まで合ってしまうとは。美◯しんぼは僕も読んでいる……が、最近は金欠で新刊が買えないままでいる。


もしかして、こんな調子で話せるなら一緒に帰る……なんてことできたりしないかな……。

いやでもこんなモブ男じゃなあ。

って待てよ?僕は……モブ男を卒業したのではなかったか?

そうだ!いけるかもしれない!


「あ、あのさ、良かったら……、良かったらでいいんだけど、い……っ」


やばい、言えない……。


「い? 今、いちごのガムなら持ってるけど、食べる?」


そうではないのだ!いやでも、その勘違いも可愛い!


「いっ……!」


「あ、ねえ、遮るようで悪いんだけど、もう帰っていいみたいだし、一緒に帰ろうよ!」


なんと!向こうから誘ってくれるとは……!


「うん! 是非!」


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


ああ、幸せだった……。


でも、なんか、何かを忘れているような気がしてならないんだけどな……。

本当に何を忘れているんだ……?


あ、名前!名前を聞くのを忘れた!

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