第15話いつも上手くいかない

「私さ、人と関わるのがすごい苦手なの」

「うん」


マグロちゃんは前にあったときソロ配信だけをしていたい的なことを言っていた。


「でもそれじゃこの世界を生き残れない。共存して新しい1面を見せないといけない」

「そうだね」


それは数々の人達が証明してきたことだ。飽きられたら終わる。それでもマグロちゃんは熱を持ったファン達に推されているからそんなに深刻なことではないと思うけど。


「ファンって長くいてくれる人もいるけど熱しやすく冷めやすいんだ。私たちの魅せる幻想はね。少しの現実で簡単に崩れてしまうから。」

「つまり、自分のスタイルを変えて人と関わる挑戦をするからマネージャーとして連絡とか諸々やってほしいってことで合ってる」

「そう!正解!ザッツライト!!」


マネージャーか。僕は所詮ただの高校生だし、きちんとした対応の仕方を知らない。それならプロに頼む方がよっぽど良いと思うな。


「給与もはずむよ。デリバリーパピネスで稼ぐお金よりも高い金額で雇うからさ、どうかな」

「僕はデリバリーパピネスではほとんど稼げてないんだ。僕は困った人を助けてるから配達できる数は少ないし、そのお金も簡単になくなるから」

「やりがいとかでやってるってこと」

「ある人に恩を返すためだよ。だからマネージャーをずっとはできない。それにVTuber界の常識なんて知らないよ」

「それでも短い間でも晴くんにやって欲しい 」

「んー、わかった。協力するよ」


仕事用のメールアドレスを教えるためにマグロちゃんがスマホを開くと目を見開いて口をあんぐりとさせている。


「どうしたの」

「Twitterにトレンド入りしてる。何この記事。私に彼氏がいる?何それ」

「知らなかったの」

「うん」

「てっきり知ってると思って大丈夫か聞いたのに」

「そうだったたんだ。伸び悩んでることに対して心配してくれてるのかと」


マグロちゃんの手は今も震えている。あのコメントを読んだのだろうか。


「炎上してる。どうしよう」


僕もTwitterを開いて確認すると言葉の暴力がその空間には溢れかえっていて、彼氏説を助長させる。

信じていたのにという声。それは一途に信じるマグロちゃんの心をへし折ってしまうのではないだろうか。この炎を収めるすべを僕は持っていない。事務所に入っていれば運営が文面だして解決するかもだが、個人のVTuberが自分で否定しても信じてくれる人は少ないだろう。むしろ火に油の可能性だってある。


「コラボするか」

「え…」

「正しいかわからないけど、それを超える話題性があればなんとかなるんじゃ」

「そっか!天才だね!じゃあ早速お願い」


溜まっているメールに目を通して、話題性の高そうな相手を探す。チャンネル登録者数とその企画を見比べて選ぶ。とりあえずメールを返信する。


***

「やばいな」

「どうしたの」

「全部お断りメール。忙しさもあるだろうけどこの炎上のせいでなかなか厳しいものになってる。まさかひとつの記事でここまで大騒ぎになるとは」

「登録者も何万人って減っちゃったよ。なんか疲れたな」


やることなすことことごとくマイナスに繋がると凹むな。叶ならどうするんだろう。


「ねね、晴くん彼女いる?」

「急だな、いたことない」

「だよね」

「だよねはおかしいだろ」

「好きな人はいるの」

「振られたようなものだよ」

「ならカップルチャンネルをやろう!きっとVTuber史上初だよ」

「待て、待てそれは今までのファンの大半を切り捨てて嘘の記事を肯定することだぞ」

「わかってるよでもそうしないと私はいずれ廃れるから」

「それでもカップルチャンネルの失敗例は多い失うのもが多すぎる」


これだけは譲ってはいけない気がする。今までの4年間で作り上げてきたマグロちゃんを壊してしまう。


「でも何もしなくても私は消えていく存在だよ」


突然電話がなった。デリバリーパピネスに電話の機能なんてなかったような。


『もしもし、晴』


この声は叶だな。


「どうしたんですか晴呼びなんて」

『こっちが叶って呼ばれるんだから当たり前でしょ』

「まぁそれもそうですね。それでどうしたんですか声でも聞きたくなりました」

『私はそんな私的利用しません。むしろ晴が規約違反してますよ。どうやったのかわかりませんがとある記者が問い合わせて来まして、それも人気VTuberに個別で連絡をとったとのことで、私も確認したところわかりますね』

「はい」

『その記事が書かれるそうです』

「え!いつですか」

『今晩中とのことです。晴の処罰も検討中ですからね。 』


よりによってこんなタイミングでこんなことになるなんて。僕がマグロちゃんに関わってしまったからこんなことに。


「大丈夫そんなことないから」

「え?」

「やっぱり晴くんいい人だね」

「どういうこと」

「少し晴くんを信じて言うけどね。私、心歪病なんだ。人の心の声が聞こえるの」

「心歪病か……」

「人の心の声が聞こえるって時点でどうして人と関わるのが嫌かわかるでしょ」

「想像はつくけど…実際ってのは違うものだろ」

「うん。そうだね、何もかも拒絶して高校も辞めちゃうし、家族とも距離置いちゃってるしね」

「なら、それを解決しないとな。元心歪病の僕がどうにかしてやる」

「話すね私のこと」


マグロちゃんはここではあれだからと家に招き入れた。モニターやパソコンが置かれた部屋にはベッドがすぐ近くに設置されていた。マグロちゃんは簡易用の小さいテーブルを持ってきてお茶を持ってきてくれた。


「ちょっとそっち向いてて」

「うん」

「もういいよ」


彼女は背中をあらわにして座っていた。そこには消えることのない傷跡が痛々しく残っていて、思わず息を飲んだ。


「驚いた?体中に同じような傷跡があるんだ。幸いね顔だけは傷つけられなかったから、こんな可愛い顔が残ってるんだ」


幸いじゃないだろ、こんなの……だって顔に傷がないのだってそれはきっと、そんなことしたやつがバレたくないからだろ。自分が強く歯を噛んでることにようやく気がついた。僕は今腹が立っているんだとそう自覚した。



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