第19話思いつくこと

***秋内叶

「今の感じだと、晴はくるよね」


電話越しのあの雰囲気は小鳥遊さん話したんだろうなぁ。勘違いして欲しくないのはダメでは無いのだ。私は許可してるし、隠し通したいことでもない。もっと言えば隠してはいけないことだ。

彼が思いつく私のいる場所なんて江ノ島くらいだと思う。でも私は家にいる。仕方ない可愛い社員のためだ。江ノ島にいてあげよう。


***音無晴


あの人が気分が沈んだ時に行くのは江ノ島のあの海だろう。電車を調べて江ノ島へ向かう。

電車に乗ってる間に話すべきことを考えた。その時思い出したことは出会いと立場が逆になったということだ。それなら同じことをしてあげればいいじゃないか。たった2人ではあるけど、僕は心歪病を解決してきたんだ。

電車を降りて浜辺に行くと何度も見たあの人が座っていた。後ろからそっと近づいて言った。


「この海にその顔は似合わないよ」

「この海はそれも包み込むくらい寛大だよ」


振り返った叶は全然悲しそうな顔をしていなかった。あの電話の感じはなんだったんだろうか。


「それにしても遅かったね。待ちくたびれたよ」

「え!僕が来るってどうしてわかったんですか」

「小鳥遊さんから私のことを聞いた君が私の電話を聞いたらどうするかなんて、晴を知っていたらわかると思わない?わざわざ江ノ島まで来たんだから」

「そう言われると恥ずかしいですね。でもその表情だと良い解決方法見つかったんですね」

「変わってないよ。私は死ぬよ」


なんて言った。どうして、そんななんてこともないように言えるんだ。ダメだ。動揺してるだけじゃ変わらない。何か、何か言わないと。


「そんなのダメです。僕が解決します。何か方法を見つけます。」

「それはいつかな」


いつ、と言われてしまうとわからない。でもいつかきっと、そう口にしようと思った時叶の顔を見て言う気が起こらなかった。


「いつかじゃダメだよ。その間に何人亡くなっちゃうかわからない。」

「それでも僕はデリバリーパピネスの従業員です。心歪病は解決しないと。」

「私はデリバリーを頼んでないよ。良かった最後に晴の顔が見れて今までありがとう。それと、私は身寄りがなくてね、デリバリーパピネスで貯まった財産は君に譲るようにしておいたから」


そんなこと望んでない。引き止めないと。言葉を紡がないと。今この人を話したら後悔だけじゃすまない。


「デリバリーパピネスで対策すればいいじゃないですか。」

「ん?」

「政府だって、この状態を止めたいはずでしょ。ならいままでのデリバリーパピネスの情報を提供して、対策課を作れば解決策を思いつくまでの時間稼げますよね」

「まずね、今まで秘匿に活動してきて、確証を得られないたかだか大学生のことを真に受けてもらえない。次に政府はどう思うだろうね。根本の問題である私をそのままにするのは危険だし排除したいと思うのが普通。それとこれ知らない?」


叶が見せたスマホの画面には島野京介死亡と書かれた記事が書かれていた。サイコキネシスを使用し、自身を浮かして飛んでいたところ落ちて死亡したとのこと。


「相当話題になってるこれ。私には原因がわかる。島野京介の心歪病はサイコキネシス発動中に治った。」

「待ってください。京介さんの原因は娘と妻の死亡、加害者の殺害による罪悪感のはずです」

「心歪病はね。前に防衛本能だと言ったけど少し違くて、心に抱える暗い気持ちが大きくなると現れる。心に抱える暗い気持ちって表現したのはその幅が広いからだけど、その気持ちが小さくなれば原因を取り除かなくても治る。小鳥遊さんとまぐろちゃんそれと今回のことで確信した。島野京介は能力の開花を利用し、周りから注目され、心を満たす悪事を働いたことによって、心歪病の源となる気持ちが小さくなって、消えた。心歪病が治ったこと自体は私の病でわかる。」


つまり、心歪病の症状を悪用するものはいずれ治って、普通の人に戻る。


「対策課の話だけど、私も少し考えてみたんだけど心歪病の対策課には心歪病の人間がいる。でもいつか消えてしまう病をそのリスクを背負わせて悪用する危険な人達を捕まえて貰うなんて出来ない。」


叶は僕よりも聡明で色んなことを思いつく。僕が考えうることは全部考えたあとなんだろう。


「心歪病にかかるのは心の弱ったいつかの君みたいな人と、犯罪を犯した人が多い。それは私の病でわかること。私は生きたいからデリバリーパピネスを始めた。そのきっかけをくれたのは晴。君だった。」

「何を」

「あと少しだけ私の話を聞いてよ」


いくらだって聞く。これから先だって聞きたいし話したいんだ。今は少しでも何かを考えないといけない。


「私だって生きたいんだよ」


風が吹いて、波が押し寄せて、髪をなびかせて、波が引いていく。僕は今初めて、叶の本音を聞いた気がした。

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