第4話心歪病

「先に僕の話からしましょう」


2人きりの屋上で僕は自分の過去を語った。

中学生の頃僕は軟式テニス部に所属していた。小学生の時から硬式テニスをやっていて多少上手い自信があった。1年では1,2番目に上手いと言われ、2年では周りに抜かされて、やる気のないふりをしてそこそこの実力で遊びテニスがしたいスタンスを取っていた。それでも負けず嫌いで悔しかった。でも頑張っても追いつける気がしなくて何もしなかった。チグハグで自分勝手だったと思う。


3年最後の大会前レギュラー争いが僕を含めて起きた。そのうちの1人が病気にかかって1ヶ月運動ができなくなった。必然的にレギュラー入りした。でも僕は悩んだ。自分はふさわしくない。自分よりも努力している友達を知っているから。

そんな時に心歪病にかかった。


「嘘がつけなくなりました。それ以上に酷かったかもしれないです」


僕は本音を隠せなくなった。好きも嫌いもはっきりと言ってしまう。部活なんて我慢の連続だ。顧問やコーチへの不満を気づけば面と向かって吐き出して、普段どおり接していたはずの嫌いだったクラスメイトにもぶちまけて、みんなからやばいやつの烙印を押されて、生徒指導、精神科どんどん追い詰められて暗い感情が溜まっては言葉として出てしまう。入院した友達に会った時言ってしまった。


「お前が出るべきだったのにごめん」


聞いた友達は怒りをあらわにして僕を殴った。「俺だって出たかった。最後の大会だぞ。このメンバーでやれる最後だって言うのにお前が上から謝るな」絶縁された瞬間だった。今まで作ってきた信頼も関係も全部なくなって絶望して人を傷つけるだけなら死んでしまおうって本気で考えて、でもこんなやつのために葬儀とかもったいないしまた迷惑をかけるって海に沈むことを考えた。だけど向かった先の海である人に出会った。この学校の卒業生秋内叶さんという方だった。突然


「海はきれいで良いね。なのに君は陰気臭くて嫌だね」


なんて言ってくるものだから、黙っているつもりだったのに本音が漏れて


「なんなんだよいきなりなんにも知らないくせに」


って悪態ついてそしたら笑って


「この海にその顔は似合わないよ。ちょっと付き合って」


そう言って無理やり僕の腕を掴んで、色んな場所に引っ張り回して僕が心歪病だって気づいて胸を押し付けて僕に本音を出させてからかってきたり


「本音が聞こえるのも悪くないね」


とか言うくせに真面目な顔して


「心歪病って自己防衛から来ると思うんだ。だから何があったか教えてって」


無邪気な顔して全部聞いて慰めてニヤリと笑って


「君の悩み解決してあげる」


と自信満々に言って実際治しちゃうんだ。その方法もテニスでぶつかってこい。なんてものだから半信半疑だったけど


「信用して、これでダメなら別の方法を考えるし、私は君が本音ダダ漏れ人間でも一緒にいてあげるから」


支えられて、助けられて、憧れて、今ここにいる。


「だから小鳥遊先輩の助けになりたいです」

「君のその秋内さんとのラブエピソードはどうでも良いけど」

「人の感動エピソードを馬鹿っぽい感じに言わないでよ」

「そうね。確かにあなたはこうして救われて今を生きられてるかもしれない。でも私の心歪病は本音が聞こえるくらいの生ぬるいものじゃないから」


小鳥遊先輩はきっと試している。僕がそうだったように。救いの手を差し伸ばすくせに途中で切り捨てるんじゃないのかと。小鳥遊先輩ほどの人だ。精神を病ました時に声をかけてくれる人はたくさんいたはずだ。でもこうして小鳥遊先輩は救われてないということは全員諦めたか、気味悪がったんだろう。僕のことも秋内叶に感化されて自分もやってみようなんて軽い気持ちのやつに思われているかもしてない。


「わかっています。小鳥遊先輩はきっと人殺しなんですよね」

「ええ」

「だから言います。殺されても構わないです」

「馬鹿なの」

「胸を押し付けられてえっちな本音を本人に垂れ流すくらいには馬鹿ですよ」

「変態だね」

「そこは大馬鹿野郎って言うとこでしょ」


小鳥遊先輩はようやく笑ってくれた。断られたら恥のかき損もいいところだった。

僕にとってこの過去は誰かに簡単に見せたくない宝物だ。でも僕と同じように苦しんで寂しがっている人がいるなら進んで馬鹿みたいな話にだってできる。


「私の心歪病はね。人の寿命が見える。それだけならまだいいのかもしれない。でも問題は感情の機微で縮めてしまう。無意識に。しかも戻すことも増やすこともできない。関わった人にメリットなんてない。むしろ関わるだけでもリスクのある死神。それでもまだ関わるつもり」

「安心しました。先輩の意思で縮められないなら怖がる必要ないじゃないですか」

「え?何言ってるの。逆でしょ。普通」

「そーですかね」

「ほんと大馬鹿だね」


実際小鳥遊先輩を怒らせる気なんて毛頭ないし、多少寿命が短くなっても高校生まだ何十年もあるんだ。


「やっぱりなし……」

「え……」


小鳥遊先輩は焦ったように口にした。怖がっているようにも見える。


「音無くんあなたの寿命178時間47分しかないのよ」


1週間と10時間47分突然された余命宣告。僕ら2人は何も言えずに固まった。





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