第242話・空狐なクー子はリアルです

 祭りはどんどんと進み、田に稲が植えつけられた。

 本来田おこしと、田植えは一緒には行わない。ただ、この日は何事も始めるにはいい時期でありすぎて、そのようにしたのだ。


 途中、天照大神あまてらすおおみかみ素戔嗚すさのおは演舞を行い、その時には快晴なのに雨が降り稲妻が落ちた。

 縁起は、これが最もよい。太陽の光で光合成もできるのに、空からは潤す水が降ってくる。

 そして、祭りは作業を終えて労い合うという段階に入ったのである。


マジコイ・キツネスキー大佐:最後まで見ちゃったぞ……

チベ★スナ:あんまり宗教的な話には興味なかったはずなのになぁ。あ、これあれだ、ただただダンスと音楽として心地いいやつだ。

コサック農家:で、しかも田植え歌じゃん? 農家の俺としてはなんか覚えたいなって思っちゃった。それ以前に発音がアルティメット難しいけど

オジロスナイパー:てかもう疑いようがないよね。クー子様は、八百万の一柱だ。

!!KANNUSHI!!:今年の雑草って抜いてしまっても大丈夫ですか? ご祈祷いただいた別の草が生えてきたりしませんか?

SAW:私もお尋ねしたかった。もしそうなら、檀家の方々くらいには言い含めておきますよ!

ヨハネ:ぐぬぬぬぬ! 日本め! 神の寵愛を独り占めするとは許せん!

そぉい!:別の疑問が有るんだ。多分ポリゴンも

ポリゴン:これ、本当にポリゴンでできてるか? リアリティがあるとかじゃなくて、リアルそのものだって脳が訴えてくる。


 そうなのだ。今回の祭りでは新たな穀物が産まれる。宇迦之御魂うかのみたまを中心とした稲荷例大祭の神代歌祭かみよのうたまつりはそういう祭りである。


「空の子。少し待っておくれ、クー子が戻ってくるから」


 天御中主あめのみなかぬしはそう言っていつらな笑顔を浮かべた。

 ほんの数秒後、クー子は戻ってきた。足と手を泥まみれにして、眩い笑顔で。

 やり遂げた達成感に満ち満ちているのだ。


「ただいまー! えっと……コメント返すね……って、あまり進んでないね!」


 そう言いながら、クー子はコメントを見返していく。

 そんな間にもまたコメントは進んでいく。概ね“見入っていた”という内容だ。


「えっとね、八百万の一柱だよ! さっき言ったとおり、もう嘘はなしだよ! それとね、雑草は抜いて大丈夫。来年には野生で少し繁殖してる穀物が見つかるはず。正直、どんなのが生えるのか神にもわからない。んー、低レアを排除したガチャ引く感じ? あとそれからね、アメリカが原産になるかもしれないし、別の場所かも知れない。そこもガチャなんだよ!」


 割とクー子も人間の現代語を学んだ。三千歳化石級おばあちゃんだって本気になればこんなものである。

 それにそもそも、神が国籍で差別するはずなどないのだ。日本人視聴者が多いから、日本で通りのいい名前を使っているだけ。宇迦之御魂うかのみたまなんてミカエルである。


そぉい!:おい、触れてくれよ!

ポリゴン:そうだよ! VかUか問題がまだ残ってる!


 モデラーたちはそれを聞きたくて仕方ない。六年の研鑽で、クー子のリアリティには追いつけなかった。当たり前なのだ。


「実は、ずっと前に言われてたのそれ。私、VTuberじゃなかった。きつね耳とか生えてたら、VTuberなんだって間違ったままずっと放送してた。正真正銘、これが最後の嘘だよ」


 クー子はポリゴンを持たない。あるいはポリゴンと言えるかもしれない。量子という極小の頂点を集めて作った、超ポリゴン体と言えなくもないかもしれないが、そういう話ではない。


そぉい!:つまり?

ポリゴン:リアルってことですか!?


 ようはそういうこと。そのままの姿で実在するかどうか。


「うん。空狐なクー子はリアルです! なのでVTuberじゃないんです! ただのUtuberでした。詐欺しちゃってごめんなさい!」


 クー子は答える。神はこの放送に映り込むままの姿で、この世界に実在するのだと宣言する。


マジコイ・キツネスキー大佐:ぺたんこ耳が可愛いので許した。

コサック農家:これだけご利益もらっておいてその程度許せないとかないわー

チベ★スナ:これからも配信してください! それならいくらでも許します!

オジロスナイパー:それも含めて本当に楽しかったです! イジった分と相殺は……ダメですかね?

ヨハネ:クー子様は許す。だが日本は許さない! 神の国すぎるんだよ! ちょっとは分けろ!

そぉい!:デスヨネー。自尊心が回復できたのでヨシ!

ポリゴン:これでモデルを名乗られ続ける悪夢は回避されたのだ!


「みんなありがとう! これからも配信するし、神様系UTuberも増えるかも! あ、細道奥助先生は道真君だよ! あと、イエス君も普通にいるからね、高天ヶ原!」


 ただただ運の問題だ。日本はたまたま天孫からの皇室を続けられた。だからこそ、天の名は高天ヶ原。そして、クー子は日本で生まれて放送を日本人向けに行った。


ヨハネ:【福音】イエス・キリストが神になってた【ヨハネによる】 って、もしかしてあの写真撮ってくれた人!?

チベ★スナ:イエスが撮った写真とかなにその最新の聖遺物www

マジコイ・キツネスキー大佐:天神様かよおおおおおおおおおお!

!!KANNUSHI!!:宮内庁の財布が燃えますね!

SAW:寺も協力しましょう!

僕氏:こっそり見ててアカウント作り終わったんですが、協力しても?


 そりゃ断る訳もないというものである。後に正式にキリスト教会の一部から、宮内庁への出資が提案され、その献金もあって道真の人間向けの学校が開かれることになった。


「最後に! 神はすべての命を愛しています! だから、もし思い悩むことがあったら、神社とか教会とかに来てね! これからは、神隠しして話を聞いてあげる!」


 そんなことも、この六年で決まっていたのである。

 神と人と手を取り合うのが神代。それが行き着く先、すべての魂が高天ヶ原へのフリーパスを手に入れる、それが八栄えの世である。

 斯くして、いつぞ玉藻前たまものまえが語った神の夢は成った。人と神との祭りなど、これからいくらでもやれるだろう。祭りをやっている神社にひょっこりと顔を出せばいいだけである。

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