第2話きっと嬉しかったんだ

「ダメだったか」


当然といえば当然なのだが締め出されてしまった。そうだよな初対面の配達員がいきなり、ニヤリとして悩みがあるだろなんてドヤ顔で言ったつきには鳥肌が立つよな。

ため息を付いてスマホを見ると通知が来ていた。デリバリーハピネスのアプリだ。

確認すると低評価とコメントが書かれていた。


(扉を閉めようとしたら抑えられて卑猥な顔をして悩んでいるだろと言ってきて悪寒がした)


あってるけど酷い。てか卑猥な顔ってなんだよ。

トライ・アンド・エラーだよな。

もう一度インターホンを押した。


「小鳥遊先輩ごめんさい、話を聞いてもらえませんか」


少しは誠意が伝わったのかチェーンロックをかけたまま開いてくれた。良かった心を開いてくれた。


「そんな心を開いてくれたみたい顔してるけど1ミリも開いてないから」


読まれた。やっぱり心通じてる!。また心を読んだのか怪訝な目で睨まれた。


「用がないなら帰ってもらえる」

「あります、ありますから。僕の仕事まだ終わってないんです」

「デリバリーハピネスのこと。もう配達は完了しているけど」

「そっちは副業みたいなものなんです」

「じゃ何が本業なの」

「依頼者の悩みを解決することです」


説明が難しい。正直言ってそれ以外の回答を持ち合わせていない。


「わかった。とりあえず上がって」

「信じてくれたんですか」

「気分、それとこのピザ量が多くて食べきれないから」


部屋に入るとこの大きなマンションとは不釣り合いなほど何もなかった。あるのは冷蔵庫と机。学校の道具それだけだった。電気はついておらず、蟹蟹蟹蟹蟹尽くしクリームピザが机に置かれていた。何あのピザほんとに蟹ばっかじゃんクリームどこ言ったの蟹しか見えないんだけど。この量を一人で食べるのは無理だろうな。


「先輩の悩み教えてもらえませんか」

「変質者が私の部屋でピザ食べてることかな」

「それは深刻ですねって小鳥遊先輩ちなみにそれって僕ですか」

「うん。名前も知らない君」

「名前言ってませんでしたね。音無晴おとなしはるです」


一瞥してピザを食べて始めてしまった。仕方なく僕も食べる。小鳥遊先輩は二切れくらいで満足して残りを全部僕に食べさせた。もうこれが悩みで解決したってことでいいかな。蟹好きだけど多すぎて気持ち悪くなった。


「これが悩みでいいよ」


また心でも読まれたのか言われた一言とその一瞬見せた表情がどこか儚げで悲しげだったから妙に気になって、解決したことにさせたくなかった。


「嫌ですよ」

「え」

「まだ、低評価のままだし、酷いコメントだって残されたままだし何も解決してないから。だから教えてください」


驚いた表情のまま固まってしまった。でもすぐに戻って真剣な顔になった。


「私、人殺しなんだ」


小鳥遊先輩の微笑はどこかタカが外れたような狂気じみた雰囲気を感じ取らせた。


***小鳥遊清麗

どうして私は音無晴を家に上げたのだろうか。変な後輩。初めてあったのに悩みがあるだろなんて突然言うのだから。

でも、久しぶりに誰かとちゃんと話をできた気がする。

あぁそうだきっと嬉しかったんだ。私を知っても普通に話してくれたから。

バカバカしいけど、デリバリーハピネスなんていうアプリは本物なのかもしれない。

少しだけ賭けてみたいなんて思ったのも嘘じゃない。人殺しでも悩みを解決させてくれるのだろうか。無理でも良い。本来はそれが当たり前なんだから。


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