第228話・スローライフ
ふるさと村は無料部分だっていろいろある。大きな古民家である、曲がり屋に入れたり、縁側でくつろいだっていい。
当然畳張りで、いちいち靴を脱ぐ必要があるのだが、脱いだり履いたりが多い中世日本文化とクー子たちの装束は相性がいい。すぐ脱げるように、そしてすぐ履けるように、そのために草履や下駄は鼻緒に足を引っ掛けるだけなのである。
クー子は一本歯の下駄を、
逆に小町下駄は、つま先が削られており、一本歯に慣れる練習として使える。基本的に成コマになると小町を卒業し一本歯を履く。だが、その前でも一本歯を履くのは禁止されていないし、
下駄は意外なほど優れているのだ。
「昔の人はね、この吊ってある鍋で、料理してたんだよ!」
そんな料理をしたことも、クー子は当然ある。もっと古いやり方だって経験済みだ。
「お鍋!」
自分たちの食卓の中央にこれがある風景も、それはまたそれで
「後で、ちーちゃんといっしょに囲もうね!」
もしも親しくなかったとしても、楽しければ良い。クー子は
本当はもっと近いところにも神がいるが、もっと近くにいる神々はクー子にとって、駆稲荷にとって特別だ。だから、最初が
それにそもそも彼女の
「ん!」
別に稼業でないことから罪悪感がないのも良い点である。
「景色もいいよね!」
クー子の勧めで、下駄は手に持ってここまで来た。
「ん!」
曲がり屋から見る空は、社の空とよく似ている。広くて、ひょんなことから飛び立つこともできそうだ。
「わふ! わふ!」
流石に犬を連れて、曲がり屋に入るわけにもいかない。畳に泥をつけてしまう。
よって、
「ほーれほれ! こごが!? こごがいいのが?」
「ん……」
またしてもチベスナになってしまう
「ハッ! ハッ! ハッ!」
だが、
「めんこいやづめ!」
男は主神と知らず、ただの巨大わんことして接している。
となると、競合は
「ヒメちゃん……た……楽しんでるんだね?」
クー子は焦っていた。姉のように接していた神のあられもない姿なのである。
「わん! わん!」
クー子の声に耳をピクりと反応させると、
だから、クー子は黙って鼻をくっつけて返した。
次に
これは、イヌ科女神ではイチャイチャに含んではいけない。伝統的で当たり前の挨拶である。
「
男もだいぶ、
「あ、はい! そうなんですよ! ヒメちゃんと、ハチくんです!」
「お、よろしぐな!」
男は、クー子たちがやるのを見て、イヌ科の挨拶を学んだ。だから、見よう見まねで同じようにしたのである。
「わん!」
人間が合わせて返してくれるものだから、ハチは嬉しくて男の顔を舐めた。
「わっぷ! くすぐってえよ!」
ハチもハチで家守、人懐っこい元飼い犬系神族なのだ。
なんだかのんびりとしていて、それでいてゆっくりと流れる時間が心地いい。スローライフを体現したような時間が流れていく。
「あ! ハチだ!」
ハチは首輪をつけている。その首輪には名前の書いてある金属プレートが付いていて、名前が周知されたのだ。
観光客の子供たちに呼ばれて、ハチは走り出す。子供と遊びに行ったのである。
田舎の人はおおらかで、試しに交流してみたら受け入れてくれて今がある。田舎の良さに昔の良さ、そんなものを凝縮したふるさと村なのであった……。
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