第16話カップルチャンネル爆誕
「もう少し話そっか。この心歪病にかかったのは4年前。私がvirtual世界にくる前だね。人の心が聞こえるのって悪いことじゃないんだ。嫌な人とは距離を置けるし、相手の見え方を理解できるからね。でもそれはその中に良い人がいる前提だったんだ。」
その言い方だと良い人がいなかったことだけどそんなことあるものか。
「そう思うのが普通だよねーでも心の声なんて誰にも聞こえないと思ってる本音なわけでそこで何かを思うことは悪いことじゃない。だからこそね、みんな本音を隠してることが伝わってきて、人と関わりたくなくなっちゃたんだ。」
じゃあその傷はどうして出来たんだ。
「夢遊病ってやつなのかな」
「え?」
「この傷をつけたのは自分だよ。寝ている間にだけどね。心歪病と併発しちゃってさ。自分を傷つけるようになってたみたいで。それを不気味に思った母親も父親も病院に連れてってくれたけど、愛はなかった。心を盗み見ちゃってこの厄介な存在をどうしようかってことばかり考えてることが伝わってきてさ。それでひきこもって配信活動始めたんだ。」
「こんな事言うのもあれだけどなんで配信」
「他の人の配信見て気づいたの画面越しなら心の声は聞こえない。私は表面だけの会話がしたい。本音なんて聞きたくないからだから私がVTuberになったんだ。運良く人気者になれたしね。ラッキーだったよ。」
そうか。本音の会話は疲れるだろうな。僕は一方的な発信側だったけど、それでも拗れた。1人の本音でそれを聞く側が嫌になるって考えたらそれを1人でありえない数を受け止めるマグロちゃんは地獄だっただろう。
「ねぇ、今から配信しようよ、2人で」
「それはカップルチャンネルってこと」
「うん!どっちにしたってあんな記事が出たら私も晴くんも痛い目見るしなら先手を打とう」
「でも僕virtualのからだないよ」
「live2dは無理だけど絵ならどうにかできるよ」
そう言ってタブレットを取り出したマグロちゃんはさっさとペンを握って画面に描く。数分そのまま続けてペンが止まる
「とりあえずのラフなんだけどどうかな」
「すごいよ!これ」
もしも、自分がアニメの世界のキャラだったらこんな感じになるだろうが完璧な形で決まってる。この絵を見て僕を見れば本人だってわかるほど似ている。
「配信の枠たてるよ」
「もうどうにでもなれだ!」
正直言って不安だ。ここまでの行動全部マグロちゃんだったり記事に誘導されているような感じがして何も自分はしていないんじゃないだろうか。
「おはマグ!緊急特別配信だよ!この前のデリバリーハピネスの人とのカップルチャンネル始動します!まずは自己紹介」
さっき書いてくれた絵が配信画面に映し出される。
「どうも、デリバリーパピネスのシャチめろです。マグロちゃんの彼氏やってます」
「やってますって!設定みたいに言うな!」
そんな感じで始まった配信は即炎上。SNSトレンド1位。皮肉なことに同時視聴率は過去最高の15万人。終始シャチめろの名前の両サイドに炎のスタンプがされたコメントが流れてくる。僕は緊張して噛みまくるしかなり地獄の神回となってしまった。
ファンの一部は消え鍛えられた精鋭だけは上手く残った。
「なぁマグロちゃんは配信が大事?」
「うん。今の私にとってこれが全てって思えるくらい大事なことで大切なこと」
「人の心が聞こえなくなっても?」
「当たり前だよ」
それだけ聞いて家に帰った。次回からはディスコードを使ってやればいいからとマグロちゃんの家に行く必要はなくなった。家に着く頃には記事は上がっていて炎は燃え盛った。でもいつかは燃料が尽きれば燃えなくなる。
徒然なるままに叶に電話をかける。
「もしもし叶」
『どうしたの』
「相談がありまして」
『聞くよ』
「新しい道を開くか今あるものを大切にすることどちらを取ればいいですかね」
『それは何かの例えかな』
「まぁそうですね」
『過去は乗り越えられる。今は難しい。未来は切り捨てられない。』
「何かの例えですか」
『君が体験したことをヒントにしただけだよ』
マグロちゃんの悩みはどっちなんだろう。配信の伸び悩みか心歪病なのか。はたまたどちらもなのか。
叶は自分を信じろって言いたいのか。
僕はそんなに自信の持てることをした覚えはない。
僕らは配信をし続けた。何回も何十回も
***
燃料が尽きれば燃えなくなる。その言葉をマイナスの意味で捉えていなかった。時視聴率は500人を切り今までいた切り抜きしたちは他のVTuberに方向転換した。マグロちゃんは確実に心を病ました。不幸中の幸いと言えば心歪病が治ったことだ。ただそれは最悪での形だった。信じていたファンに見捨てられて、現実もインターネットの世界もどちらも変わらないのだと絶望して、期待しなくなった。その時心の声は聞こえなくなった。マグロちゃんは僕に依存し始めていた。僕以外何も無いのだと本気で思っている。
「私が死んでもさ世界は何も変わらずに何事も無かったように進んで行くのって残酷だと思わない?」
「残酷ね…僕からしたら誰かの死で全員が停滞してしまう方が残酷に思うよ。それにさ私って言うけどその主語は間違いだよ。私たちだよ。大抵の人間はみんなそう」
「それもそうだね」
それが最後の会話だった。叶からの処罰が下ったからだ。デリバリーパピネスの私用による罰はマグロちゃんへの今後一切の接触の禁止と次の配達場所の指定だった。もっともあの状態のマグロちゃんを放置しておくのは怖かったからディスコードをつかって連絡をとろうとしたが電話には出ず、メッセージに既読もつかない。不安になって家に行けばもの家の空だった。これ以上知ることは不可能だった。叶に聞けば接触をとろうとしたことがバレてしまう。
「僕は正しかったんでしょうか」
『どうだろうね。ただ心歪病さえ治れば未来の選択肢はいくらでも生まれる。もっと先の未来で衰退してしたら何も出来なくなってたんじゃないかな』
「でもマグロちゃんは配信活動を望んでいた」
『今を切り捨てるのは難しいからね』
「マグロちゃんは今何をしてますか」
この言い方ならばさぐれるかもしれない。こんなに迅速な動きはデリバリーパピネスが関わってるに違いない。
『私は知らないよ。どうなっているかなんてね。燃料を無くしてしまったのかもしれないし、新しい燃料を手に入れたのかもしれない』
「僕は向いてないと思います。デリバリーパピネス。僕は流されただけだった。」
『そんな事ないよ。君は向いてる。いずれもっと理解できるよ。今日のことも未来のことも。』
電話が切れて部屋は無音となる。スマホの画面はさっきまで開いていたページが映る。動画は1本もないが、登録者は多いハリボテのようなチャンネル。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます