第23話小鳥遊清麗はいつだってかっこいい
信じるものは救われる。
嘘だって信じていれば救われる。
叶の嘘を肯定的に捉えることだってできなくはない。叶の心歪病の源となったのが中学生より前ならこの前の話は嘘ってことになるけど、僕の気持ちを慮ってかもしれない。心歪病が治らないって話も脳を勘違いさせて症状を起こさないためのことかもしれない。ただ、盲目に信仰していいのかわからなくなった。
ポッケに入ったスマホが鳴った。LINE電話の音だ。
画面を見ると小鳥遊先輩のアイコンが映る
「もしもし、今大丈夫?」
「どうしたんですか?」
「見えるの……」
何が、、、とは聞かなかった。わかってしまった。きっと心歪病が再発したんだと。
「今どこにいますか」
「急いで自宅に向かってるところ」
「すみません。僕は吉祥寺にいるのと明日は行かないといけない場所があるのですぐにそっちに行けないです。なので2日間家にいて貰えますか」
「何をしているのか聞いても?」
「叶が警察に連行されたので、過去を追ってます」
「そう、わかった。家にいるわ。一つだけお願い最後でもいいから全部話してね」
「はい」
通話は終わった。心歪病が治らないのは本当のことなのかもしれない。どうであれ、叶を知ることだけが解決の糸口となるはずだ。
「叶さんって結局どんな人なんだろうね」
「どんな人って良い人だろ」
「ほんとに思ってる?叶さんのお父さんの話を聞いても」
黙ってしまった。もう、良い人と言っていいのかわからない。
「事務所に戻ろっか」
「今日は何もしないの」
「何もできないよ」
「あるでしょ、さっきの電話の対応とかね」
「意地悪言わないでくれよ。僕は色んなことを一度に出来るほど器用じゃない」
「先帰ってて私、服買いたいから」
***
1人事務所についてこれからのことを憂う。
なんかやる気なくなっちゃったな。
少し前までは全部やる気だったのにどうにかしようと思っていたのに正しいことがわからなくなった。
叶を見捨てれば心歪病の患者は治るのかもしれない。小鳥遊先輩だって。。。
会って聞いたら何か変わるかな。
気付けばスマホを手に取って電話をかけていた。
「小鳥遊先輩」
「どうしたの」
「今から家に向かっても良いですか」
「ええ、待ってるわ」
深くは聞かずにそれだけ言って電話をきってくれた。冬夏に連絡だけして小鳥遊先輩の家に向かった。
***
「久しぶりね」
「久しぶりです」
小鳥遊先輩は普段となんら変わらなかった。焦っているわけでもなく、悲しんでるわけでもなく、ただ優しい微笑みを浮かべてるだけだ。
「上がって」
小鳥遊先輩の部屋は以前来た時よりも物が増えていた。小説に漫画、観葉植物やオシャレな照明。
その変化が僕には嬉しかった。
「何か出前でも頼もうかと思ったけど…」
「デリバリーハピネスはないですもんね」
「別のアプリもあったけど、使う気になれなかった。」
「叶は連行されちゃいました」
「ええ、知ってる」
「僕の時間はどれくらいですか」
「知りたい?」
「やめときます」
「やるべきことあったんじゃないの?」
あったよ。あったはずだった。
「なるほどね」
「また顔に出ちゃいましたかね」
「ほんとにわかりやすい」
「そういえばまぐろちゃんに会いました。元気にしてましたよ」
「良かったわね」
「新宿ってあんなに建物が高いんですね」
「こことは違うから」
どうでもいい会話だ。本題はもっと重要で下手をしたら世界を巻き込む大事件なのにこんなことはしている暇じゃない。小鳥遊先輩のことも何もやろうとしてない。重い頭が垂れ下がる。暖かい感触が頬を伝う。小鳥遊先輩の手が頬に伸びていた。
「頼っていいのよ」
なんでだろう。涙が出てきた。さっきから自分の情緒がわからない。
「でもっ、、、僕は小鳥遊先輩に頼るだけ頼って何もできてない。」
「最初に助けてくれたのは晴じゃない。」
「それは仕事だからで、叶のためになるからで結局は打算ばかりだった。」
「ほんとうに全部打算だった?命を張ることも最後まで頑張ってくれたのも全部自分と叶さんのためだった?」
「それは…」
「それに助けたから助けないといけないなんてことはないの。私は晴だから助けようと思う。その事を気にすることはない。気遣ってしてるとかじゃなくて何かしたいと思うから」
「ありがとう…ございます」
「どういたしまして、話したいこと全部聞くわよ」
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