第177話・神職驚天

 そして、クー子たちは自分のいつもの社に戻った。

 するとそこには、クー子と関わりの深い人と神がいたのである。


「「けまくもかしこき、稲荷駆兎狐毘売いなりかけうさのきつねひめ大前おおまえにに、かしこかしこみもうもうさく。御魂みたまあつひろきき、恩頼ふゆよりて……」」


 声を合わせて祝詞を唱えるJK陰陽師と巫女を後ろから見た。この状況は、そうそう遭遇できるものでもなく、クー子はニヤニヤとしながら二人に後ろから声をかけた。


「よきにはからへー」


 二人が拝んでいる対象は、今背後にいたのである。


「「ふぇ!?」」


 素っ頓狂な声を出す神職二人組。うち、陽はすぐに気を取り直した。


「急に声かけないでくれよ! 安倍晴明が出しちゃいけない声出ちゃっただろ!」


 今生の陽の声はだいぶと可愛らしい。口は悪いがソプラノボイスである。だから、安倍晴明がそんな声を出したと歴史家が知ったら、同じような声を上げるだろう。だが、にあっていたのである。


「クーねぇさま! 聞きました! 主神になられたとか!」


 新たな主神が生まれた場合2時間もしないうちに、すべての神が知っていると思ったほうがいい。当然花毘売はなひめも、男命をのみこと経由で聞いていたのである。

 花毘売はなひめは引率の先生ならぬ、引率の神様をやっていたのである。


「うん! これからは正一位。名前が変わって、駆兎稲荷狐毘売かけうさいなりのきつねひめになったよ! 結局クー子なの変わんないね」


 そうなるように、天御中主あめのみなかぬしが配慮したのである。また、稲荷から派生した神族であるということを示すために稲荷が名に含まれているのは、宇迦之御魂うかのみたまの嘆願によるものだった。

 ほとんどこれまでどおりであり、それでいて主神と示せる。そういう状況を、上位の神々が考えてくれたのである。


「はわわ! 神話が……」


 神凪かんなぎはおったまげていた。どうやら神話が一ページ書き加えられたようなのだ。ともすれば、宮内庁に伝えなければいけないようなことである。もちろん、ただの巫女でしかない神凪かんなぎにそんな権限はない。

 そう、胡散臭い組織のトップであることと神通力を持っていることと神に育てられていること。それだけが、神凪を特異な巫女にしている要素であり、立場は一般巫女である。


「あきらめろ……。クー子さん、軽率に神話動かすから……」


 神階を転がり落ちたり、駆け上がったり。クー子は本当に忙しい神である。それでいて、本当に歴史の変わり目に勇気を出した神である。

 だから陽からしたら、たまったものではない。


「まぁ、クー子様でございますしね! あ、満野狐みやこは仮ですが従一位を賜りました。大初位の予定だったのですけどね……」


 みゃーこも神階をすっとばしすぎである。そもそも、最初に任命される神階が大初位でも一つ飛ばしているのだ。


「超越神階……」


 渡芽わためも悪ノリをした。よりにもよって、一番ヤベーやつである。


「マジか!? ……もしかして、蛍丸さんも?」


 陽は嫌な予感がした。


「いえ、私はひとつ上がって、従八位です」


 とはいえ、蛍丸も社を任されるにふさわしい神階である。


「でも上がってるのな……」


 なんだかんだ、全員上がっているのである。


「超越神階って……天照大神あまてらすおおみかみ様と同じ……」


 神凪の言うとおりである。なにせ、渡芽わためは三つの神族から身内認定されているのだ。稲荷、駆稲荷、大孁である。ヤベー神此処に極まれりである。


「ところで、その……お体は?」


 花毘売はなひめは、クー子と渡芽わための体に刻まれた痣を見て不安になった。

 もちろん人間やめかけ二人組も気になってはいたのだが、色々ありすぎて機を逃していたのである。それになにより、クー子が元気そうに話すのがいけなかった。


「あぁ、私アバドンの神通力取り込んじゃって……」


 渡芽わためのも取り込んだのだが、それは言わない。渡芽わためを傷つける可能性にクー子は敏感である。


「道、進んじゃった……」


 渡芽わためは悪に属する道を進んでしまった。


「それは! 大丈夫なんですか!?」


 アバドンは、すべての神が知っている。


「うん! 高御産巣日たかみむすび様に治療してもらったから!」


 と、言われれば花毘売はなひめは胸をなでおろすのであった。初代神医、その腕に不安を覚える神は居ない。


「今、さらっとすげー名前が……」


 高御産巣日たかみむすび、有名な造化三神の二柱目。つまり、宇宙開闢の神である。


「あ、高天ヶ原に天御中主あめのみなかぬし様もいるよ!」


 クー子は後に、クー子の社に現れる至高神についても触れておくことにした。


「ひえええ!?」


 神職にとって洒落になっていないことである。


「あれ? 葵たん!?」


 花毘売はなひめはようやく気づいた。神凪は少し前からずっと目を回しっぱなしだったのである。

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