第196話・道真くん皆伝

「はい、ではネットを使う上で最も重要なことをお話します! それは言語化能力です! 疑問を言語化して、文章化できれば、なんでも教えてくれる先生がネットには潜んでます。多分、和魂です」


 神特有の解釈がようやく言語化された瞬間だった。クー子はGogglesや

Yeahoo!といった検索エンジンを擬人化ならぬ擬神化して理解しているのである。


「なんでも教えてくれる!? 是非その方にお会いしたいです!」


 道真は、リテラシーガバガバクー子からレクチャーを受けている。


「私も会いたいけど……多分、姿をまだ決めてないんじゃないかな? 調べても、それっぽい画像が出てこないの」


 そんな神などいないのである。それは人間がネットという膨大な情報の海から、目的の情報を見つけるための道具である。姿があったらそれこそびっくりだ。


「残念ですね……。して、どのようにその方にお尋ねするのですか?」


 道真は訊ねた。会えないのは残念であるが、もし姿があったとしてもそんな神であれば忙しいだろうと思ったのだ。


「ネット術式使うと、上の方に新しいタブって見えない? ほら、ここ」


 クー子はわかりやすくするために、板を空中に投影して見せた。


「はい! これですね!」


 道真は、見て理解する。


「その下の……ここ、ごちゃごちゃ書いてあるでしょ?」


 クー子のインターネット術式は、最初から陽のUtubeチャンネルのURLが検索欄に入力されている。そうしないと使えない神々がいっぱいいるだろうと思ったのだ。


「アルファベットですよね! 英語とは文法が違いますが……」


 道真もアメリカやイギリスなど英語圏にもたまに出張する。よって英語も堪能だった。とはいえURLというの、ネット上の住所のようなもの。普通の言語知識では解釈が不可能なのである。


「これはね、私にもよくわかんない! でね、ここを消して、代わりに質問を入れるの。あ、敬語とか入れても先生は読んでくれる時間ないから! 端的に知りたいことを書くの。例えば、Utube、配信、方法!」


 そしてクー子は検索をかけた。すると出るわ出るわ情報の数々。必要なソフトウェアやカメラのセットアップなどなどである。


「なんと便利な! これがあれば、その時生徒の質問の答えをど忘れしてもすぐに調べられます!」


 と言っても、神々の保有する情報のかなりの部分はネットに存在しない。だが、祝詞程度なら出てくるのである。


「あ、ごめん。術とかは載ってない……。人間の知識の大部分がここにあるって感じ……」


 そう、出てくるのは人間が知っていることだけである。一応人間の術が載っていたりもするが失われた秘伝なども多く、神にとっては習得済みのものばかりだった。


「なるほど! だいぶ勘所かんどころが分かってまいりました! では早速、試しにその先生に色々ご教授頂いてみます!」


 道真の習得速度は早く、そして言語化能力も優れたものだった。なにせ日夜生徒の疑問に答えるのがかれの仕事なのだ。言語化はもはや、専門技術の領域である。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 しばらくインターネットを活用し、道真は情報を集めていた。放送において失敗しないために必要であろう情報や、人の世の法律なども含めて。

 道真は、勉強自体もめちゃくちゃ得意なのである。学問の神ここにありだ。ただ、その勉強の中で道真は気づいたことがあった。


「クー子様……あなたもしや、このリテラシーなるものが……」


 道真はいつの間にかクー子を超越していたのだ。


「え……えっと……ナンノコトカナァ?」


 神は始めてインターネットを一から学んだ。それはその世界に、体系的な知識を求める神が参入したからである。


「勉強しますよクー子様! インターネットは恐ろしいところのようです! まずは、過去の放送なども見て、クー子様に足りない部分を見定めねば!」


 クー子は少なくとも稲野とうのに住んでいると公言してしまっている。個人情報が流出しているのだ。


「うわぁーん、道真くんの成長が早すぎだー!」


 嘆くクー子であるが当たり前である。なにせ相手は学問の神だ。こと学ぶことに関してはこの高天ヶ原たかまがはらでも上位なのだ。

 しかも蛭子ひるこ神族である。商人は情報の獲得こそ命。蛭子命ひるこのみこと直々にだいぶ鍛えられている。クー子のような天才肌とは違い、元々存在する知識に頼らざるを得ないがゆえの特技でもあったのだ。

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