第214話・量子力学的神話

 量子力学、摩訶不思議な学問である。


「正直さ、死って存在しないんだよ! 死んだら無になる? 何も残らない? そんなことないって人間の学問も言ってるじゃん? だから、天国も地獄も本当にあるって気がしない?」


 あまりに不思議で、まるでトンデモ科学だ。厨二病罹患者がよく言う、アカシックレコード。よく似たものが量子力学でも提唱されている。それが、ゼロポイントフィールド。この宇宙の全ての情報はそこにあると言われているのだ。

 量子というのは不思議なものである。観測者によって振る舞いを変えるのだ。


 まるで、哲学で時折言われる“あなたが体験しているこの世界は、実は水槽に浮かんだ脳が見ている夢なのではないか”を裏付けるようにも思える。あるいは、スピリチュアルとも矛盾しなかったりする。それがどういうことなのか、それをクー子は訪ねてみたくなった。


「そうなの?」


 でも、ここでいうわけにもいかなければ、あるいは葉捨戸バステトが答えを持っているとは限らない。


マジコイキツネスキー大佐:テトにゃんって結構インテリ?

ヨハネ:生と死は宗教で最も多く語られることですなぁ……

まっちゃんテンプリ:聞き及びました。そこに最近では科学のメスが入ったと

マルコ:キリストを信じぬものには、地獄が待っている


「それなりだよー! 案外お姉さんにゃーん! マルコさんさぁ、本当に根の国の深いところに連れて行かれちゃうよ?」


 葉捨戸バステトはマルコにマルコ側からも歩み寄る考えを与えたい。一切相手の心に寄り添わない、それは荒御魂の生き方だ。和魂の現人神がいるように、荒御魂の現人神もいる。それが生成りだ。


 前世の陽、安倍晴明が倒した荒御魂である。マルコはすでにそうなりかけているのだ。


 ついでに、その言葉には要求の鳴き声が含まれている。“お姉さんと呼べよ、年増とか言うなよ”と言う。


そぉい!:インテリギャル姉属性猫女神とか、属性盛りすぎィ!!!

まっちゃんテンプリ:ゼロポイントフィールド仮設、我々が信奉していたカバラのようです。

ヨハネ:ほかの宗教の神々が我々にとって天使であるとしても、それを侮辱する理由にはなりませんね。


 葉捨戸バステトはクー子よりも古い。バステトは正確には猫ではない。猫と豹のミッシングリンクとして存在するミアキスが神格を得たものである。


「本当に、仕事できそう……」


 クー子は驚いた。なにせ、仕事ができる要素など感じていなかったのだ。ただ、葉捨戸バステトはONOFFが極端で、別人格にすら見えるのだ。


「クー子ちゃん?」


 猫の聴力は鋭く、その音をキャッチした。


「え……えと、似てるよね! カバラと量子力学! 私たちは、大樹の枝葉のようなもの!」


 クー子は苦し紛れにごまかして、話題を変える。

 いろいろと助かっていた。葉捨戸バステトが居るから神バレ系の話題から目をそらすことができて、視聴者がいるから葉捨戸バステトからも逃げられる。


「つか、神々が伝えた量子力学が宗教化しちゃったのがカバラだよ!」


 だが、葉捨戸バステト……ドジであった。


マジコイキツネスキー大佐:はい言質! 神確定! って、確かになぁって思うのがすごいところwww

オジロスナイパー:神乙! だから、矛盾しない部分が出てきちゃうのかぁ……

チベ★スナ:クー子ちゃん世界線だと、神は全知全能じゃないからなぁ。普通に実験とかやってた時代あるのかなぁ?


「あるよー! むぐ!」


 葉捨戸バステトからも神の情報は漏れまくった。

 カバラは量子力学が学者肌の人々に伝わり、そして神秘を解き明かそうとしすぎる問題が発生したものである。

 ただ、あまりに不思議過ぎる学問だったため、宗教化したのだ。


葉捨戸バステト様! 出ちゃってる! 出ちゃってる!」


 何が……とは神がである。きっと、放っておけば葉捨戸バステトはきっとカバラの宗教化の歴史を話してしまったであろう。

 さりとて、おかげでなんとか話は修正できた。なぜなら、葉捨戸バステトはリカバリーをしていたのだ。


「ん……んふー!」


 話をエロにかっさらう喘ぎ声的な発声。


マジコイキツネスキー大佐:クー子ちゃんまさか、尻尾の付け根を!?

オジロスナイパー:操立てたのに! 裏切り者!

コサック農家:はい、姦浮の罪!

ヨハネ:これは……擁護できませんね……


 そう、表情と声でリカバリーしていたのである。エロを主軸とした話題は強いのだ。優先順位が高い。

 そもそも、世界線と言っているあたり、真実とは思っていないのであるが……。


「してないもん! してたら、神罰だもん!」


 姦浮の罪は高天ヶ原でも普通に罪だ。それに割と思い罰が下る。クー子の場合、主神ではなくなるだろう。


「せっかく話逸らしたのに……」


 ただ、呆れる葉捨戸バステトであった。

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