第202話・抗えぬもの
「クルム、クー子様とあまりに近すぎませんか?」
昼食中、みゃーこは言った。
ついでに、幻術メイクも身につけていて、垢抜けた雰囲気もあるのだ。もう、美ロリ狐娘である。その愛らしさは研ぎ澄まされた一矢に例えても良いであろう。
「いいんだよー! 甘えてくれるのもいつまでかなぁ……」
当の甘えられているクー子はそんな一矢に胸を貫かれていた。致命傷、ただし親子愛のそれである。
「ん! ずっと!」
「良し! 婚姻だ!」
「えっと……そういうのじゃないと……」
と思うのはクー子が鈍いからだ。惚れた腫れたの本物は初体験である。
「いえ、そういうのだと思いますよ……」
道真は、静かに食事を続けながら言った。
「女の子は早熟と言いますが、そうですか? 少なくとも、女神同士ですし……」
蛍丸には女性同士の恋は少し特殊に思えた。仕方のないこと、古い器物である。
だが、
恋なんてちゃちなものではないのである。感情の全てをあずけてしまうほどのことである。
「恋は落ちるもの。神の繁殖意欲は薄れた。放っておこうが高天ヶ原には勝手に魂が登ってくる。ならば、繁殖の必要性もないもの。よって、性に関する意識も薄れたのだ」
ゆえに、結婚がジェンダーレス化しただけである。介護問題も発生しない。どこかで子をなせない不安に駆られることもない。本能的な部分が薄れて発生率が上昇しているのだ。
「それ、クルムには関係ないのではありませんか? 天御中主様」
みゃーこはチベスナ顔で核心を突いた。そう、全く関係ないのである。
言ってしまえば、全てクー子のせいだ。
「恋とは落ちるものだ。如何なる神でも抗えぬ!」
「かっこよくないですよ!!??」
これに思わずツッコミを入れたのが道真。
「おぉ! いいな道真!」
厄介なことになった。道真は
「あ、失礼を!」
道真は慌てて頭を下げる。相手は至高神である。
「うむ、その謝罪はその謝罪をしたことへの謝罪と思う事にする! 私は、快く思っているのだ。ほら、こう呼べばいいのだ。みなかっつぁんと!」
斯く言う至高神
和魂であるからして、愛らしくてたまらないのは当然だ。
「みなかっつぁん!」
「ぬはは! 幼子はいつも心地がいい!」
権威者は時に、砕けた態度に飢えるものなのだ。
「そっか……割と親しみを持って接したほうがいいのかな?」
クー子もそろそろ気づいた。
「みなかっつぁんである!」
口に出してしまえば、さぁ砕けろと言わんばかりの顔で
「流石にそれは……。
とはいえ、クー子にはそれが限界である。
「仕方ないのう。つまらんのぅ……」
拗ねる
「では、私は非公式の場ではナカ様と呼ばせてもらいましょうか……」
蛍丸はここで意外にもノリが良かった。なにせ権威の力が強い時代の日本を経験していたのだ。
そして権威者の手に渡り、持ち主の寂しげな顔も見ていた。だから、そう砕ける気になったのである。
「実に、よい!」
その蛍丸の言葉は、
「
みゃーこもみゃーこで、こちらは口調が砕けていた。
「うむうむ! 何ぞ融通してくれよう! して、あとは道真である!」
結局最後に道真だ。この話題は道真が呼んだものである。なら、彼は責任を取らなくてはいけない気がした。
「分かりました。気兼ねなくツッコミます。
それが道真の精一杯だ。ため息混じりにそう言うしかなかったである。
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