第200話・ライバル
放送後になって、道真は震えだした。
「偉そうに語ってしまいましたか!? いえ、偉そうでしたよね……偉そうと思う方がいるに決まっています……」
それはもうガタガタと……。
先ほどリテラシーとして語った内容は、本当に道真自身にも向いていたのだ。偉そうだと思う人は間違いなくいるだろう。逆に言えば、心の底から共感する人間もきっといる。
「うん、リテラシーダメダメって言われてる私だけど、これだけは言えるよ! VTuberなんて噺家さんと一緒! 十人敵を作る間に一人ファンができればそれでもう買っちゃうんだなぁ! そもそも私たち神! 特定されたら、
言葉は悪いが、水商売である。お客さんの気まぐれで収益など容易く変わる。例えば、日本人全員が見たとして、十人に一人、いや百人に一人がファンになったとしよう。それだけでチャンネル登録者数は百万を優に超える。
更にである。その中に低確率ではあろうが、スーパーチャット上限突破勢が現れるとする。すると、上限突破用のアカウントでもチャンネル登録を行うだろう。
あら不思議、たった1%の味方で百万を優に突破してしまった。水商売など、そんなもんである。
「クー子様……」
道真はクー子に驚いたような顔を向けた。
「な、なに!?」
クー子はポンコツであるときと、そうでない時の落差が激しい。よって、慣れていない者は驚くのである。
「クー子様自身、VTuberではなくUtuberなのに、核心ばかりわかってらっしゃるんですね……」
そうなのである。クー子はようやく指摘された。彼女はVではない、モデルをかぶっていないのだからUtuberなのである。
ただ、核心ばかりわかっているのは本当だ。クー子は暴言を吐くことがそもそも稀である。視聴者数という数字の向こうにしっかりと人間を見据えて、だからこそまるで面と向かって話すように捉えている。
「え!? 私VTuberじゃないの? だって、尻尾生えてるよ! 耳も!」
とはいえ、表面的な部分への理解は割とふわふわしているのがクー子だ。所詮水商売、大切なのはお客さんの気分を掴むこと。すなわち、心の話である。
戦略なし、理解もふわふわ。そんな状況でも人気を伸ばしつづけることができたのは、最も基本的にして突き詰めれば奥の深い部分ばかりではあるが、そこに長所を持てたからである。
「とはいえ、説明も難しいですね。モデルと言ってもピンときませんでしょうし……。それに、クー子様はVTuberを名乗り続けるべきでもありますし……」
道真はそれでも苦悩していた。それら全てに理由があるのだが、クー子には説明しても理解するための前提知識がすっぽり抜けている。
むしろ、前提知識だけが抜けているのだ。
「うーん……道真くん賢いからなぁ……。信じるよ!」
とりあえず、道真の有能さを今日一日見せつけられたクー子にほかの道はなかった。
「そのうち必ずご説明いたしますから。そうですね、いくつか動画のURLをLinneで送ります。それを見ていただけば、説明も容易ですからね」
これに関しては、道真自身も視覚的に教えたほうが早いと思ったのである。話だけ聞いていてもきっと上手く想像できるものではないだろうと。
知識がふわふわのクー子が、そのまま放送してしまったからめんどくさいことになっているのだ。しかも、人化がまだ上手くない時期に……。
「ありがとう! 私もしっかり勉強するね!」
そんな二人の間に、わずかばかり沈黙が流れた。
その沈黙の間に、道真は感じたのだ。
だから道真は安心して知っていることを語ることができる。
「……なんか、安心致しますね」
それに加えて、クー子も道真を頼りにしている。きっとうまくいく夫婦とはこうなのだろう。やはり、神々の仲人は優秀だ。
「ふふっ、なにそれ?」
いい雰囲気が知らぬ間に漂っていた。
「何でもありませんよ。ただ、
こうなるだろうと見抜いたのは
「そっか……。じゃあ、私はみんなのところに行くね。道真くんは?」
途中で蛍丸を昨日のように拾うだろう。そして、コマ達と一緒に眠るのだろうとクー子は思った。
「私は帰ります……。そして、明日は午前中にお二人用の教科書を作らねば」
身を引いた。なれど、もしもそうであれば
誰もあずかり知らぬまま、
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