第191話・い つ も の
「うん! ただいま!」
クー子はそう言って、カメラに向かって微笑んだ。
オジロスナイパー:しかし、設定に準拠する行動が秀逸だよね。そもそも
そぉい!:クー子ちゃんが放送休む前、その情報はなかったはずだよね?
まっちゃんテンプリ:そこはほら……我々の占星術で! ちょうど星の巡りが良かったのです!
マジコイキツネスキー大佐:ウソだゾ! 絶対その大社に住んでるゾ!
クー子はまたしても冷や汗をダラダラと流した。
「そ……ソンナコトナイヨー!」
だが、周囲はクー子のその様子が大好物なのだ。クー子に残された道は、ただ餌食にされるのみである。
チベ★スナ:棒読みってことはやっぱ住んでるんすねぇ……。神★乙
まっちゃんテンプリ:おやめなさい! クー子様が放送なされなくなったらどうします!
コサック農家:ここまで畏まった言葉を使われるってやっぱり神なんすねぇ……
一般視聴者たちは、魔術師たちを仕込みと考えている。彼らが存在することで、この世界感が保たれているのもまた事実だ。
また、彼らにとって、クー子の棒読みはフリである。“さぁ、ここがイジりポイント!”とでも言うように感じているのだ。
「違うもん! 自分のこと神と名乗ってる一般VTuberだもん!」
否、クー子は自分のことをVTuberだと思っている精神異常神である。
複雑だからとことんイジることができる。それが楽しくてたまらない視聴者たちにどんどんと餌を与えてしまうのだ。それも、全て無意識に。故に視聴者たちは没入感すら感じていた。
マジコイキツネスキー大佐:なるほどなぁ。平安パフォーマーたちは、実は神々で、あれはパフォーマンスじゃなくてガチ。クー子ちゃんはそこで多分功績を上げた神様なんだよ。だから放送できなかったし、大社級の神社を立ててもらった。建設といえばやっぱ猿田彦神?
またしても、マジコイキツネスキー大佐のピンポイント考察が炸裂する。事実その通りだ。
“って設定なのであろうことを察しました”という意味なのだが、クー子にそれを知る由はない。
「違うよ! 私便乗一般人!」
そこに、クー子にとって最悪の情報が降りかかってきた。
コサック農家:https://tbuyaitter.com/xxxxxx/xxxxx なんかクー子ちゃんっぽい写真上がってるけど!
オジロスナイパー:うっわマジじゃん! ご本人様じゃん! え!? てかまんま過ぎん?
チベ★スナ:ついに正体表したわね!
という仕込みが、クー子の放送開始直後からあったのだろうという視聴者の予想だ。耳と尻尾の謎に関しては、スルーの方向性である。
というのも現代は技術革新の連続で、プログラマなどは3ヶ月一昔と言ったりする。故に、知らないうちに謎技術が開発されても別に不思議はないのだ。
「これは……えと……えと……。そう! コスプレイヤーさん! この人は専属のメイクさんまでいる人で、すごく再現コスプレが上手なの!」
だとしたら、めちゃくちゃな金が掛かっている衣装である。ちゃんとした水干はレンタルでも馬鹿にならない値段がするのである。
しかも使われている布も上質。加えて謎にリアルな耳と尻尾。総額幾らになるか想像すら許されないコスプレセットである。
マジコイキツネスキー大佐:待て? ガチでは? こんな衣装どこで買える!? コスプレにしては、衣装が上質すぎるぞ!
そぉい!:このコスプレセット
普通コスプレでは革の代わりにフェイクレザーが用いられたりするのだ。そのせいで特有の安物感が出てしまう。クー子の衣装にそんな安物感があるはずがない。なにせ、本物なのだ。
「あの……あ! 和服同好会に水干を作ってくれる人が居るの! その同好会で一番の美人さんに頼んだの!」
あながち真っ赤な嘘ではないのだが、本当でもない。
チベ★スナ:※という設定で本当は神です
コサック農家:和服同好会(神界)
オジロスナイパー:なるほど、じゃあ作ってくれる人は織姫だったりして。じゃあメイクは彦星?
マジコイキツネスキー大佐:いや、そこは前に名前が上がった天細女様だろJK!
織姫までほぼ正しかったのだ。間違いの部分はクー子が化粧を自分でやっていたこと。専属メイクというクー子のフェイクにまんまと視聴者は踊らされていた。
だが、踊らされたとしてもだ……。
「チガウノ!
クー子は主張する。視聴者にとってこのややこしい設定が楽しくて仕方ない。
視聴者たちの解釈はこうだった。
オジロスナイパー:よし、俺も考察してみる! 稲野市を中心に神々が和服同好会を名乗って活動してるんだ! いや、違うな……。人間に見られたら、神々は和服同好会を名乗って誤魔化す感じだ!
大当たりである。ただし、絶対に視聴者がコメントしない部分として“という設定でVTuberをやってくれている”というのがある。
だが、クー子はヒヤヒヤだ。いつかバレる気がして仕方がない。
「もう! みんなそうやって私をいじめるんだ! もう放送終わり!」
クー子はその日、放送を突然終えたのである。それがまた、視聴者たちに没入感を与えてしまうのは別のお話……。
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