第18話疑念の解消
「京介さんなんでここに」
「脱走してきた」
平然と言うことじゃないだろ。脱走も犯罪者だぞ。
「戻りましょうよ。罪が重くなりますよ」
「無期懲役以上なんて死刑しかないやろ。それならそれでええ。正直生きてくのも大変なんや」
ん、、、なんも言えない。
「でもどうやって脱走」
「なんかな超能力に目覚めたんや」
京介さんは手を伸ばすと手桶とブラシが浮かんで動き出した。墓を磨き水で流す。ひとりでにおこるそれは見ているだけで感覚がバクっていくようだ。
「こういうのなんて言ったかな。サイコキネシスだっけか」
京介さんのそれは心歪病なのか。今までとは明らかに違う。直接干渉することが出来る症状。
「どうするんですかこれから」
「決まっとるやろ。警察から逃げながら観光や」
「逃げながらって」
「じゃあなあんちゃん、会えたらまた」
京介さんは走って闇の中に消えてしまった。これじゃどうしようもないと叶に電話すると珍しく焦っていた。
『まずいよ。心歪病が世界中に知れ渡る。都市伝説じゃ収まらない。』
「知られた方が受け入れる体制ができるんじゃないですか。」
『それはいつか来たら嬉しい話で今すぐは誰も受け入れられないよ。誰かに心を読まれたり、関わるだけで寿命が縮まったり、サイコキネシスなんて異能とまで言えるものを持ってる人を受け入れろなんて普通の人には無理だよ。』
「確かにそうですね」
『私も考えるから、とりあえず家に帰って君も考えて』
家に帰ると京介さんの顔がニュース速報で報道されていた。殺人を犯した犯罪者が逃げ回ってるとなるとどこもそのことで話題が絶えない。ネットでは京介さんを見かけた人が投稿して、サイコキネシスと思われる動画まで出回り始めた。そのコメントにちょこちょこと見かけられる心歪病の文字。まだ、都市伝説としか語られていがいずれそれだけでは収まらなくなる。
***
超常現象と世界は騒ぎ立てた。各局が報道して、京介さんはそれに応えるようにサイコキネシスを見せつけた。意外なことにその超常現象は受け入れられた。ただし、それは存在であって危険視されている結果となっている。それから各地で自分も異能を持つと表明するものが現れてきた。心歪病は都市伝説になるくらいには感染者がいたのだから当然のことだった。
僕はそれをただ眺めてることしか出来ずにいた。
知らなかったふりをして過ごし、叶のことを考える。デリバリーパピネスという存在に世界が気づく日が来るかもしれない。
連絡があった。小鳥遊先輩だ。ニュースを見てきっと電話をしてくれたのだろう。
『もしもし、晴』
「はい」
『このニュースのことなんだけど』
「僕の担当した人の心を救う前に脱走してこうなりました」
『そ、そうなの』
「その事が聞きたかったんじゃないんですか」
『いえ、私隠してたことがあるの。心歪病のことと秋内さんのことで』
「隠してたことですか?」
『えぇ、江ノ島の時に2人で話したこと。』
「教えて良いんですか」
『それが今必要なことだと思ったから。だけどこれは大切なことだから直接伝えたい。』
「それじゃあ、明日の昼学校の屋上で」
叶と小鳥遊先輩の話していたことか。あの日確かに気になっていた。叶が小鳥遊先輩に2人だけで話したいこと。
***
昼休み屋上に向かうと小鳥遊先輩が既に待っていた。珍しく文庫本を持っておらず、表情も硬い。
「早速だけど話そうと思うは」
「お願いします」
「あの日秋内さんは私の気持ちを察して2人きりにしてくれたの」
「叶が話したいことがあったわけじゃないんだ」
「えぇ、私の秋内さんとデリバリーパピネスへの疑念を聞きたかった。いえ、問い詰めたかった。」
聞きたいではなく。問い詰めたい。訂正した意味を少し考えた。
「考える必要はないわ。勿体ぶるつもりもない。私が問い詰めたこたはね。私がどうして心歪病だってわかったのか」
「えっとそれはどういう」
「察しが悪いわね。晴は疑問に思わなかったの?どうして、秋内叶は関わったことのない人間が悩みを抱えているとわかるのか。どうして、悩みは心歪病だけなのか。晴はデリバリーパピネスはわかるって形で認識してるみたいだけど、その根拠はどこにあるのか思いつく?」
デリバリーパピネスがなぜ悩みを持った人間を見つけ出せるのか。なんで疑問に思わなかったのだろう。そもそもあの日どうして、僕に出会って心歪病だと見抜いたのだろうか。いや違う。知ってたんだ僕が心歪病だって、でもどうしてスゴロクは振り出しにもどった。
「思いつかないです」
「秋内さんは答えてくれたわ。私は心歪病の始祖で源だと。秋内さん自身が心歪病そのもので病を感染させてしまうと言っていたわ。感染するのは心が弱った人で地図を見れば感染症の位置と人物像がわかる。ただ、どんな風に病が現れるかはわからない。」
「じゃあ、秋内さんの病を治さないと」
「私が聞かないと思った。どうして自分自身を治そうとしないのか。そしたらね笑って言ったのよ。私は根源みたいなものだと。それを治して消し去るってことは死なないといけない。まだそれはしたくないかな。そのためのデリバリーパピネスなの」
死なないとってなんだよ。おかしいだろ。
なんで叶がそんな風に思わないといけないんだ。
「秋内さんとは連絡取れてる?」
「昨日は解決策を考えると言ってました」
「そう。秋内さんのそばにいてあげて、あの時それを言えなかったから私は今日まで黙ってた。今も本当は言いたくないけど、後悔したくないから。秋内さんがこんな状況になったらどうすると思う?」
心歪病による能力者が力を悪用し、混乱をよんで被害者を生み出している。叶は優しいからきっと責任を感じて色んな策を考えてるはずだ。でももしそれでも思いつくことがなかったら。あの人が出す答えはきっと
「……自殺」
そう答えが口に出た時何も考えずにその場を飛び出した。小鳥遊先輩のことをほっておいて。スマホで電話をかけながら玄関へと走る。自分のやってることは小鳥遊先輩にとって最低の行為だ。勇気を出してくれた相手に僕を好きだと言ってくれた人に何も言わず他の人のために体を動かした。
このスマホが繋がると信じて、叶に伝えるために。
何回もコール音が続いて、6回目で繋がった。安心感が体を巡った。眠そうな叶の声が聞こえる。
『解決策見つかったよ。ありがとね晴くん』
その声が明るければ僕も明るくなれた。ただその声が何かを諦めたようで僕の焦りは増した。
***
「自殺とだけ言って走り出してしまったわ」
もう少し人の気持ち考える余裕くらい持ってほしいものだわ。こうなるのが嫌だったから言えなかったけど、秋内さんには死んで欲しくない。晴を助けてくれた人で、私と晴を巡り合わせてくれた人だから。私は結局負けっぱなしだったわ。あの時答えをもらっておけばよかった。いつまでたっても晴の心は変わらないし、動かなかった。いつも中心は秋内さんだった。私の惨敗ね。こんな一心不乱に向かわれたらどうしようもないじゃない。
鼻をすする音が耳に聞こえた。誰よ。泣きたいのは私。違う、これは私だ。気づくと流れる涙は止まってくれない。
「とまってよ。とまってよ。全部覚悟の上じゃない。」
嗚咽が出てきて、歯を噛み締めた。毎日綺麗にセットしてる髪もほんの少しのメイクも君のために綺麗にしたものが乱れていく。
「あぁ、やっぱり良かった。こんな姿見せられなかったから……」
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