第225話・達観の理
「クルム、美味しい?」
なんだかんだとあまり変わらない雰囲気である。
「こちらも美味しいですよ!」
そこにみゃーこが横合いから
「見ていて癒されますねぇ……」
「だなぁ……」
そのもふもふ狐溜まりを、我関せずと蛍丸と陽がほっこりとした笑顔で傍観する。
「はーるー! そんなに見て羨ましいのかい!? 羨ましいんだね! 羨ましいと言え!」
そんな定番も拡張された部分があり、陽は
「……だったら、その姿はやめてくれよ……母様」
人間が生涯を閉じるまでなど、この
とはいえ、陽もそれ自体が嫌ではないのだ。嫌だと言う部分を上げるのであれば
「……こんこん!」
神の姿は気分次第。ちょっと気が向けば、狐妖怪の伝承にあるような妖艶な美女にもなれる。
「これで満足かい? ほーれほれ! 男の子だったんだもんねー!」
「んー。なんかこれはこれで釈然としない」
釈然としない理由は、陽自身、イマイチよくわからなかった。だとしても、逃げ出したいほど嫌というわけでもなければ、悪しからずという感情もある。
陽は言語化不能な深層心理にて、甘えることも大事であると受け入れているのだ。前世の母が存分に甘やかしてくれるのなら、甘んじるのも悪くない。そんな風に思っているのである。ついでに、その感触が柔らかいのであるが、親子ゆえに本能は全く反応しない。
「よぉ! 正式に下賜されてみてどうだ?」
蛍丸と言えば、神族としては建速に分類される。
「とても心地のいい場所ですよ! 一柱の神として在れる。ただ一振りの刀であったというのを忘れそうになるのが、難点ですね」
そう、蛍丸は最近たまに刀だったことをド忘れする。眠るときにクー子に言われて思い出す日も間々ある。忘れることが出来る幸福を、認めてもらう喜びを蛍丸は享受しているのだ。
「あんまり、かまってやれなくて悪かった」
「ふふっ、特別扱いなどできようはずもないことはわかってますよ。私たちはあなたの側に居るときは、物でした。神になってしまったので、もう戻ることはできませんが、それでも感謝しています。クー子様と出会えて幸福です。出会わせてくれてありがとうございます」
そんな
蛍丸は
どっちつかずの付喪神たちに、自分というものを認識させるための時間をくれた。それはまるで、長い瞑想のようで、動いてもいないのに自分探しの旅だった。
「おっ……そうか……」
それは
感謝するか、閉口するか、報復するか。その基準自体は、常人とあまり変わらない。利益の発見力に長けているだけである。
「ええ、ですので感謝しておりますよ。
蛍丸は笑う。まるで菩薩のように。
赤心とはそういうものだ。決して我慢して笑うことになど無い。神であれど理不尽には声を上げる。それでこそ、魂を歪めずにいられるのだ。
「あいつ、本当に清々しいやつだ……」
そんな神々である、褒め言葉などいつだって飛び交う。
「ええ、あなたの孫のようなものでございましょう?」
そして、巡り巡って帰ってくることもしばしば。今のクー子がある流れを作った先神たちである。ならばこそ、褒め言葉は送り返された。
「俺は心配だ。いつか追い越されるんじゃないかって」
「追い越されても、きっと敬愛を受けるままかと思います。それに足る事を、あなたはしてきました」
子孫たち、歳下の世代たちから受ける言葉は、自分の世代の帰結である。
だからといって、変わろうとしないのは過ちではあるが。変わろうと思えないのも、その帰結の一つではある。
宴は進む。ただ楽しいままで、たけなわとなる時まで。穏やかな時もあれば、激しく盛り上がる場所もある。神々はどこまでも自由だ。
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