第17話不思議な男
マグロちゃんが消息不明になって2週間宙ぶらりんな暮らしをしていた。暮らしなんて言っているけどただ毎日学校に行って、授業を聞き流して、鳥遊先輩と弁当を食べて、帰路に着くだけ。ってまぁ小鳥遊先輩とのご飯は幸せだけど。
家に帰ってもチャンネルが更新されていないかとマグロちゃんのアカウントを見たり、転生の記事を探したりそんな感じだ。そろそろもうひとつの処罰が下る。配達先は刑務所そこにいる男に届けるというもの。刑務所にいる人の悩みなんかわかんないし、解決して欲しいのはこっちなんだよ。
電話がかかった。叶からだろう。
『もしもし叶だよ』
「刑務所への配達ですか」
『うん。明日の放課後行ってもらえる?』
「嫌です……」
『ん、なんて言ったのかな』
「嫌ですって言ったんですよ。マグロちゃんの居場所がわかるまで行かないです。」
『困ったなぁこれは君に対する処分なはずなんだけど。どうしてそんなにマグロちゃんが心配。もしかして好きになっちゃったのかな』
「そうじゃない!こんなのおかしいじゃないですか。何も知らされず、マグロちゃんとは連絡が取れない!何したんだよ叶」
『規約破ったんだ。もういいよ。音無くん。今日限りで君はクビだよ。じゃあね』
一方的に切られて終わってしまった。感情的になってつい漏れてしまった。言いたかった言葉はそうじゃない。ただ説明して欲しかったんだ。ただマグロちゃんは大丈夫だよって安心させて欲しかったんだ。ベットにダイブして今日はそのまま寝た。朝スマホを見るとデリバリーパピネスのアカウントはなくなっていた。なんのためにデリバリーパピネスをやってたんだろ。ひとつだった大切なものが増えてひとつのためにもうひとつも諦められなくなっていた。マグロちゃんももう友達なんだ。
昼休み。いつも通り小鳥遊先輩とお昼を食べる。
「デリバリーパピネスクビになりました」
小鳥遊先輩は驚いた顔をして目をパチくりとさせていた。
「良かったじゃない。あんまりにも身を削り過ぎなのよ。救われた私が言うのもなんだけどね」
「何も解決してないんです。マグロちゃんのこと叶のこと2つとも手放すことになった。」
「手放すなんて言い方するべきじゃない」
「でも、僕は今回ずっと流されていたんです。自分の考えで動けなかった。順風満帆な相手に責任を持てなかった。誰かの言う通りにするのが楽だからそうやって、逃げたんです」
「なら、今度は自分の考えで動けばいいじゃない。マグロちゃんはもう順風満帆ではないのだから無責任なりに責任を取ってあげなさい。」
「小鳥遊先輩……」
「まぁこれで動いたら私が言ったからそうしたっていうパラドックスみたくなるけど」
「なら小鳥遊先輩の反対を考えれば良いだけです。デリバリーパピネスの仕事受けます。」
「まぁそうする以外ないと思うけど、ただひとつだけ考えといて、相手の悩みを解決する以外のこともしっかりと考えなさい」
「ありがとう。小鳥遊先輩」
昼休みの間にすぐに叶に電話をした。電話番号は登録しておいたのでデリバリーパピネスのアカウントがなくても問題なかった。依頼をやらせてほしいと頼んだら叶は喜んで晴を信じてたよと元気に言っていた。放課後、有無刑務所に配達に向かう。配達場所に向かう間に警察のおじさんが言っていた。刑務所は悪くはないが良い場所じゃねぇ。月一くらいは楽しみを与えないと毒素も抜けねぇとデリバリーパピネスで好きな物を食べられるようにしているらしい。
「1226番出ろ」
「おぉーきたかぁ月一の楽しみ。ハンバーガー」
意外にも出てきたのは髭もしっかりと剃っていて清潔感のある40代後半くらいの男で上下のボーダーが良く似合う細身のやつだった。
「あんちゃんあんがとな。柊さんこのあんちゃんと食べてる間話してもいいか」
警官の名前はどうやら柊というらしい。柊さんも嫌という顔をしているわけでもない。この人はそんなに悪い人じゃないのかな。
「君はどうだい?囚人と話すのは嫌かい?」
「いえ、少し話してみたいです」
「おぉーあんちゃんええやつやなぁー」
独房の中に入って商品を渡して、床に座る。正直この空間に長くいたくない。デリバリーパピネスってことはこの人の悩みを聞かないといけない。
「お兄さんは何か悩みとか解決して欲しいことってありますか?」
「ん、いきなりやなまぁここから出たいな」
「刑期どれくらいなんですか」
「無期懲役でね、もう出れないのさ」
「じゃあ無理っすね」
「そりゃねー1日出られれば良いんだけどね」
「妻と娘に会いたくてね」
「結婚してるんですね」
男は食べる手を止めて口を開いた。
俺はね、人を殺しちまったんだ。交通事故で死んだ妻と娘を轢いた男の首を絞めて捕まった。後悔はしてる。反省もしてる。その男にも家族がいて、その娘が泣いてたんだ。そいつが1人の時にやったつもりが娘が帰ってきてな。一生のトラウマを背負わせてしまった。だから、1日墓参りしたいんだ。
それまで言って口を閉じた。
「墓参りですか。その場所は」
「この近くの幽遠の地って場所に眠ってる」
「解決はしないと思いますけど、僕が変わりに行きますよ。何か伝えますか」
「あんちゃんは本当に優しいな。俺はあいつの娘の顔が忘れられない。俺は天国に行けねぇだろうからな、ダメな夫で、ダメな父親でごめんなって謝っといてくれないか。」
「わかりました。」
「恩に着るよ。それと俺のことは京介と呼んでくれ、苗字は島野」
そこから男は何も言わずにハンバーガーをむしゃむしゃと食べ切り、そこで別れた。
その夜墓参りに向かった。幽遠の地に花束を持って島野と書かれた墓を探す。外はもう暗くスマホを明かりを頼りに回るとその墓の前に人影が見えた。
「あんちゃん本当に良い奴やなぁー来てくれたんだな」
上下ボーダーをきた男が手を合わせて墓の前にしゃがんでいた。
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