第5話 魔法少女、泣いちゃいました!?

甘崎さんを探して俺は校舎の中を探し回るが、彼女の姿はどこにも見当たらない。


もし女子トイレの中にでもいたら、俺に

見つけることは絶対に不可能なのだが…。

もしそうだとしても、居ても立っても居られなかったのだ。


今は授業中だ。教室では先生が教壇に立ち、

生徒たちは、真剣に授業を聞いている者も

いれば、寝ている者もいる。


授業をサボって校内をうろついている俺は、姿を見られる訳にはいかなかった。中腰に

なりながらコソコソと慎重に教室の前を

横切った。


そこで俺は気付いた。甘崎さんもおそらく

同じ考えに至るだろうと。

授業をしている校内は避け、一人になれる

場所を探すのではないかと…。


校内にいれば、誰に見つかるか分からない。

泣いていれば人と顔を合わせにくいはずだ。

保健室にいるという可能性も薄いと思う。

屋上も鍵が無ければ入ることが出来ない。


となれば、校舎から出て、ひと目につかない

場所に行くのではないかと。

…女子トイレの中でないのならば…。


自分に都合の良いように考え、俺は

校舎から出て、ひと目のつかない場所を

探して歩き回った。


さすがに学校は広い。たった一人の

女の子を、なんのヒントもなく闇雲に

探し回るのだ。歩けば歩くほど、とても

見つかるとは思えない気持ちになった。


心が折れ始めてきたが、甘崎さんはこんな

気持ちとは比べ物にならないくらい

ツラい気持ちになっているだろう…。

だが、現実は無情だ。そんな都合よく

見つかる訳がな…、


「すん……すん……。」


いた…。体育館の裏で段差に座り、小さな体を震わせて、鼻をすすりながら泣いている

甘崎さんを見つけることが出来た。


無事発見出来た安堵の気持ちと同時に、もうひとつの感情が急激に湧いてきた…。


見つけたところでどうする…?


何度も言うが俺は陰キャだ。この前も

全身全霊の勇気を振り絞ってようやく

一回話し掛けられたのだ…。


ましてや、泣いている女子に話し掛ける

なんて、そんな難易度の高いことが俺に

出来るのか、と…。


「……あ。」


呆然と立ち尽くしていると、甘崎さんの方が

俺に気付いて声を発した。

気付かれるまでに何も出来なかった自分が

とても情けなく感じた…。


非常に気まずい…。だが泣いている姿を

見られた甘崎さんはもっと気まずいはずだ。

何か…何か話せ!俺…!


「君…ちょっと私の話聞いてくれる…?」


「は、はい…!」と、

思わず敬語で答えてしまった。

本当に俺は情けない奴だが…ここは、

甘崎さんのご要望に全力で応えて、

なんとか挽回したいと思った…。


「私…あれからも…魔法少女続けて

 やってたんだけど…。」


散々泣いた後だからか、甘崎さんは非常に

弱々しい声で、囁くように話掛けてくる。


「今までは…簡単に勝てる相手ばっかり

 だったんだけど…。

 昨日、急に強いのが出てきちゃって…。」


「いつもだったら、一発殴ったらかなり

 怯んでくれるんだけど…昨日のは、

 いくら殴っても全然効いてる感じが

 しなくて…私、凄い怖くなっちゃった

 んだ…。」


「どうしよう…と思ってたら、反撃されて

 …そしたら、少し、気を失っちゃって…。

 変身が解けなかったのは不幸中の幸い…

 なんだけど…。」


「気付いたら怪物の姿が無くなってて、

 私は…逃げるように…その場から

 立ち去って…いや…実際逃げちゃったん

 だけど…。」


「ほんと…私、魔法少女…失格だよね…

 すん…っ。」


彼女の綺麗な瞳がうるうると潤い、大粒の涙がまた溢れてきてしまった…。

あまりにも弱々しい姿に、心がチクチクと

痛む…。な…なんとかしてあげなければ…。

俺は彼女に、女子たちの話なんか気にする

必要はないと伝えたが…。


「あ…あの子たちの言ってることは…

 間違ってないと思う…。」


「お巡りさんが…悪い人を捕まえられ

 なかったら、それはお巡りさんのせいに

 なってしまうの…。」


「私は怪物をやっつけるのが仕事だから…

 やっつけられなかった私が悪いんだよ…

 うぅ……うぇぇぇぇ……。」


なんとか励まそうと言葉を投げ掛けるが、

的確に撃ち落とされてしまう…。

ど…どうしたものか…。何か俺に出来ることは無いのか…。俺は…。


『敵が強くなって魔法少女が負けちゃう時、

 アニメだったら魔法少女がパワーアップ

 する展開が来るんだけど…。』


と、彼女に伝える。


「え…?」


しまった…。オタクの性でまたアニメの

話に持っていってしまった…。


「アニメだとこういう時、魔法少女が

 パワーアップする…?そ…その話!

 もっと聞かせて…!?」


すると意外にも、甘崎さんはこんなオタクの

戯言に興味を示した。一体どういうこと

だろうか…。考えても分からないので、

彼女の望むように、俺は話を続けた。


「何も変化が無いままだと視聴者が

 飽きちゃうから、必ず途中で

 新しい展開があるの…?」


「ピンチになると新しい力が覚醒して、

 勝てなかった相手に勝てるように

 なるんだね…!?それは

 ドラマティックで凄く盛り上がるね…!」


「なるほど…!なるほど…!」


甘崎さんはふんふんと頷きながら、

身を乗り出して俺の話を聞いている。

なんだ…?一体どうしたというんだ…?

前はアニメの話をした時は若干引き気味

だったというのに…。


「実は…前に君の話を聞いた後に、

 プニョに、私が魔法少女になる前、

 他に魔法少女はいなかったのか

 聞いたの…。」


「そうしたら、私の前の魔法少女が、

 大学生のお姉さんだったんだって…!」


「君に聞いた通りだったから、私もう

 ビックリしちゃって…。」


「あとはプニョのことなんだけど…。

 いつもカバンの中で大人しくしている

 良い子だと思っていたら…。」


「そうしたらね!実は勝手に抜け出して、

 学校中でイタズラしてたみたいでさ!

 これも君が言った通りだったの…!」


俺はイタズラするタイプの方で良かったと

心底安堵した…。


「だから、君の言うことはもしかしたら

 当たるんじゃないかと思って…。」


「うん…!なんだかスッキリしたかも…!」


「君がいなかったら私…。本当に駄目に

 なっていたかもしれない…。」


「わざわざ授業サボって、君は

 私のことを探してくれたんだよね…。

 嬉しかったよ…!ありがとね…!」


「私はもう教室に戻れるから…!

 あ、でも…あのぅ…一緒に戻ると、

 勘違いされちゃうかもしれないから…。」


俺は別に勘違いされても…。というか、

勘違いということは彼女はやっぱり

俺のことそういう目で見てないのか…。

と、いろいろ勝手に落ち込んだりしたが、


俺の目的は彼女を元気付けることだったので、その目的が果たせたのだからそんなことは、まぁ…些細なことだろう…。


俺は彼女の提案を飲み、彼女を先に教室に

戻らせて、俺は腹痛だったことにして、時間をずらして教室に戻ることにした。

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