第22話秋内叶

誰にだって秘密はある。その扉は開けてはいけない鍵穴というよりはパスワードに近い。許したものにはそれを明かすからだ。

例えば心歪病が治ることはないとか……


***

叶が連行され、僕とマグロちゃんはタッグを組んだ。


「あのーさーマグロちゃんって呼ぶのやめよーよ」

「ん、そっかもう違うもんな」

「私は夏至冬花げしとうか、冬花って呼んで苗字は嫌い。夏は好きだけどね。ちなみに21歳」

「わかった、冬花 」


秋内叶のことをどれくらい知っていただろうか。

何も知らないそこが最初にぶち当たった壁だった。

どこに住んでいるか、兄弟はいるか、友達はどんな人か過去に結びつくものがわからなかった。


「何も知らないんだね」

「しらないんだよなぁー」

「事務所行こっか」


マグロちゃん…改め冬花は住み込みという形でデリバリーパピネスの裏方をしていたようで、そこの事務所は叶も使用していて、私物もよく残っているのだとか。


「その事務所ってどこにあるの」

「新宿」

「マジでか」


新宿に事務所をかまえたのは都心は心歪病患者が多くて、直ぐに対応できるためと冬花と僕が鉢合わせなくて都合が良いかららしい。

冬花がしていたのはデスクワーク。デリバリーパピネスを登録してる人で発症していればメッセージを送りやり取りをしていく。


「凄いことしてたんだな」

「大変な仕事だったよ。みんな心を病ましてるから一言一言考えないといけないし、信用を得るのも難しいし、1人で抱えられる量じゃなかったよ……でも嫌じゃなかったかな」


事務所の中は普通に部屋だった。1人の人間がそこで暮らしていることが伝わってくる。事務所は大きな部屋が作業場、冬花の部屋、叶の部屋の3つで叶の部屋ドアは鍵がかけられている。


「鍵かかってるな」

「壊そう」


淡白な会話に響く大きな音。どこから持ってきたのかハンマーで叩いていた。木がぎしぎしと壊れていきバキっと空いた穴を広げていく。


「とりあえず、先入って僕が入っても大丈夫か確認してもらっていい?」

「好きな相手ならラッキーチャンスじゃないの?」

「好きな相手だから紳士的でいたいんだろ」


空いた穴に手を入れて鍵を開ける。


「うん、大丈夫入ってきて」


好きな相手の使っていた部屋は1つの机とベットだけが置いてあった。机の上には封筒が何枚も置かれていて、1枚の写真立てがあった。その写真には幼い叶と顔を黒く塗りつぶされた少年が映っていた。


「嫌な写真……」


冬花の言いたいことはわかる。でも、この何も無い部屋に置かれてあるたった1枚の写真。大切にしてるってことだよな。

冬花は机にある封筒を1枚取って開けた。非常識なんて責められる立場にないけど、やっぱり無遠慮に踏み歩いていいのか。


「人が、死んでるだよ。心歪病は」

「え?」

「さっき言った仕事、相手にする人は君の何十倍もあった。その人が周りの誰かを自分自身を殺すことだってあるんだよ」

「ん、、、」

「心歪病はない方が良いんだよ」

「そうだな」


僕も1つの封筒に手をかけて中身を見る。最近のものだった。

雪下高校同窓会の誘い。

ねぇ、私たち叶に参加して欲しいって思ってる。

もう大人になったから誰もあのこと気にしてないよ。

そんな内容と共に場所と日時が書かれていた。

10月12日20時 レストラン有夢


「何これ」

「どうした」


冬花は手に持った紙をみながらワナワナとしていた。叶の父親だと思われる秋内善あきないぜんからの手紙だった。内容は罵詈雑言で支離滅裂なものだった。そこには明確に叶への怒りがある。


「この封筒読むのやめよう」

「とりあえず、同窓会に行ってみないか」


今日が10月10日金曜日2日まだある。


「叶のお父さんのところに行くか」

「それしかないよね」


送られてきた手紙の住所を見てスマホで調べる。場所は吉祥寺のあたりだった。善は急げとすぐに電車に乗って家の方に向かった。駅から少し離れた住宅街そのひとつの一軒家に掲げられた表札には秋内と書かれていた。一見綺麗に見えたが庭には雑草が生い茂りどんよりとした空気が漂っていた。嫌な雰囲気はしつつもインターフォンを押した。


「何か御用でしょうか」


暗くて低い男の声が聞こえてきた。


「叶さんの後輩の者です。叶さんのことでお聴きしたいことがありまして」

「帰ってくれ…」

「お願いします。叶さんを助けるためなんです」

「どういうことだ」

「詳しく話させて頂くので中に入らせてもらえませんか」

「……わかった」


ガチャっと音とともにドアが開いて、中から40半ばぐらいの男性が出てきた。叶の面影は残しつつも明らかに老けている。というより顔色が悪いのだ。


「散らかっているが気にしないでくれ」


中は荒れていた。紙が散らかり衣服が雑に置かれている。リビングに通されてソファーに座るように言われた。一人暮らしだと感じさせられる。


「お茶しかないが良かったら飲んでくれ」

「あ、ありがとうございます」


向かい側に座るとこちらの目をしっかりと見て話してくれと言わんばかりに腕を組んだ。


「どこまでご存知なのかはわかりませんが、叶さんが警察にあの超能力の重要参考人として、連行されました」

「ニュースのあれか」

「はい。僕らはそれをどうにかしたくて叶さんのお話聞かせてもらえませんか」

「待ってくれ、叶は何故重要参考人となったんだろ」

「叶さんが運営していたデリバリーパピネスで超能力を発症した人たちと関わっていたからです」

「それは不幸だな」


なんとも他人に対するような言いようが引っかかった。それにこの人は焦ったり心配する様子がない。


「それで叶さんの中学生以前の話を聞かせてもらいたいんですが」

「関わるのはやめておけ」

「それはできないです」

「あいつは化け物なんだ。母親を病にかけて殺した」

「それは心歪病ですか」

「知っているのか。」

「僕らはどちらも元感染者ですから」

「ふ、心歪病は治らんよ。決して症状が出てないようでどんどんと大きくなる。そして死へと導く。それが心歪病の呪だ」


死へと導く。僕が考えた最悪の可能性の1つ。どうも心歪病は弱味につけ行っているそんな気がしていた。ただ、それよりも治ることのない病その言葉が心の首を締めていた。


「それは本当ですか」

「あぁ私の妻はそうして死んだ。」

「叶さんは治したがっていました。自分が死んででも皆の病をとめようとしていました。」

「実際はどうだ。叶は生きている。君という人間を私は知らないが君がこうして私のところに訪れるような人なら自殺を止めることを叶は予想ができるとは思わないか。」

「そんなわけないでしょ」


語気が強まってしまった。


「君は優しい人なのだろう。叶の話を少ししよう」


少し目を弛めて秋内善は話し出した。

叶は元気な女の子だった。いつも笑顔で駆け回り皆の中心だった。小さい頃からずっと。男女問わずに好かれ、一種のカリスマ性を有していた。人の心は動かせるといつからか気づいていた。小学校ではやりたいことをやり通した。反対のあった劇をいつの間にか全員賛成へと持っていき、生徒手動でタイムカプセルも計画した。秋内善は少しだけ怖さを覚えた。中学に入ると落ち着いたように見えた。中心として活動しなくなり、勉強に励むようになった。

そんな中いじめっ子の問題児であった女の子が屋上から飛び降りて亡くなった。前日に叶と話している姿を見た人がいたようだ。その時秋内善は思った。きっと叶が追い込んだのだと。それからすぐだった。叶の母親が心歪病にかかったのは。私の母は未来が見えると言っていた。見た人の最後の瞬間が。色んな死に様を見て心を病ました。小鳥遊先輩と同じものだった。

叶は日記をつけていた。内容はわからなかったが自分の母親を見て自分の力を把握しようとしていたのだろうと。しばらくして母親は自殺した。


「私は叶を娘だと思っていない。妻を殺した容疑者のように思っている。だからこれが最初で最後にしてくれ。これ以上は関わりたくない。」

「わかりました。最後に中学校の名前と叶さんの部屋を拝見させて貰えませんか」

「各城矢幡中学、叶の部屋は2階の1番奥の部屋だ。ものは好きにとってくれ」


僕と冬花はお礼をして2階の部屋を漁った。日記を入手したかった。叶が本当にそうな人なのか信じられない。だから日記を見ればわかる気がした。

1時間ほど探してようやく日記は見つかったただ、鍵がかかっていて、力ずくでは無理そうだった。

諦めて、日記だけいただいて家を後にした。

悲しいことにわかったのは嫌な情報と

だけだった。

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