第207話・巡り巡る
その日の放送後、
自分の恋路に、障害が現れるような気がしたのだ。そう、
「クー子……」
起きていた
「待っててくれたのかな? 一緒に寝る?」
だが、本気でクー子がそれを咎めるはずもない。朝、懸命に起こせばいいだけ。
それに、
「ん!」
だから、
「じゃあー! 夜更かしした悪い子は、抱き枕の刑じゃ!」
なんとも幸せな罰もあったもので、
「うん!」
よって、
「寝る前にどうぞ」
そこに、蛍丸が温めたミルクを持ってきた。
牛乳の摂取は、古代日本では行われなかった。だが、日本神話にそれを嫌う要素は無い。神であればなおさらだ。
日本神話において、不浄とされるのは死である。かと言って、生物たちは命を奪わないと生きていけない。よって、その神話に登場する神々が嫌うのは、快楽のための殺戮である。
牛乳とは縁遠い存在だ。牛乳の摂取が世界で始まったとき、神々もそれを取り入れた。生きるため、食事のための殺生は命の摂理。肉も魚も、その精霊に感謝して食べる。精霊を和魂たちに預けるために、日本では柏手を打って“いただきます”と言うのである。
「ありがとう!」
蛍丸の温めたミルクには、和三盆が溶かされている。神の世界では、白砂糖の方が貴重で、砂糖と言えばもっぱらこれだ。神事に落雁はつきもので、こちらは供給過多である。よって、これを砕いて入れる。拾えないほどの小さな破片は拾ってはならない。厄を落とすための破片なのだ。
「ん!」
「私は、みゃーこ様にも。道真様に、宿題をせがんでおりましたから」
みゃーこの原動力は学校というものへの憧れだ。学校で起こることは全部経験してみたかった。だが、あこがれは時に苛むのである。
クー子は縁側で
「クー子……どこへもいかない?」
「行く暇がないよ!」
クー子はそう言って笑った。クー子にとっての六年は刹那だ。これまで生きてきた年数のわずか五百分の一である。
だから、そんな短い間で恋をしろなんて無理難題。神は交際期間もべらぼうに長いのである。
もちろん昔は別だ。神々が幼かった頃は、“美人だ、惚れた、結婚だ”などという急展開が多かった。もちろん後から思兼に相性を見てもらったりもする。よって婚姻は長続きするのであるが……。
閑話休題。
だからこそ、クー子は六年ごときでは他に恋する暇もなければ危機感もたっぷりだ。六年の間に
とはいえ、クー子は親のような存在であるわけで、
ふと、他人に嫁ぐ
クー子はわからなくなった。自分が本当に、
よく考えれば
だから今はこう結論づける。“如何にあれども、彼女は我が宝”。
「クー子?」
考え込んだクー子を
「ごめんね! ちょっと、やっぱりクルムは大切だなって思ってただけ」
恋ではないかもしれないが、恋心を向けられて嫌な気はしない。自分の感情を分析すればするほど、嫌とは思えなくなるのだ。
クー子はもういいかと思った。どうせ
「ん……。クー子……大切! 大好き!」
その気持ちが六年後も続くかどうかは、未だ闇中にて朧なり。
「私も大好きだよ!」
ただ、変わらない保証があるのはお互いの愛だけである。形は変わっても、愛があることは変わらないだろう。いつまでも、いくつになれど、母神の、忘れ難しや……である。
その歌は、
不変の愛は誓うまでもない。変えようとすることは無為なのだ。少なくとも、クー子にとってみゃーこも
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