第179話・越境
早速、工事は始まった。
なにせ
普通の付喪神はそうなのだ。道具として使われる間に微かに宿る意思なんて、役に立ちたいというものだけだ。なにせ、それは道具なのであるから仕方ない。
ただ、ちょこまかと走り回る
コマ二人組に、人間二人組は、神楽の練習中だ。
そんなわけで、神組はあぶれてしまった。特にクー子は痣が深いもので、まだ安静を心がける必要も多少はあった。
「さ、クー子や! お前の、術をちょこっと学ばせてもらってな。ほれ!」
と、
『続きましてのニュースです。先月話題になっていた、平安時代風の装束をまとったゲリラパフォーマーの目撃報告が全国で途絶えました。ツイッターなど各種SNSでこれを嘆く声が上がっており、ゲリラパフォーマー達の帰りが待ち望まれています。また、一部では、このパフォーマーたちを神であると崇める声も上がっています』
そう、それはテレビだったのである。やはりおじいちゃんといえばテレビなのだ。それは、宇宙
『いやね、すごいんですよ! あのですね、パフォーマーの多くが着ている服、水干って言うんですけどね! 神社とかで、神主さんが着てる奴。それで私も一人おはなしする機会があったんですけど、すごく上質な布だったんですよ! なんでしょう、日本の昔の文化を取り戻したいっていう人たちなんですかね? 見た目、結構若いんですよ。でも、喋ってみるとものすごい年上と喋ってる気分になりました。私も帰ってきて欲しいです!』
神々が現し世で妖怪退治をしていたことを、人間たちは自分たちの常識に落とし込んでいた。そのおかげで神バレがかなり防げている。だが、どうしても一部気づいてしまった人々はいるようだ。
ものすごい年上としゃべっている気分は正しい、実際若手でも普通に百歳を超えていたりする。水干だって、とても上質な布で間違いない。現し世に存在しないほど上質だ。
「うーむ、便利であるな……。さて、こうなっては仕方ないか……。もう、神であるとバレても良いことにしよう! 各自自分の判断で神を名乗るようにと、するか……」
再度境界を引くことはできるだろう。でも、せっかく
「「いいんですか!?」」
クー子も
「うむ! 気づく者も多かろう。だが、さりとて喧伝するは良くないぞ! わかるものにだけわかるようにを心がけよ!」
でも、
『え!? 申し訳ございません、放送は一旦待って欲しいそうです。また、お伝えできる機会があればぜひ、お願いいたします。さて、次のニュースです……』
テレビは情報を垂れ流す。それがテレビのいいところである。能動的に求めなくても、ずっと発信を続けてくれるのだ。
一度は地に落ちたマスコミの信用度、それは近年回復しつつある。インターネットを駆使する若者が、テレビ局に流入したことがきっかけである。
「む!?
「えっと……」
クー子は、人間側の事情にとても疎い。つい最近まで人嫌いだったのだ、仕方がないのである。
「クー姉さま、
だから、
「あ! なるほど! 花ちゃんありがとう!」
なんて、クー子に言われた日には、
「クー子様、もうすぐ薬膳が出来上がります」
帰ってきて早々、社の台所は蛍丸に再度征服された。すっかり、料理長なのである。
この蛍丸が夕食ができることを告げてくれる言葉は、クー子をひどく安心させたのである。
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