第24話同窓会
「秋内叶を助けるのは正しいんでしょうか。わからないんです。叶の過去を探るとどうやら嘘をつかれていたみたいで、心歪病の発症も母親殺しの嫌疑も何にも晴れないで、このまま何もしなければ叶はきっと殺されて心歪病はなくなるような気がして、それが正しいような気がしているんです」
「君は何者」
「え」
「雪下高校に通う高校生?デリバリーハピネスの従業員?秋内叶の後輩?それとも世界の救世主?」
「僕は僕です」
「そんな事は言う余裕あるのね」
「でも僕は全部合わせて音無晴なんです」
「めんどくさいね、君は」
「自分がいちばんそう思います」
「まぁ元々どの要素が1番大切にしたいなんてことを聞くつもりはなかったけど」
「じゃあ何を?」
「どうして、正しいか正しくないかで考えているの?」
どうしてだろうか?正しいか正しくないかは大切なことじゃないか。
「矛盾してるじゃない。君は誰かを助ける時正しさなんて捨てさせるじゃない。私はどうであれ人殺しで、誰にも会わずに死んだに方が正しかった。あなたが秋内さんを助けようとした時正しい方向に導いたならきっと生きていない。もし死ぬのは良くないって立場になって考えたらあなたは正しい。結局正しさはどの立場から見るかなのよ。だからしたいようにしなさい。誰かから見たら秋内さんは悪者なのかもしれないけど、あなたから見たら違うでしょ。それは何?」
「叶は僕を助けてくれた恩人で憧れの人で好きな人で大切にしたい人です。」
「答えは出たわね」
「僕は叶を助けます。今後叶がどんな人でも僕は結局どうにかしたいって思ってます。」
小鳥遊先輩は急かすように僕を外に出した。
ありがとうございますと深く頭を下げた。
何度目だろうか。勇気をもらうのは。助けてもらうのは。責務は果たすべきだろ。
「小鳥遊先輩の心歪病は治します。」
「お願いね」
事務所に戻って、冬花に謝った。
決めたことは口に出した方が良い。
そう判断した。
「僕はもう迷わない。どんな結末であれ、叶を助けるし、心歪病を治す」
「じゃあ明日は乗り込むのね」
「そのつもり」
「過去を探るのももう時間がない。心歪病での死者増えてるみたい」
冬花はそう言ってテレビをつけた。最近しっかりとテレビを見た記憶がなかったが、どこもニュースは秋内叶の存在と心歪病での死者を発表している。
関連ニュースとして、心歪病を発症したものによる器物破損、暴行、強盗、殺人、テロ、etc。心歪病は悪としてとりだたされていた。
このままいけば叶は遠くないうちに殺されてしまうだろう。
***
10月12日
僕と冬花は事務所で一夜を過ごした。誤解を招く言い方だがもちろん部屋は別だし、僕はリビングで寝た。なんなら冬花は部屋の鍵を閉めていた。防犯対策大事。
服については冬花が吉祥寺でパジャマと明日の分を買ってきてくれた。心歪病を治してくれたお礼としてプレゼントしてくれた。色々ありがとうございます。
さっそくシャワーを浴びたのち着替えさせていただいた。
朝ごはんは簡単に目玉焼きとベーコンを焼いた。
「目玉焼きには何をかける?」
「僕は醤油かな冬花はソースだよね」
「私言ったっけ」
「元リスナーだぜ。切り抜きもいくつか上がってたしね」
「そうだった。私はリスナーと一晩を過ごしたんだった」
「語弊を生むこと言うな」
わいわいと朝食をすませて、同窓会の会場である有夢の場所とここからかかる時間を調べた。20時まではたっぷりと時間がある。
「叶は大丈夫かな」
「今は考えたって仕方ないよ」
できることがないから仕方ないけど、過去を知ったところで助けることにつながるのかな。叶は警察に捕らえられていて、話すことができない。いいのかこのままで。
ダメだな。マイナス思考になってる。今は同窓会で叶のことを知ることだけを考えよう。
「時間結構あるけど、どうしよっかゲームでもする?」
「ゲームとかあるんだ」
「配信やってた人間だよゲームやってないと生きていけないよ」
「いいね。気分転換に勝負しようか。僕はあらゆるゲームで地元最強だからね」
「それって上手いの?」
時間は腐るほどあるのでとにかくいろんなゲームをやった。スマブラ、マリカー、原神、対戦ゲームから協力ゲーム疲れるまでやった。勝負的にはごぶごぶでよい勝負をしていた。ただマリカーは僕がぼこぼこにされて、スマブラは僕がぼこぼこにした。
時間的にはもう昼過ぎになってすっきりした。
「推しとぶっとうしでゲームって最高だな」
「それはよかった。誰かとこうやって話しながらゲームやるのは楽しいね」
「じゃあそろそろ行きますか」
事務所を出て有夢に向かう。レストラン会場は二階建てで一回は誰でもはいれるようになっていて、入り口には本日雪下高校同窓会と書かれた看板がおいており、二階へ矢印が向いていた。屋上も貸切られているようですでにお酒を片手に持って談笑している人もいる。受付の人に叶の招待状の紙を見せる。
「えっとこれ」
「僕は秋内さんの後輩で今日は代理できました。一応雪下高校の生徒です」
生徒手帳を見せて、とりあえず中に入ることが許された。
受付をしていた人が幹事らしき男の人に耳打ちをしていた。
「君たちが秋内の代理なんだね。何か話は聞いているかい」
「いえ聞いてないです。ご存じの通り秋内さんはいま警察の元にいます。今日来た僕が来たのはそのことを何とかしたいと思いまして、皆さんに秋内さんの話を聞かせてもらいたくて」
「そうか…手紙に書いたあのことについて話そう。高校三年生の時に今でいう心歪病の症状が出た中井ってのがいたんだ。しかし、当時は心歪病は都市伝説に過ぎなくて心歪病になった心歪病の症状も人格の分裂というものでな。中二病だと解釈して誰も相手にせず、煙たがっていたんだ。秋内を除いて。彼女は一人話しかけて行動していたが、はたから見て悪化しているように見えた。それが爆発したのが俺らにとっての最後の文化祭だった。俺らは優秀賞をめざして出店に力を入れていたんだ。やきそばとやきそばパンの二つで勝負していたんだ。中井は蚊帳の外で仕事もほとんど割り振ってなかった。当日の朝中井は暴れだして用意した具材をめちゃくちゃにしてどっかに消えた。怒って呼び止めたやつもいたけど中井の顔が完全にやばくて誰も何も言えなくなった。その日以来中井は来ることもなく、転学したと聞いた。俺らこれまでも同窓会何度かしてたんだ。でも秋内は一度も来なくて、中井のこと気にしているのかと思って今回は手紙を出した。それ送ったの心歪病がこんな風に広がる前で言い方が悪くなっただけなんだ。」
「そうですか。秋内さんはどうにかしようとしてたんですね」
「今思うとね、本気で心配していたと思うよ」
叶は変わったのか中学時代は心歪病を利用して、いろんなことをしていたけど高校以降はどうにかしようとし始めたのか。それなら全部筋が通る。きっかけはわからないけど、それなら今の叶は助けるべきだ。どちらにしろ助けるつもりだけど、いいひとで助けられるほうがいい。
「君たちは心歪病のことどれくらい知っているんだい」
「普通の人よりは詳しいと思います。秋内さんと一緒に心歪病を治すの手伝っていたので」
話を聞いていたのか、一人の女性が腕をつかんできた。顔を見ると力が入っていて鬼気迫っているようだ。
「あなた心歪病を治せるの?」
「保証はできないですけど」
「私は秋内に呪われたの。私心歪病にかかっているの。それも人格分裂。毎晩、毎晩、毎晩夢に秋内が出てきて、中井と耳元でささやいてくる」
体が震えている。手にどんどん力が入っている。痛い。
「やめるんだ。京子」
幹事の男が止めに入る。どうやら女は京子というらしい。
「すまない。俺の彼女が。最近は不眠症でイライラしているんだ。今日もし秋内が来ていれば、否定してもらおうと思っていたんだ。でも、秋内にそんなことできないよな」
すぐに否定することができなかった。そうじゃないと信じたいが対象に心の隙があれば可能な気がする。
「やっぱりあの女が」
京子はテーブルに置いてあったお肉を切る用のナイフをとってこちらに向けてきた。
叫びながら走ってくる。僕らは全力で外へと走った。幸い相手がヒールだったのもあり追いつかれることもなく逃げられた。
僕も冬花も息を切らして近くのベンチに座った。
「心歪病やっぱり深刻化しているね」
「そうみたいだな」
来た道から人影が見える。暗くて顔が見えない。一瞬京子かと思ったけど、京子よりも明らかに身長の小さい人だった。眼鏡をかけた女の人で肩で呼吸しながら話しかけてきた。
「あの、すいません。叶から渡されてたものがあって」
叶の学生時代の親友だという彼女はポケットから小さい鍵を取り出して渡してくれた。
「一週間くらい前に叶から連絡あって、もし後輩を名乗る男の子が来たら渡してほしいって言われてて、とりこんでるみたいだから渡しそびれちゃったけど、それだけだから。私戻るね」
まくし立てて去ってしまった。でもこの鍵にはすぐにピンときた。日記だ。
叶はどこまで予測しているのだろうか。でもこれを見ればきっと全部わかるはずだ。
バックから日記を取り出して手にかける。カチャっと開く音が静かに響いた。
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