第20話邂逅の理由
「晴と初めて出会った日あれは偶然じゃない」
その言葉を皮切りにあの日のことを慈しむような表情で語り出した。
秋内叶当時高校三年生。唐突に病にかかったことを自覚する。自分が心歪病の源であり、病を感染させている人間だと。
その時の叶にとってそれは現実的な問題ではなかった。自身に実害がなく、確信を持てる事象は起きていなかったからだ。普通の高校三年生にとってそれよりも目の前の大学受験の方がよっぽど大切なことだった。
勉強に行き詰まりを感じた叶は息抜きにどこかへ出かけようと計画を立てた。電車の経路、お店を調べる途中に地図上に動く光が見られた。なんともなしに見つめていると流れてきた。その病の症状が。その1つが江ノ島に向かっている。
叶は興味を示した。それは怖いもの見たさであったが会ってみることにした。心の声が漏れ出るというそれ自体は危険なものではないが、どんな相手なのかどんな状況なのか掴めない。最初は遠くから見ていようと思っていた。
海を眺めていたのは中学生くらいの男の子。海をぼーと見つめていた。哀愁の漂う後ろ姿に嫌なものを感じていると声が聞こえた。(死のう)そんな言葉だった。叶は慌てながらも落ち着いて彼近寄った。
「海はきれいで良いね。なのに君は陰気臭くて嫌だね」
そうして出会った男の子に話を聞いて、何とかしなきゃそう思って、考えて案を出した。
それからは晴の体験した通り、叶は晴の心歪病を解決した。地図上には光るマークは消えて、叶には確かな満足感があった。それがデリバリーパピネスを創設したきっかけである。1人では手に負えないことはわかりきっていた。だから晴を心歪病への対策として、
「だから晴のおかげなんだ。デリバリーパピネスが出来たのも私が生きられたのも」
「デリバリーパピネスができた経緯はともかくどうして生きることと関係が」
「それも晴が自殺しようとした時に私は生きていてはいけないってそう実感した。このまま無関心に生きていたらきっとどこかで誰かが私のせいで死ぬ。それなら私が死んだ方が良い。だから、デリバリーパピネスは私にとっての生命線。抑えきれなくなったらこれも終了。私は死ぬ元々決めてたこと」
これで話はおしまいとでもいうように立ち上がった。話を聞いてる間引き止める言葉はずっと考えていた。何か案は思いつかなかった。そりゃここに来る間だってその事ばかり考えていたのに思いつかなかったんだから。だから今から言う言葉は我儘にしか聞こえないだろう。でも叶なら
「待ってよ、その方法には確実性がない」
「少なくとも増えはしないよ」
「既にどうしようもないくらい増えてるでしょ」
「他に方法は?」
「まだない」
「じゃあ仕方ないよね」
「なんで!、、、周りが諦めてないのに本人が諦めちゃうんだよ。」
その言葉でようやく振り返って隣に座ってくれた。
「……晴を信じて良い」
「あぁもちろん」
いまは嘘八百で良い。叶を死なせないことだけが何より重要だ。たとえ僕の心歪病が叶が原因でもそれを何とかしてくれたのは叶で僕はその姿を好きになったんだ。この邂逅にだって意味があるはずなんだ。
「これも仕組んだ邂逅だったんだけどまさか言いくるめられるなんてなー」
「いいじゃないですかこんなカッコ良くて実績のある優秀な人が助けるって言ってるんですから」
「そうだね、私ももっと生きたいからね」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます