第7話 魔法少女、恋しちゃいました!?

俺とマジカルスイートは隠れて生徒たちを

やり過ごせる場所を探していた。

どこかに都合の良い場所は無いのか…。

早く隠れないと野次馬に追い付かれ、

面倒なことになってしまう…。


「あっ…!あれは体育倉庫…!」


すると、眼前に小さな小屋が見えた。

それは体育倉庫だった。

物がゴチャゴチャと詰め込まれており、

薄暗く、どうぞこの中に隠れてくださいと

言わんばかりの存在感を放っていた。


俺とマジカルスイートは、お言葉に甘えて、

体育倉庫の中に隠れることにした。


「うおおおお!!マジカルスイート!!」


ドドドドドと、大勢の男子が走り回る音が

体育倉庫の外から聞こえた。

まだしばらく隠れていないと駄目なようだった。


「ふぅ…。まだあの人達、私のこと探してる

 のかな…。」


俺が外の様子を気にしていると、

マジカルスイートの姿のままの甘崎さんが

ため息を漏らした。

戦いが終わった後も追い掛けられ、変身を解除するタイミングを失ったのだろう…。


土や血液で汚れたフリフリの衣装が、戦いの激しさを物語っていた…。

本当にお疲れ様という気持ちだ…。


「ありがとね…。」


マジカルスイートが突然お礼を言った。


「君がいなかったら、私きっとまた負けてた

 から…。」


マジカルスイートが俺に近寄る。

ホコリっぽい独特な臭いが立ち込める

体育倉庫の中で、マジカルスイートの

良い匂いが辺りに漂っていた…。


魔法少女マジカルスイートの名前通りの、

この世の物とは思えないほどの香りだ…。

俺が夢心地な気持ちでいると、彼女が

話し掛けてきた。


「私、本当にパワーアップアイテムが

 出て来るなんて思わなかった…!

 また君の言った通りだったね…!」


俺が彼女の匂いで頭が朦朧としているのを

余所に、マジカルスイートは興奮しながら

先程の戦いを振り返っていた。


「君といると…なんだか安心するんだ…。」


えっ!? そう大声を上げそうになったが、俺は黙って彼女の話を聞くことにした…。

彼女は優しい表情と優しい声色で俺に囁いてきた…。


「男の子にこんなこと言うのは変かも

 しれないんだけど…。」


「こうやって、体育倉庫とか、でさ…。

 ずっと二人でいるのが、なんだか

 凄く落ち着くな…って。」


「君はあんまり喋らない人だけど、心の中で

 私のことを気遣ってくれてるのかな…

 っていうのが凄く伝わってくるんだ…。」


「初めて名前を呼ばれた時はちょっと

 驚いちゃったけどね…!」


「私、男の子に名前を呼ばれる経験なんて

 全然、無かったから…。」


「私が泣いてる時も、負けそうで不安な時

 も、君はいつも、私のそばにいてくれた

 ね…!」

 

「安心するのに…なんだか、胸が苦しくなる 

 よ…!なんでかな…!」 


すると、マジカルスイートは、声を震わせ

ながらポロポロと涙を零しながら、泣き始めてしまった…。俺は困った…。

なんで彼女が泣いているのか分からなかったからだ…。


「俺も同じかな…。」


「えっ…?」


「甘崎さんといると、凄く落ち着くし、

 安心するし…。でも、胸が苦しくなる

 んだ…。な、なんでだろうね…ははは。」


俺は、泣いているマジカルスイート姿の

甘崎さんをほおっておくことが出来ず、つい考えもなしに思ったことを口走り、そして

笑ってごまかした…。


俺の胸が苦しくなるのは、甘崎さんに

恋しているからだ…。

叶わない願いほど、苦しい物はない…。


俺は陰キャでアニメオタクで、もちろん

顔もイケメンなんかじゃないし…。

スタイルも良くない…。残念な生き物だ…。


こんな奴が女の子と一緒にいたいなんて、

身の程知らずも良いところだった…。


「同じ、なんだね…。」


甘崎さんはポツリとつぶやいた。

やはりポロポロと涙を零したままだ。

どうしたら泣き止んでくれるのかな…と

俺はいたたまれない気持ちになった…。


「わ、私…。」


「私ね…!うぅ…。ぐすっ…。

 わ、私…っ!」


甘崎さんが必死で何かを言おうとしている。しかし、次から次へと涙が溢れて言葉が出て来ないようだ…。

あぁ…胸が苦しい…。何もしてあげることも出来ず、ずっと泣いているのを見ていることしか出来ないのか。なんとかしてあげたい。だが、どうすればいいんだ…。


「うぅ…!ぐすっ…!ひっく…!」


何か言い掛けていたマジカルスイートは、

ダムが決壊したかのように泣きじゃくって

しまった。もはや何か言うどころの状態ではなかった…。


自分の目の前で女の子泣いてるんだぞ…。

何も出来ずただ見ているだけなんて、

情けなくないのか…。俺…!


俺は彼女が好きだ。だが、今日でもう完全に

嫌われるかもしれない…。


俺は、覚悟を決めた。


「うぅ…!ぐすっ…!ぐすっ…!」


「……あっ。」


俺は彼女を正面から優しく抱きしめた。


好きでもない男からこんなことされたら、

ただのセクハラでしかない…。


終わった。完全に終わったと思った…。


「温かい…。君の体温…。」


「落ち着く…。安心する…。」


あんなに激しく泣きじゃくっていた

マジカルスイートは、落ち着きを取り戻していた。


俺もとても安心していた。彼女の良い匂いに包まれながら、柔らかい抱き心地の彼女の

感触に、心の底から癒やされていた…。


女の子と抱き合っているというのに、

不思議といやらしい気持ちにはならなかった。


マジカルスイートはいつの間にか、

甘崎結心さんの姿に戻っていた。

匂いもマジカルスイートの時の匂いから、

甘崎さんの匂いに変わっていた。


普通の女の子の匂いというべきなんだろうか…。だが、俺からしてみれば、

この普通の女の子の匂いも物凄く良い匂い

だった…。同一人物の匂いのはずなのに…。


俺の臭いは大丈夫だろうか…。

彼女の匂いを存分に味わっておきながら、

俺はとても不安な気持ちになった。

不快な気持ちにさせていないだろうか…。


そんな俺の不安を余所に、彼女は

俺の体に腕を回して抱きしめてきた。

お互いに、抱きしめ合う形になった…。


「嬉しい…。」


「私…君のこと好きかも…。」


俺は思わず体がビクッとなってしまった…。

抱きしめ合っているのだから、当然その

振動は彼女にダイレクトに伝わった。


その反応が面白かったのか、彼女はふふふっと笑っていた。


「君が抱きしめてくれた時、凄く

 救われた気持ちになったんだ…。」


「私…嫌われてるんじゃないかって、

 思ってたから…。」


「ふふっ…!だから、それが怖くて

 泣いちゃったんだ…。ごめんね…。」


「……ん。」


あまりの可愛さに、俺は抱きしめるだけに

飽き足らず、彼女の後頭部を撫で始めた。

サラサラとした感触で、程よい長さの

ボブヘアーが指の間を通り抜ける。


頭の撫で心地も最高だった…。

彼女の全身は幸福で出来ているのか?

そんなことを思ってしまった。


「気持ちいい…。本当に君、優しいね…。

 撫で方が優しいよ…。んん…。」


「…もっと撫でていいよ…?」


「…んん。…ふぅ。」


頭を撫でられながらなんとも言えない声を 

漏らす甘崎さん…。いつまでもこの幸福を

味わいたくて、俺はしばらく彼女を

抱きしめながら、ずっと頭を撫でていた…。

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