第2話 魔法少女、戦っちゃいました!?

普通の女子高生の姿から、

フリフリの衣装を身に纏った姿に変身した、

甘崎結心改め、魔法少女マジカルスイート。


正直、めちゃくちゃ可愛い。

やや茶色よりのボブヘアーの黒髪は、

打って変わってピンクのド派手な

ツインテールに変わっている。


変身する瞬間を目撃していなかったら、

誰かは分からなかったであろう程に

姿が変わっている。


変身シーンを見届け、魚の怪物は満足したのか、マジカルスイートを上から見下ろす姿勢で、大きな目を見開き睨み付けている。


「覚悟しなさい!メーワクダー!

 これからあなたにお仕置きしますっ!」


めーわくだー?メーワクダーとはあの

魚の怪物のことだろうか。なんという

安直なネーミングだ…。


彼女の身長の3倍はある怪物を前に、

マジカルスイートは一切動じず、

仁王立ちをしながら睨み返している。


「ギョギョオーッ!!」


先制攻撃を仕掛けたのは魚の怪物だった。

口を大きく広げ、マジカルスイートを

飲み込まんとしながら突進する。


「たぁっ!!」


しかし、その攻撃を予期していたのか、

身をひるがえし、空中で宙返りしながら

あっさりと華麗にかわすマジカルスイート。


魚の怪物は攻撃目標を見失いながらも

止まることが出来ず、さっきまで

マジカルスイートが立っていた地面を

粉砕し、辺りには瓦礫と砂ぼこりが舞う。

こんなの喰らったらひとたまりもないぞ…。


「今度は私の番、ですね♪」


魚の怪物の攻撃力に俺が青ざめているのを

余所に、マジカルスイートは見慣れた光景と

言わんばかりに笑顔で反撃に移る。


「マジカル〜、ドロップキックッ!!」


「ギョワーッ!?」


マジカルスイートは両足を揃えて飛び込むと

魚の怪物にドロップキックをかました。

どの辺がマジカルなのかと思わず

突っ込みたくなる。


小柄な少女のドロップキックで

全長5メートルの魚の怪物は、

凄まじい勢いで地面に叩きつけられる。


「マジカル〜、ダブルチョップッ!!」


「マジカル〜、かかと落としッ!!」


マジカルでもスイートでもない技の数々で、

魚の怪物は追い詰められていく。


「ギョ…ギョギョーッ…!!」


目の前で繰り広げられるのは

まさにアニメの世界。美少女JKが、

成人男性が束になっても敵わないであろう

怪物を相手に、一人で圧倒している。

夢のような光景に、俺の胸は高鳴った。


もっと近くで見たいという衝動に駆られ、

俺は林の中から出てしまった。

魚の怪物の視線が俺の方に向く。

しまったと思った時には、もう遅かった。


苛立っている様子の魚の怪物は、

マジカルスイートには敵わないと悟ると、

標的を俺に変え、激しく突進してきた。


ヤバイ!俺は焦った。しかし、早く逃げたい気持ちとは裏腹に、俺の体は硬直して石の

ようになり動けない。終わった…。

俺は自分の人生が終焉を迎えるのを悟った。


「あっ!!危ないっ!!」


マジカルスイートが石のようになった

俺の体を軽々と抱えると、そのまま高く

ジャンプした。風がフワッと舞う。


その風にあおられ、マジカルスイートの

匂いが辺りに漂った。お菓子のような

甘い匂い…。俺の体は彼女と密着して

いるので、感触と匂いで頭がクラクラして

しまった…。こんな状況なのに、

俺は天国にいるかのような気持ちになった。


「大丈夫ですかっ!?」


マジカルスイートが俺に呼び掛ける。

とんだ迷惑を掛けてしまって、とても

申し訳ない気持ちになった。


「怪我はないですね?よかっ…

 えっ…!?き、君は…!?」


彼女が俺のことに気付いたようだった。

当然だ。俺は普段学校で彼女の真後ろに

座っているのだ。日頃からよく顔を合わせ

ているのだから。…会話をしたことは

ほとんどなかったが…。


「あっ!!い、いえ!!なんでも

 ないです!!良かったぁ…!!

 怪我がなくて!!あはははー…。」


彼女が慌てた様子で誤魔化した。

クラスメイトの俺に、正体がバレては

いけないのだろう…。

俺はすでに彼女の正体を知ってしまった

後なのだが…。


「無防備な男の子を襲うなんて、

 そんな迷惑行為、絶対許しませんっ!!」


「これで、トドメですっ!!」


そんなことには全く気付かず、

マジカルスイートは、変身する時に使った

パステルカラーのステッキを取り出すと、

それを天高く掲げた。


するとステッキに光が集まり、

虹色に発光し始める。


「マジカルスイートイリュージョンッ!!」


ステッキを魚の怪物に向けて突き出すと、

虹色の光線が勢いよく噴き出して、

魚の怪物を飲み込んでいく。


「ギョエエエエーッ!?」


魚の怪物が間抜けな叫び声を上げた

次の瞬間、なんと怪物は普通の魚の姿に

変わっているではないか。

どうやら普通の魚が、あの怪物の正体だったようだ。


マジカルスイートは地面を跳ね回る

魚を胸に抱えると、少し困っている。

残念ながらこの辺りの水場は公園の噴水

しかない。噴水に入れて良いものかどうか

悩んでいるのだろう。

彼女の心の優しさが伺える。


魚が弱る前にマジカルスイートは

魚を噴水の中に入れてあげた。

まさに水を得た魚のように、魚は

元気よく泳ぎ始めた。

どうやら噴水の水でも、とりあえずは

問題ない様子だ。


「ふぅ…。」


「結心、時間は大丈夫プニョ?」


「あっ!いけない!学校に遅刻しちゃう!」


マジカルスイートは呆然と立ち尽くしている

俺に向かって話し掛けてきた。


「君、次からは怪物には

 気を付けるんですよっ!!

 分かりましたかっ!?」


年上のお姉さんのような言葉に

思わず「はいっ…!!」と元気良く返事を

してしまう。


「ふふっ…!よろしい!ではっ!」


彼女は空高く飛び上がると、颯爽と姿を

消した。


…凄い体験をしてしまったと、俺は放心状態だったが、彼女と同じように俺も遅刻しそうなことに気が付いて、急いで学校へ向かうのだった…。

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