第198話・神授業Part0

 その日、クー子は道真から授業を受けることで道真の放送を宣伝することになった。


「こんこんにちはー! 今日は細道奥助ほそみちおくのすけっていう知り合いUTuberさんが私にインターネットに関する授業をしてくれます。実は、奥助おくのすけ先生は教員免許を持っているすごい人! 私学を建てたくて、クラウドファンディングを始める準備としてこれから放送をするそうです! 知り合いだし、宣伝に協力させてね!」


 今日のクー子は苦笑いである。たった一日でインターネットに関する知識を十分に集めてしまった道真は、クー子にとって面白いとは言えないのだ。

 とはいえ、苦手とまではいかぬのが和魂にぎたまである。一日で集めたその能力には、心の底から敬意を払っていた。


 ちなみに、道真の教員免許だが、神倭かむやまとに申請することになった。またしても権力ゴリ押しである。とはいえ、道真は教員に必要な知識程度であれば全て持っているのだ。


「こんにちは、奥助おくのすけです。あ、皆様ご安心くださいね。私、妻帯者です」


 それは嘘であるが、クー子の持つ属性を維持するには必要だ。男の影は見せず、でも百合を僅かに匂わせている。それが今のクー子である。


マジコイキツネスキー大佐:教員免許持ってて、嫁がいるだと!? クソがっ!

オジロスナイパー:良し、馴れ初め語れ! 俺はラブコメに飢えてる!

コサック農家:ヲタには二種類いる。嫉妬に狂う者、そしてラブコメに飢える者。俺は……後者だ!

ナギちゃ★:素敵です!

そぉい!:男性は男性同士、女性は女性同士で恋愛すればいい。妻などけしからん!

ヨハネ:天使様の学府ですと!? いくら出せば良いのです!?

まっちゃんテンプリ:出資よろしいでしょうか?


 今日はキツネスキーの考察が炸裂しなかった。それどころか、クー子の関係者を神としっかり認識している人物もいて、それらはもはや無条件に出資する気満々である。


「私と、私の妻は、お見合い結婚です。田舎でしてね、お見合いの文化が残っているのです。お見合いと聞くと、皆様あまり良く思われないかもしれません。ですがね、これが存外にいいものなのです。私を育ててくれた方々が、私と相性のいい方を見繕ってくれました。結婚してみると、これが幸せなことだったりするのですよ。仲人をしてくれた方が、地域一の知恵者だったもので」


 道真はそう言って、わざと照れくさそうに笑った。情熱的に語り、そんな笑みを浮かべる。それは幸せそうな様子を演出していたのだ。

 そう、演出である。道真は本当は未婚だ。クー子と一度縁談を組まれたが、お互い若すぎるという理由で見送られていたのである。神々の感覚を人間の感覚に無理やり変換させると、13歳頃の子供を結婚させる感覚だ。厳密には違うが、似てはいる。


マジコイキツネスキー大佐:田舎行ってお見合いしようかな……。

ヨハネ:仲人様はメタトロン様では?

オジロスナイパー:仲人が上質だと、お見合いって普通にアリなのか!?

ナギちゃ★:自由恋愛優先で、お見合いも視野に入れるのは、普通にアリと思いますよ。婚活マッチングAIの代わりに、家族が相手を探してくれるようなものです。現代ですと、家同士のお付き合いが少ないので、難しくなりましたけど。

そぉい!:なるほど! マッチングアプリってお見合いみたいなものか!


 マッチングアプリとお見合いはあまり変わらない。AIか人か、たったそれだけの差である。

 もちろん一般的な企業がそれを作っている場合もあるが、恋愛と性の産業には古くより暴力団が絡んでいることがある。暴力団根絶を目指すのであれば、お見合いの方が健全と言うこともできなくはないのである。


 ただし暴力団のような組織構造にも利点があることは否定できない。独裁に近い状態を作ることで、フットワークを軽くしている。独裁は、効率だけ見るのであればとても良いのだ。


「そうですね! とても似ていますよ! さて、皆様閑話休題! 本日はインターネットを私奥助が一日で学んでまいりました! インターネットを駆使しながら。よって本日の授業内容は皆様既にご存知のことが多いと思います。よって、おもしろおかしく話せているかどうかが浮き彫りになると思います!」


 インターネットネイティブである現代人に比べれば、道真は少し劣る部分があるだろう。だからこそその授業なのだ。

 知っている知識をなぞるような話を聞いていて楽しければ、それは話し方自体が優れている事になる。


「奥助くんすごいんだよ! 最初は私が教えてたのに、途中からどんどん自分で勉強しちゃって教えることがなくなっちゃったの!」


 クー子にとって少し不名誉ではある。だが、それ以上に道真にとって名誉なこと。

 自分がポンコツ系キャラクターと自覚しているクー子がそれを言うに、何をためらうことがあろうか。


チベ★スナ:さすがポンコツ。一日で超えられてて草生えますね

マジコイキツネスキー大佐:それでこそ俺たちのクー子ちゃん。


 そのポンコツさ加減も含めて愛されているのだ。

 ただそれはそれとして……。


「誰かポンコツを否定してくれてもいいじゃん!!!」


 クー子は嘆き叫ぶのであった。

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