第14話困りごと

***マグロちゃん

「配信活動どうしようかな」


3つのモニターがある机にうなだれながら1人つぶやく。今のままじゃ私はひとりぼっちになっちゃう。

モニターに映る自分のアカウントに手を伸ばす。

198万と書かれた登録者数をなぞる。個人VTuberとしてはトップクラスな自覚はある。ただ、いつこの数が消えてしまうのかそれとも数字に意味がなくなってしまうのかと不安になってしまう。

歴が浅いVTuberにおいて私は古参な方だ。それが故に憧れの存在として気軽にコラボしない理由が成立していた。最近は同時視聴が減ってき始めて、マグロちゃんというコンテンツに力がなくなり始めている。


手元にあったスマホの開いてメッセージを確認するとコラボ依頼や案件がいくつもあった。人と関わりたくないからマネージャーを雇うこともなかった。

唯一頼んでるのは税理士くらいだ。あれは私には難しすぎる。


「音無晴かぁ。彼ならマネージャーになってくれてもいいかもなぁ。お金だけは私あるしなデリバリーパピネスより儲けられるしおっけーしてくれるかな。いやでも推しとはお近づきになりたくないタイプだったりするかなぁ」


でも、これ以上知ると彼を嫌いになるかもしれないしな。一旦やめとくかぁ。


***音無晴

配信が終わって、依頼の完了に胸を撫で下ろす。

そのままスマホをいじっているとネットニュースが目に入った。


『人気個人VTuberマグロちゃん!配信に男の声が乗る!!その男の正体とは……』


嫌な見出しだな。これじゃまるでマグロちゃんに彼氏がいるみたいに見えるじゃないか。記事の中身を読んでみると、それは酷いもので彼氏をデリバリーパピネスの配達人と偽っているのではないか。とかデタラメなことばかり書かれていた。あまりにも飛躍しているこんなのマグめろは信じないだろ。コメ欄を確認すると、そこにはマグめろと見られるファン達がマグロちゃんを叩いてる。空気は見えない間に伝染して、その声は拡大していく。真実かどうかは関係なく噂に尾ひれがついていっていた。

チャンネル登録は数万人減る大炎上となった。ほんとにこれで解決なのか。僕のアドバイスのせいでこうなってしまったのに悩みを解決できたなんて言えるわけがない。よし、小鳥遊先輩に相談しに行こう。芸能界とVTuber界は違うけれど、似てる部分は多いだろう。どうすれば良いか聞こう。


***


「やめた方がいいわ」


小鳥遊先輩に話したがかえってきたのは否定的な意見だった。


「あなたは配達員でファンなだけ。そのマグロちゃんとやらはあなたの言葉を聞いて、自分で選んだのだから自己責任よ。それにファンが下手に関わればストーカー扱いもありえる。」

「それでも僕のせいで彼氏がいるなんて憶測が」

「それも彼女のプロ意識の問題でしょ。その過失はあなたにない」

「ミスは誰にでもあることですし」


小鳥遊先輩はため息をついて持っていた文庫本を閉じた。


「あなたは私に何を求めているの?あなたは悪くないって言って欲しいの?それとも…関わる理由が欲しいの?それなら期待しないことね。私は否定派だわ。わかってるかしら私みたいな元女優じゃないのよ。ファンの層は厚いし、熱意は違うし、数も違うそのリスクを背負うの?」


何も言えなかった。図星だったというよりはそこまで考えていなかった。もっと単純に助ける、助けないだけで考えていた。僕はそれで失敗しているんじゃないか。たった一つだけ結論は出てるじゃないかそこを肯定してもらおうとしてた。


「間違えました。僕が助けたいんです。どうすればいいですか」

「肝心なところは私に聞くのね」

「すみません、僕にはどうしたらいいのかわからなくて」

「落ち込んでるでしょうね。なら、1つしかないでしょう。」

「その隙をつけと」

「得意でしょ?」

「女たらしみたいな言い方やめてもらえます」

「私はあなたにたらしこまれたけど」


ツッコミにくいことをしれっと言わないでほしい。ドキってする。


「酷いものね。告白してきた女の子に女の子を助ける相談するなんて」

「ほんとに酷いことな気がしてきた。刺してこないで心を」


デリバリーパピネスのメッセージ機能を私用するのは普通にダメな事だが、僕の仕事の本質はそこじゃないし許してもらえるだろう。マグロちゃんにネットニュースのリンクを貼って、大丈夫かとメッセージを送った。


『かなり困ってて、相談したい』

『わかった、この前のカフェでいいかな』

『もち、今日の17時でいいかな』

『大丈夫』

『ありがと!』


放課後カフェに向かうと、既にコーヒーを飲んでマグロちゃんは待っていた。


「待ったかな 」

「ううん。まだ時間前だし、私が落ち着かなくて早くきただけ」

「そっかなら良かった」

「来てもらって早速なんだけど私のマネージャーになってくれない」

「え!? 」


腑抜けた声がカフェに広がって、目の前のコーヒーの水面が揺れる。

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