第212話・テトにゃん♪

 道真の放送の後には夕飯、そしてクー子の放送である。それも、神としての立派な仕事に指定されているのだから、収入的には美味しい事この上ない。人間の通貨を得ていて、ついでに神としての功績値も稼いでいる。つまり、合法的にクー子は報酬を二重取りしているのだ。


「こんにゃんちわー! この挨拶で気づいてくれるひともいると思いますが、本日はゲストとして猫ちゃんお呼びしてます! はるばるエジプトからおこしくださいました、葉捨戸バステト様という設定のお友達です」


 クー子は息精張って、紹介したのである。


「にゃーん! 原初の猫女神、バステトにゃ! 崇めていいにゃ!」


 葉捨戸バステトはステレオタイプに猫女神を演じた。人間はこれで喜ぶのだろうと思っているが故だ。

 だが、鍛え抜かれたクー子の視聴者は違う。


ヨハネ:わざとらしい! 貴様、獣の類か!

マジコイキツネスキー大佐:獣てwww でも、要求、挨拶、挨拶の流れはおかしい……。

そぉい!:猫語未習得勢か? 

チベ★スナ:習得して出直してこい! クロちゃんは流暢だったぞ!

オジロスナイパー:こいつ、設定とか言い出しましたよw そこまでして誤魔化したいんすねぇww

コサック農家:誤魔化したい→つまり本当に神


 そう、クロとのコラボでクー子視聴者層は、猫語に詳しくなっている。調べてみれば、稲荷には猫がいるではないか。猫コラボは絶対にまた来る。だから、予習はしっかりとしておくという推し活である。

 また、視聴者によっては、クー子の失言をイジりまわす。それはもはや定番だ。

 失言がなくても失言にしてしまうくらいの心構えで、関わっている。


「ふぎゃ!? 猫語上級者しかいないの!?」


 今のは、素の猫語である。痛みを感じた場合は最初から力が入っているが、最初に力が入っていない。つまり、純粋な驚愕である。


「あははー、クロちゃんとコラボしたからねぇ……」


 クー子は視聴者から少し目をそらすことができる。いい感じに葉捨戸バステトの存在が防波堤になっているのだ。

 だが、当然クー子の目は泳ぐ泳ぐ。綿津見達もびっくりの泳ぎっぷりである。


「そっかー……。んじゃ、改めましてーにゃ! エジプトの豊穣神、葉捨戸バステトだよ! テトにゃんって呼んでもいいにゃーん?」


 最初のにゃが挨拶の意味を持っている。“改めましてやっほー”のような言い回しだ。続いて最後の鳴き声、これは要求だ。よって、全てを人語化するとこうなる。“テトにゃんって呼んでもいいから、呼べよ”。


ヨハネ:イエス! テトにゃん!

マジコイキツネスキー大佐:謹んで呼ばせていただきます! ほかの呼び方はせぬよう徹底します! テトにゃん!

そぉい!:かしこまりました! テトにゃん!

コサック農家:どうしてこうなった!?

チベ★スナ:要求の鳴き声が絡んでるんだ! 無視したら消されるぞ!

オジロスナイパー:ひええ!? 神罰!?


「落ちちゃっても知らないよー。カッカッカッ!」


 そして、その鳴き声は、理解しているものに恐怖を走らせた。


マジコイキツネスキー大佐:絶対だ! テトにゃん以外で絶対呼ぶな! この方本当に神罰落とすぞ!

ヨハネ:お許しを! 何卒お許しを!!!

そぉい!:供物だ! 供物を急げ!

チベ★スナ:神よ……どうか慈悲を! 我らの神、テトにゃんよ……!


 その鳴き声は、もどかしさを感じている時のもの。従って翻訳すると“神罰落としたいなぁ……でも落とすわけには行かないなぁ……もどかしいなぁ……”となる。神が神罰を落としたがっている、という設定に見えるのだ。

 視聴者たちもそれを楽しみ、ノリにノった。


「にゃー! クー子ちゃん、私絶対また呼んでね! ここの人たち好きなっちゃった!」


 まだ放送は始まったばかり。だというのにクー子の視聴者たちは、葉捨戸バステトの心を鷲掴みにしたのである。なにせ、ノリの良さならお墨付きだ。


「は……はい!」


 クー子は詰め寄られて冷や汗を流していた。


「ねぇ、もうちょっと砕けた態度で接して欲しい……」


 そして、サイレントニャーオである。葉捨戸バステトはクー子に対して、ものすごく甘えた態度を取っているのだ。


「え……えと……」


 褐色肌で色気もある露出度高めの猫女神が、そんな態度を取れば否応なくいやらしい雰囲気になる。


「尻尾の付け根、ポンポンしてもいいんだよ。……」


 そう言いながら、葉捨戸バステトはクー子にさらに詰め寄って、しまいには抱きついてしまった。

 こうなればもう、えちえちである。


ヨハネ:扇情的だ! 官能的だ! さすがHENTAI大国だ!

イグセンプタス石井:不名誉極まりない気がします……。

まっちゃんテンプリ:しかし、我らの神は性を不浄とはしない。どう感じるべきか、今度地蔵様に……。


 否、聞く相手を間違えている。地蔵は仏教信者出身の神である。となれば、性を不浄とする教義から解放されたとしても、あるいは恥ずかしがるのである。


「誰か助けてー!」


 クー子はそんな混沌とした状況に耐えられなくなって、しまいには咆吼したのである。


 クー子ヲタ性を持つ、ヲタとギャルは近づくのに時間がかかるのだ。初手からヲタに優しいギャルだったとしても、ヲタはその距離の詰め方にびっくりしてしまう。こればっかりは仕方がないのである。

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