第9話いみのないこと


昨日の夜江ノ島観光のいろは的なネットサイトをあさっていた時電話がかかってきた。


「久しぶりだね、秋内だよ」

「秋内先輩!」

「先輩ってもう同じ学校でもないんだから秋内社長って呼んでよ」

「それ距離開いてません!?」

「ふふ、冗談だよ。本題を話すね。君はこれから私と合う8日まで江ノ島には来てはいけません」

「明日行こうと思ってるんですけど……」

「社長命令です。」

「理不尽です。」


秋内さんには申し訳ないけど、江ノ島にはよる必要がある。僕がダメだった時小鳥遊先輩には秋内さんと会ってもらうから場所を教えとかないといけない。


「秋内社長それは仕事業務上難しいです。」

「音無くん……」

「はい……」

「社長は寂しいのでやっぱり先輩に戻してください」

「戻すならさんずけじゃないですか」

「それでもいいです。ただ、これは業務命令なので受け入れてください。これは音無くんのためでもあるんですから。責任もって最後まで頑張ってください。」


そのまま切られたものだから何も話せなかった。

どうせ死ぬのだし、秋内さんに嫌われても良かったのだけれど、嫌な気持ちにさせるのは違うと思った。少なからずあの人は悲しんでくれるだろうから。


***


朝6時に小鳥遊先輩の家を訪れた。不機嫌そうな顔をしているが、海に合わせた白ワンピースと麦わら帽子デザインに黒のリボンが巻かれた帽子を手に持っている。


「遊園地に行きましょう」

「海に行くのではなかったの」

「先輩泳がないですよね」

「えぇまぁ」

「じゃあ遊園地に行きましょう」


小鳥遊先輩が黙ってしまった。というかドアを閉じられてしまった。僕だって学びが無いわけじゃない。

わかってますよ(笑)恒例のツンデレですよね(笑)とか余裕ぶっこいて待機していたら1時間以上出てこなかった。


「小鳥遊先輩ごめんなさい。社長命令なんです」


再びインターフォンを鳴らして、ある程度の事情を説明した。理由はわからないけど江ノ島には来てはいけないと言われたこと。秋内さんは意味の無いことはしないと思うと伝えた。


「それなら先に言いなさい。」

「だからって1時間以上放置しますかね」

「いつものツンデレ(笑)とか思っていそうだったから」

「ごめんなさい」


素直に謝って、遊園地に向かった。余命2日。出来ることならあの海を見て終わりにしたかった。

1番綺麗なあの瞬間を思い出しながら。


「秋内さんのことでも考えているの」

「何も言わなくて良いもなのかと」

「好きなんだ」

「好きですよ。憧れかもしれないですけど」

「そっか、告白はしないの」

「振られて死ぬのは嫌ですし、実っても死んで意味がなくならそんな想いさせたくないですよ」


ともてもこれから遊園地を楽しみに行く会話とは思えないが色々考えてしまう。

遊園地について、チケットを買って、中にはいる。

休日なのもあり、人は多い。


「何から乗ります?」

「当然ジェットコースターでしょ」

「1人で乗れます?」

「一緒に乗るのよ。まさか乗れないの?」

「まさか、まさか、そんなわけないじゃないですか。ただちょっと朝早くて貧血気味なだけで、高いところが苦手とかジェットコースターとかガチで無理とか思ってないですよ」

「思ってるじゃない。やめとく?でも私友達と遊園地来るの初めてなんだけどなぁ」

「乗りますよ!わかりました。ただ、手だけは握っててください」


何言ってんだこいつみたいな目を向けられたけど、小鳥遊先輩は結局ジェットコースターで手を握ってくれた。やっぱり優しいじゃないっすか。もしかして僕のこと好き?みたいなこと考えたら。調子に乗るなと心を読まれてしまった。


「楽しいですね遊園地って」

「コーヒーカップに乗ろうか」


三半規管なら負けないとカップを全力で回すも小鳥遊先輩は余裕な顔して優雅に座っていた。むしろ風でなびいた髪が美しさを際立たせていたまである。


「音無くん私に勝とうなんて無駄よ」

「お化け屋敷とかも平気ですか」

「平気よ 」

「なら行きませんか、僕あんま得意じゃないので」

「普通逆じゃない」

「お化け屋敷苦手な人ってほんとにダメな人いるじゃないですか。だから聞いたんです」

「優しいのね」

「勝てないとわかったからですよ」


お化け屋敷の前はやはり混んでいた。その間にながれる音声でこの物語概要を知る。

この屋敷は昔1人の女が住んでいた。女は小さき頃に貰った想い人の絵を大切にしていた。想い人は有名な絵師になり、会うことは叶わなくなった。そんな女の元に僧と武士がやってきて刀を構えてお経を唱えだした。何をしているのかと女が問うと悪魔付きよ今すぐ離れよとものすごい剣幕で叫んでいる。しかし、何も起こらない。武士が優しい声で囁いた。あなたの体には悪魔が取り憑いている。

それを祓えためにと唆し、部屋に閉じ込めた。

僧と武士は家中の金目のものと絵を盗みとり、女を放置した。女は何も無い部屋で飢えて死んだ。女は僧と武士を恨み未だにこの屋敷で2人を呪っている。そこで参加者が成仏させるために絵を奉納させるというものだ。


「僕らの番ですね。行きましょう」

「えぇ」


キャストから奉納用の絵を受け取り中へ入る。

歩きならがふと疑問に思った。


「小鳥遊先輩ってお化け屋敷に来たことあります?」

「テレビの企画で1度だけ」

「そんときって……」

「キャー」


壁が揺れて襖が強く開く音がした。小鳥遊先輩は身をはねて僕の腕を掴んだ。体が震えている。


「あの先輩?」

「平気とは言ったけど驚かないとは言ってない」

「テレビの方は?」

「あまりの絶叫に事務所が放送NGを出したわ」

「それならやめます?」

「最後までやるわよ。ただ、手は繋いでもらえるかしら」

「喜んで」


いつもとは逆の構図に心が踊る。それに小鳥遊先輩の弱点と可愛いところが見れたので喜んで回った。お化け屋敷は怖がることに楽しさを見出すものかと思ったけど、こうやって隣で驚く人を見るのも楽しい。彼女がいたらなーなんて思いながらお化け屋敷から出るまで先輩は驚きっぱなしだった。先輩の休憩と昼食のためにお店に入る。ご飯でも食べて、ゆっくり過ごそう。


「小鳥遊先輩は心歪病治ったら女優やるんですか」

「やらないわよ」

「意外ですね。仕事自体は好きだったんじゃないんですか」

「そうね。楽しかった。でもまたやろうとは思わない頑張りたいこと見つけたから」

「それってなんですか」

「今はまだ内緒」


その後は園内のアトラクションを回りつつお土産などを買って、予約した園内のホテルについた。


「一緒の部屋なんて聞いてないのだけど」

「違う部屋とも言ってません。ベットは別なので安心してください」

「当たり前」


ほんとは2部屋取ろうと思ったけど、手違いがあって1部屋しか取れていなかった 。僕に何かしでかす勇気はないので安心して欲しい。


「あなたじゃなかったら帰ってたわよ」

「僕を信頼してくれてるんですね」

「えぇ、ヘタレだもの」

「言ってくれますね」

「なにかしようもならデリバリーパピネスから秋内さんに連絡するけど」

「すいません。僕はヘタレです。I am chickenです」


先に小鳥遊先輩に風呂を使ってもらってそのまませんも抜いてもらった。そこまで気にしなくていいと言われたがそもそも1部屋になったのはこちらのミスだ。紳士的な気持ちで遠慮した。別にドキドキして集中できないとかそんな非モテ野郎みたいな理由じゃねぇーし。

疲れもあるので互いのベットにとっと入って電気を消した。


「音無くん起きてる?」

「起きてますよ」

「音無くんって彼女いたことある?」

「喧嘩売ってます?ないですよ」

「やっぱり」

「どうしたんですか急に」

「私が相手をしてあげようかなと聖女のような考えをしていたのよ」

「聖女はもっと純粋な考えすると思うんですけど」

「私は嫌?」

「うちの委員長に殺されちゃうので」

「はっきりとは言ってくれないのね」

「そんな慰め惨めになるだけですよ。僕の人生はそこまでって決まってるんです。その中で必然的に起こることはいいですけど、死ぬからなんて理由じゃ興奮しないです」

「良いことに紛れで性癖を挟まないで」

「寝ましょうか。明日はフルタイムで付き合ってもらいますからね」


近い距離で小さい声で答えはくれないのねと聞こえたが僕は寝たふりをした。これから死に行くものが勝手に何か言ってしまうのは誰のためにもならない。言葉にしなくても僕は答えを出しているのだから。

残りは20時間ほどだ。明日の20時にはこのタイマーは0を迎える。そしたら小鳥遊先輩はきっと心歪病が治るはずだ。その後のことは秋内さんに任せよう。時間設定でメッセージを送れるように仕込んでおいた。これで僕の意志は残るだろう。

明朝。小鳥遊先輩はテレビを見て目を片手で覆っていた。アラームで目覚めた僕は目を擦ってその様子を少しずつ認識した。見た目は元天才女優の小鳥遊清麗。ただ、その表情は今まで見てきたものとは違う。目を見開いて、放心している。脳がだんだんと状況を処理して、口を開いた。


「小鳥遊先輩……」


ゆっくりと首を曲げて、その表情で声を震わせる。


「見えるの……画面に映る人の寿命が……」







  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る