第11話疑念の告白

「やぁやぁ久しぶりだね。音無くんと、、、初めまして小鳥遊さん」


江ノ島についたら、既に秋内さんは本をよみながら待っていた。本のタイトルは『三日間の幸福』だった。よし、今度読んでみよう。


「お久しぶりです。秋内さん」

「初めまして、勝手に来てしまってごめんなさい」

「いいよ。全然私も話してみたかったから」


ご飯でも食べよかっかとのことで海の見えるレストランに入った。あんま金ないけど大丈夫かな。


「心配しなくても、ここは私が払うよ。デリバリーパピネスで儲けてるからね。あと音無くんは心歪病を解決してくれたからボーナスってことで」


さすがにドレスコードというものはなかったが値段は2から3000円と高校生にとっては高めの金額だった。江ノ島だし生しらす丼とか食べたいのが本音だったけど、ここはイタリアンだったかパスタでも頼んだ。


「とりあえず音無くんありがとうやっぱり君は適任だよ」

「心歪病に出会うなんて思ってなかったですよ」

「そうだね、でも実際は意外と多いんだ。君が同じ学校の先輩である小鳥遊さんが心歪病だったとわからなかったように隠して生きてる人が多い」

「たしかにデリバリーパピネスやってなきゃ気づかなかったですね」

「みんな不安を抱えてるんだよ。隠してるだけでSNSなんて見るだけで落ち込んでしまうくらいに」


残念ながら思いあたる節がある。人との関わりがそう多くない僕ですらSNSでみる幸せそうな投稿に少し劣等感を感じる。何もしてない自分は高校生活を楽しめているのかなんて思うことがある。


「皮肉だわ。関わっていないといけないSNSで心を病ますなんて」

「悪循環ではあるね。そこでね、もっと人員が必要なんだ。できれば小鳥遊さんにデリバリーパピネスやってほしい」


小鳥遊先輩にはやらないで欲しい。できれば小鳥遊先輩には今までの分普通に生きて欲しい。


「ごめんなさい。それはできないわ。せっかく音無くんに助けてもらったから自分の人生をしっかり生きたい。それに隣でこんな顔されているもの」


また心を読まれたみたいだ。そんなに分からりやすい顔してるかな。でも良かった。


「そっか、それは残念。音無くんは小鳥遊さんと一緒にバイトしたくないのかぁ」

「悪意のある編集しないでください」

「冗談だよ。君には2倍働いてもらうしかないな」

「それも冗談ですよね……」


はは、と笑って誤魔化されたけど、冗談ですよね。1人分で手一杯ですからね。


「そういえば、今日どうして誘ったんですか」

「君たちがどんな風に心歪病を解決したのか話を聞きたかったんだ。でも聞かないことにするよ」

「どうしてですか」

「秋内さん。僕の一生のお願いです。まぁこの頃には僕は死んでるで有効かわからないですけど、もし解決出来なかったら助けてください。僕には出来なくてもきっと僕を救ってくれた秋内さんなら出来ると信じてます。どうかお願いします。音無晴」


ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙消し忘れた。タイマーセットしてたんだった。顔面が熱くなる。あれの実行前自分が死んだ時のために残した手紙を読み上げられた。


「あの、勘弁してください」


何とか絞り出した言葉がこれかと自分が本気で恥ずかしんでいることを自覚する。


「音無くんさすがだわ。こんな恥ずかしいことが出来るなんて、出会いを思い出すわね」

「追い討ちかけないでよ!」

「仲良くて何よりだよ」


仲良く?談笑しつつレストランを去って、もっと近くで海を見ようという秋内さんの提案に乗って目の前の海岸に来た。


「音無くんちょっとだけ席を外して貰えるかな」

「わかりました」


秋内さんは小鳥遊先輩に話があるみたいだ。心歪病のことかな。とにかく席を外して、自販機で飲み物でも買いに行った。


***小鳥遊清麗


「小鳥遊さん。私に話があるんじゃないかな」

「よく分かりましたね」

「なんとなくね」

「気になってたんです。デリバリーパピネスはいや秋内さんはどうして​───────」


私の疑問というよりは疑念に近い質問は意外にもあっさりと答えられた。どうして、隠さなかったのか私が音無くんに話す可能性を考えなかったのかそれとも話されても困らないのか。


「その答えで満足して頂けたかな」

「音無くんは知ってるのですか」

「知らないよ。何にも」

「私が教えても」

「それも権利だよ。君に任せる」


きっと私は言えない。その事をわかってる。

秋内さんはずるい人だ。でも私はもっとずるい。

だってこのことを伝えれば音無くんがどうするかなんて想像できてしまう。それが嫌だから言えない。


***音無晴


「話終わりました?」

「うん。大丈夫だよ。」

「秋内さんって彼氏います?」

「脈略がないね。どうしたの」

「最近ですね。自分の最後について考えたわけですよ。」

「なんか始まったね」

「そして思ったわけです。僕秋内さんのこと好きです。だから聞きたかったんです」


抑えられなかった。気分が高まってしまったからなのか、こんな見当違いのタイミングでそれでも聞きたかった。冷静になれてない自分がいる。

顔は少し熱いでも、こんな機会じゃないと聞けない。秋内さんと僕の距離はどうしても遠いから。どこか壁を感じてしまうから。


「突然の告白にさすがの私も驚いたよ。質問に答えるなら彼氏はいないよ」

「せめて、私がいない時にくらいの自制は出来ないものなの。性欲の化け物なの理性はないの」

「理性しかないですよ。一緒に泊まったじゃないじゃないですか」

「告白した瞬間に別の子と泊まった話はさすがに秋内さんも引いちゃうなー」

「誤解、、、とは言えないですけど違うんです」


収集がつかなくなった。全部言い訳にしか聞こえなくなってしまった。


「何はともかく、君が生きて、小鳥遊さんの心歪病が治って良かった。私はそろそろ帰ろうかと思うよ」

「そうですか、残念ですね」

「君には期待してるんだから頑張ってね」

「頑張りますよ適度にね」

「じゃあね、次会うときはもっと魅力的になってることを願ってるよ。それとこれからは叶って呼んでよ」

「いいんですか」

「もちろんだよ」


叶はそのまま去って消えてしまった。


「帰りましょうか」

「そうね、でもその前に」

「何ですか」

「私、音無くんのこと好きだわ」


頭が真っ白になったとはまさにこの事を言うのだろう。今なんてと聞き返しそうになった。


「意外と私って単純みたい。人に踏み込まれるだけで、好きなっちゃった。音無くんが秋内さんのこと好きなのはわかってる。でも言わないと始まらないから。返事はまだ貰わない。ただ知っていてほしい小鳥遊清麗は音無晴のことが好きだって」


動揺して何も言えないまま小鳥遊先輩も去っていってしまった。数十秒して、ようやく頭が整理されて心拍数が上がっていく。初めて告白された。元天才女優だった。モテ期到来なんて明るい気持ちになることはできない。嬉しいよ、でもこんな変な気持ちわからねぇ。あぁもうわかんねぇ。

わかんない気持ちを海に投げ出すために叫びながら後先考えず海に走っていった。

しかし、海を観光してきた人から自殺だと思われて取り押さえられてしまった。ずぶ濡れになって冷静になって電車できたことに気がついた。


「どうやって帰ろう」


結局恥ずかしい思いをしてしまった。

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