第235話・あめつちに人ありけり

 その日の夜、クー子は放送をした。渡芽わためとふたりっきりの放送で、みゃーこの勧めでこれを行ったのである。

 百合好きは、人間界でも数多いる。みゃーこはそれを示唆して勧めたのである。


「こんこんにちはー! えっとですね、実は結婚しまして。お相手は、わたちゃんです……」


 そんなわけで、クー子のチャンネルはカップルチャンネルになった。


「んむ!」


 クー子の膝の上でご満悦の渡芽わため

 女性同士の結婚であると、VTuberとしての人気を損ねない場合が多い。ユニコーンの角が、刺激されないのである。


マジコイ・キツネスキー大佐:まじか! あれ? ニュースで神々の結婚式に両陛下がご出席なされたってあったぞ?

ポリゴン:我らのクー子ちゃん、ロリコン疑惑

チベ★スナ:まて、姿や声が変わらないだけで、初登場から六年経ったぞ!

コサック農家:やばいのは、登場している面々の声が一切変わらないこと。昔のまま、可愛いこと。六年だぞ、多少老ける人がいてもよかろうもの!

そぉい!:散々からかってしまった……これ、神罰じゃ?


 視聴者たちはどよめきたつ。結婚した神の名前は駆兎稲荷狐毘売かけうさいなりのきつねひめと、駆稲荷大孁渡芽包巫毘売かけいなりのおおひるめのわためくるみこのひめと言われている。駆兎狐でクー子というあだ名につながるし、渡芽わためでわたちゃんというハンドルネームにもつながる。本人……むしろ本尊であると思って当然なのだ。


「ひええ!? どどど、どうしよう! わたちゃん、どうしよう!」


 視聴者たちが“ひええ”となっているところに、クー子も“ひええ”となってしまったのだ。状況は混沌を極めた。


「んー? 神、違う! もふもふ一般人!」


 そもそももふもふしていたら人ではない。だが、言っているは渡芽わためである。可愛らしさとは最強なのだ。説得力なのである。


マジコイ・キツネスキー大佐:モフモフ一般人なら仕方ない……

そぉい!:これは納得せざるを得ない!

ヨハネ:それでいいのか日本人w

まっちゃんテンプリ:良いのですよ! それが真実なのです!


 魔術師は割とクー子に対してイエスマンだ。なんでもかんでもクー子が正しいことにする。それもそれで、視聴者たちにはクー子の正体を隠したくて、でも隠しきれない。そんな組織を演じているように見えて面白いのだ。


「はい! もふもふ一般人クー子ちゃんと、わたちゃんです!」


 クー子は乗るしかなかった。このビックウェーブに。逃せばきっともうごまかせない。

 とはいえ、視聴者の疑念もだいぶ深いのである。本当に神である可能性は、高いと思っている。ただ、神ではないと言って活動しているのだ。神であることを証明できないし、神だったら言うことを尊重したい。それが、クー子をギリギリで保たせているのである。神の可能性はあるが、見て見ぬふりである。


「ん! もふもふわた!」


 だが、本当に疑問なのだ。もふもふ一般人とはなんなのかが……。


マジコイ・キツネスキー大佐:カプ固定宣言として受け取った! いや、パートナーシップまでヤっちゃったか?

スイフト:ヤっちゃってたら、それはそれで萌える!

コサック農家:ニュースにかこつけて、固定カプ宣言をした。ということにしておこう! いいな!?

そぉい!:アッ……ハイ……


 という解釈で、視聴者たちは納得をした。

 八栄えの世で、神と関係をもつ霊能者たちは忙しい。新内閣発足時の国会くらい忙しいのである。


「それが真実だから!」


 クー子は魂の底から主張する。主張せねば、神バレ不可避だから仕方がない。


「ん! クー子! それより!」


 渡芽わためが本来の予定通りの放送を楽しみにしていたのである。


「あ、そうだった! 二人で新婚旅行へ行きました! まず、これ! 稲野ふるさと村!」


 神は写真を撮影するまでもない。いつでも思い出を映像化する術を持っている。

 インターネット術式は、自由に操ろうとすると術式がなかなか複雑だ。だが、ポンコツモードに入っていないクー子はそれを平然とやる。天才の面目躍如である。


そぉい!:いやぁ、いいっすねェ…… かっぱヶ崎とか行った?

チベ★スナ:親和性wwww パネェwww

ヨハネ:ここは本当にファッキンジャパンだよ! 美しすぎるんだ!

マジコイ・キツネスキー大佐:ほんと、捨てたもんじゃないよこの国。


 そう、日本の風景はいくら心がすさもうとも、世界有数の美しさで有り続けた。

 過去の遺物と言えば、聞こえは悪いかも知れない。だが、それを残すのも日本人の美点なのだ。新しいものだけにしてしまえば、もっとこの時代はすさんだものになっていただろう。


 海外にも愛される、残された美点。これを失うのは避けねばならない。神社仏閣、コンビニよりも多いそれもできる限り残さねばならない。


「うん! ここは本当に、昔の日本の田舎の良さがあるよね!」


 とはいえ、時代は八栄え。もはや、神社を人のみの力で残す必要はない。それには神々も手を貸してくれる。

 でも、だからこそ頑張ってしまうのも日本人なのだ。


「吊り鍋、好き!」


 それは渡芽わためのお気に入りである。天井から吊り下げられた鍋を囲むのは、楽しい思い出として記憶に焼き付いた。消せぬ宝である。


「あ、これだねー!」


 クー子は吊り鍋の写真を出す。


ヨハネ:本当にファッキンだよ! ずるいよ、日本!

まっちゃんテンプリ:あまりに肥沃な大地。最初にこの国に来た時は劣等感を感じましたよ……


 海外の人間からしてみれば、そこは楽園なのだ。少なくとも、姿ばかりは。

 そして、これからは真の楽園を目指していく。人と神が手を取り合って。

 と言っても、日本はただ最初。最もいろんなところで祀られている、そして住みやすい。その大地が故の恩寵である。

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