第6話 魔法少女、勝っちゃいました!?

俺たちは教室に戻り、サボってしまった授業の、次の授業を受けていた。

甘崎さんに変わった様子はなく、至極真面目に授業を聞いている。


少し気になって、魔法少女マジカルスイートが世間でどう言われているのか検索して

みたが、やはりみんな負けたことに対して

好き勝手言っていた…。


とても穏やかな気持ちではいられないので、

もうなるべく見ないようにするが…。

甘崎さんの目に入っていないだろうか…。

心配でしょうがなかった。


ぼんやりと授業を聞き流しながら、

俺は窓の外を眺めていた。

俺の席は窓際なので、当然窓の向こうは

よく見える。俺は昔から窓際が好きだ。

バスもなるべく窓際に座りたい人間だ。


空に飛行機なんて飛んでるもんなら

俺はずっと眺めていられる…。

なんとも言えない脱力した時間が、俺は

好きなのだった。


と、そんなことを考えながら外を

眺めていると、気になる物を見つけた。

…花だ。植物の、あの、お花。


その花が、巨大化して校庭で暴れている…。

根っこのような、足のような何かを、

勢いよく振り回している。

何を言ってるか分からないと思うが、

俺も分からない…。なんだあれは…?


体育の授業で近くにいた生徒たちは、

酷く混乱した様子で逃げ惑っている…。

この教室は3階なので、やや遠いが、

薄っすらと教室にも悲鳴が聞こえる。


「花の…メーワクダー…。」


「あ、あいつは…昨日の…!!」


俺の前の席に座っている甘崎さんも

その様子に気付いていたようだった。


「なにあれ…!?ヤバくない…!?」


俺の後ろに座っている女子が声を上げた。

そうすると、教室の生徒たちはざわざわと

外の様子を気にしだした。


「こ、こら!授業中だぞ!お前ら…!」


と、先生は言っているが、先生も外の様子が

気になっているようだった。授業をしている

場合かどうか悩んでいるようだった。


「せ、先生…!!」


甘崎さんがガタッと立ち上がった。


「ト、トイレに行って来ます…!!」


そう叫ぶと、甘崎さんはトイレ…ではなく、

花の怪物の元へとは駆け出していった。

…魔法少女あるあるの「先生、私トイレ!」が生で見られるとは…。俺は謎の感動を

覚えていた。が、そんな場合ではない…。


理由が咄嗟に思いつかなかったので、

俺も同じ理由で席を立ち、彼女の元へと

向かった。


「 ハ ナ ハ ナ ー ッ !! 」


「甘い香りでも甘くない!!」

「魔法少女マジカルスイート!!」


俺が現場に辿り着く頃にはすでに、

魔法少女マジカルスイートと花の怪物が、

激しいバトルを繰り広げていた。


魚の化け物との戦いはあっさり

終わっていたのだが、花の化け物との戦いは

なかなか決着がつかなかった。


まさか…こいつなのか…!?

マジカルスイートが勝てなかった相手は!?

俺は一瞬で汗が冷えるのを感じた。


マジカルスイートがいくら攻撃しても、

花の化け物は全くダメージを受けている

様子はない。そもそも体が細く、

打撃を受け流しているように見える。


「なんで…!?なんで私の攻撃が

 通じないの…!?」


「お願い…!お願いだから効いて…!!」


彼女は焦りの表情を浮かべていた。

当然だ…。一度敗れた相手だ…。

トラウマが蘇る中、勇気を振り絞り戦って

いるだろうし、負けたら怪物は野放しになり

被害を拡大させるだろう…。そしてまた、

彼女に責任が押し付けられるのだ…。


そんな最悪の事態にならないよう、心の中で祈りながら、俺は固唾を呑んで見守っていた…。


「えいっ!!やあっ!!ハァッ…ハァッ…」


「マジカル〜、逆水平チョップ!!」


スパァァン!と甲高い音が響く。

細い体に効果がありそうな鋭いチョップが

炸裂するが、それでも花の怪物は怯まない。


「ハァッ…ハァッ…お願い…!!

 倒れてよ…!!うぅ…!!」


彼女の心はもう折れる寸前だった。

それでも、諦める訳にはいかない彼女は

戦闘態勢を崩すことはない。

どうあがいても足手まといにしかならない

俺は、見守ることしか出来ない…。


その、弱った心の隙をつかれたのか、

花の怪物の根っこのような長い足が、

マジカルスイートの体にぐるぐると

巻き付いてしまった…!


「う…!うあああああっ…!!」


体を締め上げられ苦悶の表情で悲鳴を

上げるマジカルスイート。これはマズい…!

足手まといになるとか言っている場合では

なかった。俺がなんとかしないと彼女が

危ない…!


何か武器になる物はないかと辺りを見渡すが、少し大きめの石しか落ちていない。

こんな頼りない武器で立ち向かわなければ

ならないのかと俺は絶望的な気持ちになったが…今はとにかく彼女をあの根っこから

解放するのが最優先だ…!


「化け物!!マジカルスイートを離せ!!」


俺は渾身の力で石を投げる。

マジカルスイートの攻撃が効かなかったの

だから、当然、俺の投げた石などダメージにはならなかった。だが、気を逸らすことには成功したようだった。


根っこの締めつける力が僅かに弱まり、

マジカルスイートは拘束から脱出することが出来た…!


安堵した次の瞬間、花の怪物の標的は

俺へと変わっていた。


鋭い根っこの一撃が、俺の体を軽く吹き飛ばした。


「ぐはぁっ…!?」


「き、君っ…!?」


一瞬、何が起きたのか分からなかったが、

全身に走る痛みから、自分の身に起きたことを嫌でも思い知った…。


あぁ…俺の人生、ここで終わるのかな…。

軽い走馬灯が見え始めたが、悲しいかな、

特に良い思い出はなかった…。


未練というならば、甘崎さんとお付き合い

したかったなぁ…。俺は完全に諦めムード

だった…。


そんな中、俺の視界に人影が映る。


マジカルスイートが両手を広げて俺を

庇っていた…!


「うっ…!!あうっ…!!あぁ…っ!!

 ハァ…ハァ…ま…負けるもんか…!!

 きゃあっ…!!ハァッ…ハァッ…!!」


花の化け物の根っこのムチが彼女を襲う。

白い肌に痛々しい傷が浮かび上がっていた。


俺は自分が情けなくて涙が溢れてきた。

助けようとして結局足手まといになって

しまったのだ…。


「だ…大丈夫…!!」


「君は私が守るから…!!」


力強くマジカルスイートがそう言ったかと

思うと、彼女の前に眩い光が輝き始めた。


「こ、これは…!?」


やっと来たか…。俺はそう思った。


魔法少女がパワーアップするには、

ドラマティックな展開しかない…。


俺は体を張って、そんなドラマティックな

展開の一部になるよう奔走していたのだ…。


「これは新しい力だプニョ!」


今までどこに隠れていたのか、突然プニョが

現れ、それっぽい台詞を放った。

やはりこいつは信用ならない気がする…。


光の中には剣のような物が浮かんでいた。


マジカルスイートがそれを手に取る。

そして、花の怪物に向き直った。


「ハナハナハナーッ!!」


無数の根っこがマジカルスイートを襲う。

しかし、彼女が剣を一振りすると

根っこは全て切り裂かれ、空中でバラバラに

なっていた。


「メーワクダーッ!!」


「あなたは街を破壊し、そして…

 私の大切な友達を傷付けた…!!」


「そんな迷惑な行為の数々、

 私は絶対に許しませんっ!!」


彼女は両手で剣を構え、剣の柄に付いている

スイッチのような物を押した。

初めて手にする武器なのに何故か使い方が分かる。魔法少女とはそういう物なのだ。


「マジカルスイートカッティングッ!!」


マジカルスイートが剣を縦に振り下ろすと、剣から虹色の斬撃が放たれる。

そして、花の怪物は真っ二つに切り裂かれ、

光に包まれた。


光が消えると、花の怪物は元の花に戻っていた。


良かった…。勝てた…。

俺はようやく安堵することが出来た。

それは彼女も同じだった。


マジカルスイートと目が合った。

彼女は優しげな表情で俺に微笑んでくれた。


「ありがとう…!君のおかげで、

 私、勝てたよ…!」


俺達が良い雰囲気で見つめ合っていると、

突然、大勢のけたたましい足音とともに、

野太い男たちの声が校庭に響いた。


「うおおおお!!マジカルスイート!!」


「えっ…!?なになに…!?」


体育着を着た男子の集団が、叫びながら

勢いよくマジカルスイートの元に駆け寄ってくるのが見えた。おそらく、花の怪物に

襲われた生徒たちだろう。マジカルスイートは困った表情を見せる。


「ど、どうしよう…!!このままじゃ

 生徒たちに囲まれちゃう…!!」


「マジカルスイート…!こっち…!」


「えっ…!?」


俺はボロボロの体を引きずりながら、

彼女の手を引き、その場から急いで

立ち去った。


生徒と関わると、マジカルスイートの

正体がバレる恐れがある。

しかし、俺とマジカルスイートは満身創痍、

ボロボロだ…。逃げ続けることは出来ない。

どこか、隠れられる場所はないか…。

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