第5話こんな夜には
屋上で僕は精一杯笑ってその場をごまかした。家に帰って、家族にありがとうなんて普段は言えないことを言っちゃうくらい。気づいたら夜になってベランダに出た。まさかね。余命宣言されるなんて思わなかった。ははっと乾いた笑い声が勝手に自分の口から漏れる。
「カッコつけたのにつかねえじゃねーかよ」
コーヒーを飲んだ。暗く沈んだ目を起き覚ますために大っ嫌いなブラックコーヒーを飲んで、吐きかけて、飲んで、吐きかけて、飲んで、吐いて。時間がもったいなくて、寝たくなくて、こんな時お酒でも飲めたら眠れたのかもしれない。無理矢理の睡眠阻止も限界が来て、そんな中で目を閉じて最期を考えた。両親には心歪病で迷惑をかけた。何もしないことを選んだ両親を思い出した。僕が心歪病になって友人、先生が手を差し伸べて去っていったことを知って両親は何もしない私達には何もできないからと。冷たいようだけど、これで2人にも投げ出されたらこうやって普通の生活も送れない状態だと思う。
「秋内さん」
次に浮かんだのは秋内叶さん。憧れの命の恩人。大切な人。さらっと助けて、姿を消して、「デリバリーハピネスを手伝って」なんて言葉を残して。桜のように一瞬で視界を奪って目を離せなくするのに気づいたら散っている。儚い存在。いやもっと元気な人だな。
「小鳥遊先輩」
次に浮かんだのは僕と同じ病で苦しむ先輩。きっと純粋で寂しがりやな先輩。本来なら友達も彼氏もそうじゃなくとも芸能界で華やかに輝くべき人だ。助けてやりたいと思う人。初めてであった心歪病の人。僕は最期にこの病を治したい。そう思った。
秋内さんにあうのはきっと無理だし、せめて憧れの人と同じように。
そんな時携帯がなった。着信が響いてまぶたが驚きで開く。
「音無くんの携帯であってるかしら」
「小鳥遊先輩?」
「ええ、きっと傷心していると思って」
ほんとかっこつかないな。
「ちなみに誰から聞きました」
「橋本結さんから」
あぁきっと僕の余命はこれで終わるんだ。殺されるのかな一週間後。
「覚悟は決まったかしら」
「もちろんです」
「では聞かせてもらえる」
電話越しに緊張が伝わった。だから僕は電話越しに笑った。
「最初から何も変わってないですよ。僕がどうにかします」
「死ぬかもよ。それがあなたの最期になるかも」
「それでも、僕に残った返したい想いはこうやって消化していくしかないですから」
電話は切れた。スマホには4時の文字が見えた。まぶたが限界を迎えて静かに落ちていった。朝になってアラームが鳴る。飲みきれずに残ったコーヒーを捨てる。
あとは短い時間で解決するために過去を知ろう。
寝落ちしてしまったがゆえに口の中がコーヒーで気持ち悪いことになってる。
歯を磨いて、顔を洗って、痛んだ腰を叩きつつ学校に行く。
「眠い」
自転車を漕いでいても絶え間ない眠気とあくびを噛みしめる。集中力が散漫して事故りそうになる。赤信号に足止めされているとスマホの通知音がなる。デリバリーハピネスか。ぱっと見るとメッセージが来ている。名前の欄には秋内さんと書かれていた
ーーー
親愛なる後輩くんへ
8日後久しぶりに会いましょう。
君と初めて会った場所で13時に来てください。
心歪病の小鳥遊さんのこと聞かせてください。
待ってるね。
秋内叶
ーーー
ほんと勝手だなこの人は。8日後には僕は死んでいるというのにもっと考えて送ってくださいよまったく。そんなことあの人は知らないもんな。
元気が出たのはちょっと癪だけどペダルを全力で踏む。死ねないなあの人にお礼するまでは
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