第8話

「これから色々付き合ってあげる。遅れないでついてきてね!」


僕は今、あかりに引っ張られ、美容院に引きずり込まれている。


まずい…もうすぐついてしまう…。


言えない…自分からあんなこと言っておいて…。


美容院に人生の中で一度も行ったことないなんて言えない…。


でも、やっぱり言わねば。美容院の中で恥をかきたくない。


「ちょっと待って。僕、美容院行ったことないんだけど…」


僕を引っ張るあかりの力が弱まる。


恐る恐るあかりの顔を見ると、目が点になって止まっている。


「え、まさか、この年になってもお母さんに切ってもらってたの…?」


え、それ、普通じゃないの…?


あれ、もしかして引かれてる…?

どうしよう…。


「もうっ! 絶対にこれからは美容院で切ることっ!」


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「おー、結構良くなった!」


緊張で冷や汗をかきまくり、ガクガク震えて美容院から出てきた僕を待ち構えていたのは、クラス一の美少女の絶頂の笑顔だった。


ああ、頑張った甲斐があった…。


「じゃあ、次はね…」


次!?次だと!?これで終わりじゃないのか!?


僕は再びあかりに引きずられながらつくづく感じた。


クラス一の美少女の幼馴染になる、つまり陰キャでモブ男を卒業することっていうのは楽なことではないということを。

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